読書日記
『深泥丘奇談』 綾辻行人
《あらすじ 角川文庫より引用》
ミステリ作家の「私」が住まう"もうひとつの京都"の裏側に潜み、ひそかに蠢動しつづける秘密めいたものたち。古い病室の壁に、丘の向こうの鉄路に、長びく雨の日に、送り火の夜に……面妖にして魅惑的な怪異の数々が「私」の(そして読者の)日常を侵蝕し、見慣れた風景を一変させる。『Another』の著者が贈る、無類の怪談小説集!解説・森見登美彦
《評価》
総合 :★★★★★
キャラクター:★★★★★
ストーリー :★★★★★
構成 :★★★★☆
世界観 :★★★★★
《ネタバレ避け感想》
不気味で理解しがたい現象が、九篇の短編ひとつひとつの中で起こる。主人公のミステリ作家はそれらの現象に戸惑いながらも対峙していく……。邦ホラー好きには堪らない一作でした。
《ネタバレ感想》
記念すべき読書記録のひとつ目は、綾辻行人さんの『深泥丘奇談』。だって好きなんですもの。
京都に住まうミステリ作家は妻と共に暮らしている(ちなみに綾辻行人さんの奥様は、私が敬愛してやまない小野不由美さんです)。
『顔』という短編から始まる当作は、初っ端から「ちちち……」という妙な音が聞こえることから始まる。主人公がその正体を探るべくベッド下を覗き込むと、妙に盛り上がった人の顔のようなものが壁に見えた。気のせいだと思いながら胃カメラの検査をすると、ちちちという音と共に胃の中にも人面瘡があった。
そもそも主人公は、体調不良で気弱になっていたところに、ふと出会った深泥丘病院で検査入院を勧められ、入院することになる。その入院した病室での出来事が上記である。加えて石倉(一)、石倉(二)と書かれたネームプレートを胸につける医師と、左手首に包帯を分厚く巻いた怪しげな咲谷という看護師と、同じように首に包帯を巻いた看護師。不気味なこと極まりない病院である。
そして第二話目にあたる『丘の向こう』では他県出身の妻が当たり前のように知っている電車の線路を知らない自分に、主人公は驚き戸惑う。妻によれば一緒に行ったこともある、と。石倉医師から勧められるまま、そこの鉄道イベントへ赴くと、またも異様な出来事が起こる。横腹から足のようなものが無数に生えた電車のような何かが線路を走ってくるのだ。熱狂する人々(中には盲目の者も)はそれに「おおお」と声をあげ、足のようなものは人々の体を掠め、首を飛ばす。
なんだこの奇妙な話の連続は。それがここまで読んだ私の感想である。主人公の戸惑いに、読者である私も同じく困惑する。
それ以降の短編でも、主人公以外の人間は「当たり前」と捉えている不可思議な出来事に出くわす。まるで自分がおかしいのかと錯覚するような、そんな不思議な体験ができる本だった。
さて、最後に私がこの本の中で痺れた一言を共有して終わりにしよう。本格ミステリ作家である主人公の独白だ。
『どれほど不思議な出来事も奇怪な謎も、すべては論理的に解決されるはずであり、そうであらねばならない。そうあらねば困るのである』
これを、ミステリ界の大御所である綾辻行人先生が書いていて、そしてその言葉を否定するように、短編の中で現れた不可思議な怪異たちは論理的に説明されることなく終わる。
私にとって怪談は、説明されずに終えるものほど怖いと思う。理由なんてついていたら、それは幽霊の出てくるミステリになってしまう。無論ホラーミステリを否定するわけではないし、大好きなジャンルでもある。
ただ、私が心から得体の知れぬ恐れを感じるためには、論理的に説明できないが確かにある、と思わせる文章が必要なのである。
その欲求をしっかりと満たしてくれた『深泥丘奇談』と綾辻行人先生へ、心より敬意を。
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