第15話 剣術大会<6>

圧勝、だった。


一瞬で勝敗は决し、あまりの早業に何が起こったのかわからなかった観客も徐々にそのことを理解したのか、一瞬後にワッと歓声が上がった。


その歓声の多くは平民や傭兵のいる場所から聞こえてきており、反対に貴族や騎士の集まるスペースは水を打ったように静まりかえっている。


「今の剣筋、見えたか?」

「いいやまったく」

ボソボソと話す声は騎士のものか。


コロシアムの中心、アリーナにはルーカスだけが立っている。

対戦相手であった騎士はその側に倒れており、意識があるのかないのかは遠目にはわからなかった。


「しょ…勝者、ルーカス・ディカイオ公爵!!」


場内にアナウンスの声が響き、やっと貴族席周辺にもざわめきが戻ってきた。


「おい、対戦相手、死んでないよな?」

「この大会、怪我はありだが殺しはご法度だろ?」

倒れた騎士がどうなっているのか、観客席からはあまり見えないためわからない。


「たしか…峰打ちだったと思う」

話している騎士たちのさらに隣からもう一人の騎士が話に加わってきた。


「おまえ、見えたのか?」

「微かに…」


現役の騎士さえもその剣筋が見えないくらいにルーカスの剣の動きは早かった。


「今までルーカス公が本気で剣を振るっている姿は見たことがなかったが…」

「強え…」

誰かがポツリとこぼした言葉に、周囲の騎士たちはことごとく頷く。


圧倒的な強さ。

今までなぜ彼はその実力を示してこなかったのか。


「次は誰と対戦だ?」

「確か第1騎士団の若い騎士だったと思うが…」


隣の組での対戦では平民と騎士が戦っており、騎士が勝利していた。

その騎士の所属先が第1騎士団だ。


「古巣の騎士との対戦か」

「なんでも一部の騎士の間ではルーカス公が軍部の総帥に就任したことに対して不満があるって聞いたぞ」


「でもルーカス公はディカイオ公爵家だろ?軍部の総帥は代々公爵家が担ってきたんだし、ニコラオス公亡き後はルーカス公が継ぐのは当たり前だと思うが?」

「それでも、ある意味急な出世に対する嫉妬みたいなのがあるんじゃないか?」


「そもそもルーカス公は今まであまり目立った存在じゃなかったしな」

「あの実力でなんで目立たなかったんだ?」

「さあな。本気を出していなかったからとか?」

「あの試合を見た後だと信憑性が高いな」


「あ。対戦相手の騎士が立ち上がったぞ」

「やっぱり峰打ちだったんだ」

「おまえ、それがわかっただけでもすごいんじゃないか?」


女が三人集まると姦しいというが、それに負けず劣らず三人の騎士は話し込んでいてうるさかった。


しかし周りの者たちは誰も咎めない。


なぜなら、三人と同意見だったからだ。

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