第3話 ビジョン

2027/04/15/21:32 内垣書店内CDブース


零は掛け声に反応し背後に立つ女性を見上げ思わず彼女と目が会い、とっさに目を背けて明後日の方向を見る。


零「(――この人は誰?)」


身長は立ち上がったしたときの自分より少し低く、フード付きの前開きパーカーを着ていた。顔はフードの影りで細かい年齢は見て取れなかった、しかし声からして年齢はおそらく20代から30代...僅かな情報を元に脳をフル回転させ、どんな状況にも対応できる返事の第一声を思考する。


零「(ケース1.小さいときにお世話になった知り合い。ケース2.書店の人が何か注意をしに話しかけてきた、しかしここの店員さんは前掛けをしているし、その線は薄いかな...そしてケース3.この人は書店にいた僕の知らない他人で、なにか目的があって話しかけてきた、そしてこれらのケース全てに対応できる返答は...よし!)」

零「ッスゥ...どうも」

零「(これでどうだ)」

?「―――!?...」

零「(この反応は一体なんだ?...ミスったのか!どういうミスなんだ!?いや、とにかくすぐになんとかリカバリーしなくちゃ!)」


彼女の予想外の反応に更に動揺し、目をそらしたままいろいろな思考が脳内を駆け巡り、顔が熱くなり体中の汗腺から汗が湧き出ている。


零「(でもここはなんて声かければいいんだ?フードで見えづらいけど深刻な顔してるし、わからない...なんて言えばいい)」


そんな零の焦燥に駆られている表情に女性は気づいたようで、笑顔で口を開く。


?「あははっ!急に声をかけちゃってごめんね、私の名前は東雲シノノメ 京子キョウコ、昔の知り合い少しに似てたから、声をかけちゃったのよ」


零「そうだったんですか、ふぅ...よかった変なこと言ったんじゃないかって焦りました」


安堵して零は立ち上がって京子に向き直った。


京「君はこの書店によく来るの?」

零「いつも来るわけじゃないんですけど、今日は妹に頼まれて...トライアングルガーデンの新アルバムのCDがどうしてもほしい!って言うから――」

京「ふむ、トライアングルガーデンね、あれは確か...」


21:36


京子があたりを見渡して考えるしぐさを取った、がすぐに彼女は歩き始める。


零「分かるんですか?助かります!」


京子の後を追って、零も書店の中を進んでいった。


京「どこへ行くんだい?」

零「え?」


自分の前を歩いていたはずの京子の声が後ろからした。振り向くと、確かにそこにはまだ移動していない彼女の姿があった。


零「あれ、でもさっきこっちに歩いて、ってあれ?いない!?」

京「いや、そっちに確かに目当てのCDはあると考えていたんだ。しかしこれは一体?...」


22:00 内垣書店前

京「これは、とても興味深い現象だ...」


買い物を済ませた二人は、店の脇で先程起こったことについて話し合いをしていた。


零「さっきと似たような勘違いが今日の夕方もあって、幻覚なんでしょうか?」

京「それは考えにくいよ、幻覚症状というのは精神病を患う人に起きやすいもので、見るものは大抵たいていがその人の家族であったり、動物や人だと言う。しかし話を聞いていたら、君が夕方に見たのは時計のオブジェの3本目の秒針、これはきっと幻覚の類のものではないんじゃないかな」

零「どっちのときも見えていたものはよく観察しようとしたらすこし透明になって、存在に違和感を持った時には既に消えていました」


京子は確信した、という顔をしている、真剣な顔だが未知の事柄に対する期待の笑みが見え隠れしている。


京「零青年...きっと君がさっき見ていたのは、数秒後の未来の私だ!」

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