第14話 剣術大会<5>

剣術大会は参加者50名で行われるトーナメント戦だ。

騎士団所属の者はシード扱いとなっており予選の義務付けはないが、傭兵や平民の参加者は予選から勝ち上がってくる必要がある。


騎士団40名に対して傭兵や平民は10名。

予選から勝ち上がって参加するにはなかなかに厳しいトーナメントといえた。

逆にいえばそこで勝ち上がってきた10名はそれなりの実力者であり、場合によっては大会後に騎士団へとスカウトされることがある。


そういった将来的なことを期待して参加する若者たちも多く、王家主催の剣術大会は数多くある大会の中でも人気を博していた。


試合は50名が25組に分かれ、午前中に上位16名まで絞られたあと途中に休憩を挟んでから準々決勝以降が午後に行われる。


使われる武器はサーベルと決まっており、大会側から各自に貸し出されるため各々の武器を使うことは禁止されていた。

これは貴族と平民では用意出来る武器に差が出るため、そこの不公平をなくすための対応策だった。


初戦を控え、ルーカスは会場の隅でサーベルを手に取る。


そしてふと、思い出した。

小さな頃からルーカスの遊び相手といえばカリス家の兄弟だったが、彼らはあまり武術に興味がなかった。


反対にルーカスは昔から武術関係に興味があり、かつ素質もあったためにわりと幼い頃から訓練を始めていた。

その相手の多くをニコラオスが務めてくれており、剣もまともに振れない頃から訓練につき合ってくれたのもニコラオスだ。


剣の思い出にはいつでもそこに兄の姿があった。


それでもいつからだろうか。

ルーカスは本気で剣を振るうことを止めた。

もちろん不真面目になったわけでも、鍛錬を止めたわけでもない。


ただ、自身が本気で剣を振るうことがもたらす不幸を考えてしまったから。


軍部を統括するディカイオ公爵家。

当然、そこには純粋なる強さが求められる。

特に当主は家門の中で最強であるべきだと言われていた。


公爵家の正統なる後継者ではないルーカスに、ニコラオスを超える武術の才は求められていないということ。


きっとニコラオス当人はあまり気にしていなかっただろう。

彼はそんな些細なことを気にすることなく、ルーカスはルーカスの得意な分野を伸ばせばいいと言ってくれたから。


いや、それとも兄も心の中では葛藤していたのだろうか。

今となってはもうわからないけれど。


ルーカスは手に持ったサーベルを一振りした。

どんな武器であれ、ルーカスが持つとなぜか不思議と馴染む。


今までだって手を抜いてきたわけではない。

それでも、もう周りを気にするのは止めだ。


心のままに剣を振るえばいい。


その力を示すために。

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