第33話 その後の二人<トウ国の姫>

「トウ国の王女ですか?」

その日ニキアスの執務室で聞かされた話に、ルーカスは思わず聞き返していた。


「そうだ。3番目の姫ということだ」


トウ国はロゴス国の隣のイリオン国の向こう、海を隔てた先にある国だ。

ルーカスにとっては祖母の出身地でもある。

ルーカスの祖母はトウ国からイリオン国に第2妃として嫁ぎ、そして母はイリオン国の第2王女としてロゴス国に嫁いできている。


「その王女が勉学と交流のためにしばらくロゴス国に滞在することになった」


第3王女は現在17歳。

年齢的には学園に通う年である。


「王都の学園に留学されるのでしょうか?」

「いや、そこはまだ調整中だ。留学生として学園へ通われるのか、それとも学園へは通わずに学ばれるのか。向こうの意向とすり合わせて決めることになるだろう」


ニキアスは国同士の交流はあった方が良いと思うタイプではあるが、今回の話は比較的急に出された話らしい。


「それにしても、イリオン国ではなくロゴスへというのはわりと珍しいですよね」

ルーカスの言葉に、ニキアスはつかの間思案げな顔になる。


イリオン国は海を挟んでいるとはいえトウ国とは隣国の関係だ。

その点ロゴス国は一つ国を挟んだ向こうなので珍しいといえば珍しかった。


「イリオン国には第1王女が留学するらしいぞ」

「もしかして、各国にそれぞれ王女を留学させるのでしょうか?」

「どうだろうな。そこはまだわからないが…とりあえず断る理由はないので受け入れる予定だ」


最近は昔に比べてロゴス国内でも商人の多い地域ではトウ国人を見かけることも増えてきた。

とはいえ、まだまだ珍しいといえば珍しい存在のはずだ。


トウ国人は基本的に黒髪黒眼なため見ればすぐにわかる。


「王女には王宮で過ごしていただくことになるが、当然王宮内にトウ国人はいない。外務大臣に王女関係の人事は任せているが、気をつけないと王宮内の古狸たちに遭遇して不快な目に遭うかもしれない」


相手は王女であり、仮にこちらが高位貴族であったとしても位は王女の方が高い。

しかし、年配であればあるほどトウ国人に対してマイナスイメージを抱いている者は多いし、非を問えない形で嫌味を言う者もいる。


「ルーカス公はすでに騎士団から退いているから護衛として配置するわけにはいかないが、トウ国にルーツを持つ者として王女の相手をしてもらうことがあるだろう」


そこでニキアスはいったん言葉を切った。


「トウ国側の意図がはっきりしていないのが気になる。ただの学びと交流であればいいが、それ以外の目的がないかどうかを探ってくれ」

「承知いたしました」


そう答えると、ルーカスはニキアスの執務室を辞した。

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