第27話 その後の二人<ルーカス、指導される>

「ところで、テリオスは最近どうしている?」

ニキアスの口から急に甥の話題が出てルーカスはしばし動きを止めた。


考えたのは一瞬で、すぐに入れられたばかりの紅茶を一口飲む。


「以前ご報告した通り、公爵領の別邸にて問題なく過ごしております」

「王都に来るのは3歳以降というのは変わらずか?」

「はい。それがカリス小伯爵との約束ですので」


カリス小伯爵というのは言わずと知れたアリシアの兄だ。


アリシアの3歳上の兄、セオドア・カリスは現在ロゴス国の隣国、イリオン国にいる。

カリス領が農業を主とした領地経営をしていることもあり、農作物の研究のために留学していた。


基本的に何ものにも縛られたくない自由人のセオドアは両親が許すのをいいことになかなか帰国しない。

ただ、人一倍カリス領を大事に思っていることもたしかで、彼の研究はカリス領の農作物にかなり生かされていた。


「カリス家の面々は総じてルーカス公に甘すぎると思っていたが…セオドア卿は違うようだな」


ニキアスが何を言いたいのかを察し、ルーカスはいささか情けない顔になる。


「セオドア殿は普段はのらりくらりとした感じですが、実際はなかなか厳しい性格ですよ」


幼少期にはルーカスとアリシア、そして弟のイリアが一緒に遊ぶのをセオドアが根気よく見守っていた。

彼はその頃から冷静で年より大人びていたし、年下3人が悪いことをしたら叱るなど、ルーカスにとってはもう一人の兄でありいつまでも頭が上がらない相手でもあった。


そのセオドアが、ルーカスの一連の対応に怒り殴り飛ばしたことは記憶に新しい。


そもそも、ルーカスとアリシアの結婚式にはセオドアも参加する予定だった。

しかしその当時彼のいた地域というのがイリオン国の中でもトウ国側、つまりロゴス国からは一番遠い地域だったのが災いし、結婚式までに帰国が間に合わなかったのだ。


そのため、セオドアとの再会は結婚式後に公爵邸でとなった。


「ルーカス、事の詳細は聞いた」

どちらかといえばいつもほのかな笑みを浮かべていることの多いセオドアにしては珍しく厳しい表情をしており、その時点でルーカスの背には冷たい汗が流れた。


「お前はアリシアの気持ちを考えたことがあるのか?」

ルーカスはいつだってアリシアを一番に考えている。

だから最初はセオドアの言っている意味がわからなかった。


「お前が悪気なくアリシアを苦しめたことはわかった。だがアリシアは私にとっても大事な妹。たとえお前にそのつもりがなくても、アリシアを傷つけたことは忘れるな」


ため息をつきながらそう言って、


「とりあえず殴らせろ」


セオドアにしてはとても珍しく、拳で指導された。

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