第34話 その後の二人<アリシアの不安>
その日アリシアは朝から息子のクラトスを乳母に預け、王城へ向かうための支度を進めていた。
今日トウ国から第3王女が来国する。
到着当日ではあるが王への謁見の時間が設けられ、そこに主な高位貴族は参加するよう申し渡されていた。
当然公爵家であるルーカスとアリシアも参加予定だ。
「たしかディミトラ皇太子妃殿下はご欠席されるのよね?」
「ああ、そうだ。どうやらあまり体調がよろしくないようで、ニキアス殿下が大事を取って休ませるとおっしゃっていた」
おおよその支度が終わり、王城へ向かうための時間調整もあってルーカスとアリシアはお茶を飲んでいる。
「王女のお相手をすると言っていたけれど、具体的には何か決まっているの?」
「いや、まだ詳しくは。王女の意向も確認してからになると思う」
「来国もわりと急だし、詳細を詰める前にみえるなんて、何かあるのかしら?」
「どうだろう。そこら辺は追々探っていくことになるだろう」
状況のわからないまま話していても埒が明かないと思いつつ、アリシアは何となく不安でルーカスに問いかけるのをやめられなかった。
黒髪黒眼のトウ国の王女。
ロゴス国の王都ではトウ国人を見かけることは少ない。
ルーカスは騎士団に所属していたから自国以外に行くこともなかったため、トウ国人に会うのは初めてだろう。
(自分と同じ黒髪黒眼の女性を見て、何か特別に思うことはあるのかしら?)
アリシアの心を幾許かの不安がかすめる。
もちろん、ルーカスを疑っているわけではない。
それでも、ルーツというのは抗い難い郷愁を呼び起こしたりしないだろうか。
「アリシア、私はニキアス殿下から申し渡された依頼をこなすだけだよ」
だから、何も心配することはない。
言外にそう言ってルーカスはアリシアを見つめる。
以前に比べて、ルーカスはこちらの気持ちや周りの者の気持ちを考えられるようになってきたと思う。
そして言葉を惜しまなくなった。
いつだって、一番大事なのはアリシアとクラトスであると、事あるごとに言葉でも行動でも伝えてくれる。
(そうね。理由もなく不安を抱えていても仕方ないわ。私は私らしく、ディカイオ公爵夫人として振る舞えばいい)
アリシアがそう心を落ち着かせたところで、ちょうどタイミングよく馬車の用意が整った。
アリシアはルーカスにエスコートされて馬車に乗り込む。
こうして、わずかな不安を抱えたアリシアを乗せた公爵家の馬車は王城へ向かったのだった。
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