第32話 その後の二人<アリシアの考え>
「私がニキアス皇太子殿下のお心を推察するなど恐れ多いこととは存じますが…殿下はディミトラ皇太子妃殿下を大変大事に思っておられると思います」
アリシアの言葉をディミトラは黙って聞いている。
「妃殿下は、殿下の以前のご婚約者様とご自分が正反対の性格だということを気にされてみえるのでしょうか?」
「それは…あるかもしれないな。昔からニキアスは可憐な令嬢を好んだ。私とは正反対だ」
それでも、好みと実際に好きになる人が違うタイプというのはよくあることだ。
もしかするとニキアスはディミトラがそんなことを気にしているとは思ってもいないのかもしれない。
「私はこの世の中に普遍なものはないと思います。人と人との関係は良くも悪くも変化するもの」
一息入れて、アリシアは言葉を続ける。
「妃殿下と殿下はこの5年を夫婦として共に過ごされております。僭越ながら、お二方のご様子を拝見させていただく限り、お子様がお産まれになればさらに良いご関係になるのではないかと考えます」
「つまり、ディミトラ様のご心配は杞憂に終わるのではないかと思っております」
そこまで言って、アリシアは言葉を切った。
どれだけ言葉を重ねようともディミトラにその気がなければアリシアの言葉は届かないだろう。
それでも、アリシアが見る限りディミトラもどこかでわかっているのではないかと思うのだ。
ただ、心に巣食う不安はできるだけ吐き出してしまう方がいい。
「本当はその不安をニキアス皇太子殿下にそのままお伝えになるのが一番よろしいかとは存じますが」
「ニキアスは呆れないだろうか?」
「もしかすると、そんなことに悩んでいたのかと意外に思われるかもしれませんね」
小さく微笑んでアリシアは言った。
男と女では考え方も捉え方も違う。
たとえどれだけディミトラが男性的な言動や行動をとっていたとしても、根本が違うのだ。
特に今は精神的にも不安定になる時期。
「妃殿下、不安を感じたままではお腹のお子さまによろしくないと思いますわ」
アリシアの言葉にディミトラが反応する。
「そうか。妊娠中の母親の気持ちが腹の子に影響すると聞くな」
「そうです。なるべくストレスなく、ゆったりとしたお気持ちで過ごされるのがよろしいかと」
「アリシア夫人と話していて頭の中が整理された気がするよ」
今日最初に会った時よりもディミトラの顔色が幾分良くなっているように感じられてアリシアはほっとした。
「今度は子どもと共に来るが良い」
「よろしいのですか?」
「ああ。楽しみにしている」
こうして、ディミトラとアリシアの初めてのお茶会は幕を閉じた。
今後自分が何度もこの部屋に通うことになるなど、この時点ではアリシアは知る由もない。
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