第12話

ノノンはピンチになっている冒険者や兵士を助けつつ、流れるようにモンスターの群れを切り刻んでいた。


(あと少し、あと少しで必殺技が溜まる!!)


「ひぃぃ、テラドラゴンなんかに勝てるわけがねぇだ!! しかも、この腕の深い傷が痛――」


「グレーター・ヒール」


「――くねぇ? あれ? テラドラゴンが死んどる!? なんでだぁ?」


ノノンは目にも止まらぬ速さで草原を駆けた。


彼女は次々と兵士や冒険者を救い、必殺技が溜まるのを待ちわびていた。


(あと少し!!)


その頃、ミヤとガゼル達は苦戦を強いられていた。


「くそっ、このドラゴン、どこまで耐えるんだ!」


ガゼルが歯を食いしばり槍を突き出すが、テラドラゴンの硬い鱗に阻まれ、攻撃がなかなか通らない。


エレスが焦りながら呪文を唱え続ける。


「アドバンスト・スタン!」


雷撃がテラドラゴンに命中し、一瞬動きを止めるが、その効果も長くは続かない。


「このままじゃ、じり貧だわ...」


レイラが息を切らしながらも剣を構え直した。


その時、ハイオークがガゼルに狙いを定める。


「気をつけるんだな、ガゼル!」


ガゼルがハイオークの巨大な棍棒を紙一重で避け、反撃しようとするが、その瞬間テラドラゴンの尾が彼に襲いかかる。


「くそっ、こいつら両方相手にするのは厳しい!」


ガゼルが声を上げる。


その時、冷静に状況を見ていたミヤは見逃さなかった。


テラドラゴンがほんの一瞬、左足を庇うような動きをしたのだ。


(左足が弱っているかもしれない...!)


ミヤは素早くレイラに叫んだ。


「レイラさん、テラドラゴンの左足を狙ってください!」


レイラは一瞬戸惑ったが、ミヤの真剣な表情を見て決断した。


「分かった、やってみる!」


レイラは剣を構え、全力でテラドラゴンの左足に突き刺した。すると、テラドラゴンは左足を庇うように大きく動き、体勢を崩した。


「やっぱり...!」


「ハイオークはオラに任せるんだな!」


テラドラゴンに対する勝機を見出したことを理解し、バルドがハイオークを引きつける。


「エレスさん、テラドラゴンにスタンをお願いします!!」


「おーけー、任せて!!」


エレスはミヤの指示に素早く反応し、杖を高く掲げて呪文を唱えた。


「アドバンスト・スタン!」


雷撃がテラドラゴンに直撃し、その巨大な体が動きを止めた。


「今よ、ガゼル!」


「おう!」


レイラとガゼルは全力で突進し、槍と剣を構えてテラドラゴンの左足を狙った。


「食らいやがれ!」


ガゼル達の刃が鋭く突き刺さり、テラドラゴンの左足が完全に崩れた。


「今だ! 一気に畳み掛けろ!」


ミヤとエレスは呪文を唱え、氷の魔法を生成した。


「アデプト・アイスランス!」


「アドバンスト・アイスランス!」


2人の魔法が合わさり、巨大な氷の槍がテラドラゴンの胴体に直撃し、凍てつく爆発音と共にその体を凍らせる。


テラドラゴンは苦しげに咆哮し暴れるが、その氷は全身に広がり、やがてテラドラゴンは動けなくなった


「やった!」


「これで終わりじゃない、ハイオークも片付けるんだな!」


バルドが声を上げる。


「バルド今行くわ!」


レイラが剣を振り上げ、バルドのもとへ駆け寄る。


そして、ハイオークも次第に追い詰められ、ついにその巨体が地面に崩れ落ちた。


「やったぞ!」


一同が喜びの声を上げ、勝利を味わったその瞬間、倒れたテラドラゴンの口元が突然赤く光り始めた。


「何だ...?」


ガゼルが驚いてその光を見つめると、テラドラゴンの体があまりの熱さに白く光り始めた。


「ガゼル、離れろ! 自爆だ!!」


レイラが叫んだその瞬間、ハイオークがガゼルの足を掴み、その動きを完全に封じた。


レイラが叫んだが、ガゼルは動けなかった。


「くそっ、離しやがれ...!!」


「ガゼルー!!」


エレスが叫ぶが、光の膨張はあまりに速く、ガゼルを一瞬で包み込んだ。


「「「ガゼルー!」」」


「ガゼルさん!!」


その瞬間、テラドラゴンが周りのモンスターも巻き込み、大爆発を起こした。


爆発の余波が収まると、そこにはガゼルが倒れていた。彼の体は酷く焦げ、見るも無残な状態だった。


「ガゼル、しっかりして!」


レイラは一目散にガゼルのもとに駆け寄り、彼の体を抱き起こした。エレスとバルドもすぐに駆けつけたが、ガゼルの体は動かず、息もしていなかった。


レイラの声が震え、目には涙が浮かんでいた。


エレスは焦りながらも冷静さを保てと自分に言い聞かせ、回復魔法を使う。


「アドバント・ヒール!!」


しかし、ガゼルの傷は深く、回復魔法では到底回復しきれない。いや、傷の深さは関係なく、死者は回復魔法では蘇らない。


それはSランク冒険者の魔法使いであるエレスが1番よくわかっていた。


ミヤも駆け寄りポーションを飲ませるが、ガゼルの目が覚めることはなかった。





その頃、ノノンは次々とモンスターを切り伏せていた。


彼女の剣は金色の光を帯び、一瞬のうちに敵を切り裂く。


(あと少し、あと少しで...)


そして、ついにノノンの内側でゲージが満ちる感覚が訪れた。彼女は深呼吸をして、剣を天にかざした。


「今だ...! サンクチュアリ・オブ・ホーリー・レイン!! 」


その瞬間、戦場に白い巨大な魔法陣が現れた。


ノノンの掲げた剣から聖なる光が雲を突き抜け天に昇ると、そこを中心に放物線を描くように大量の光の雨が降り注いだ。


光の一滴一滴が絶大な力を帯び、地上にいるモンスターたちに無慈悲に降りかかる。


「うわあああ!!」


「ぎゃあああ!!」


モンスターたちは次々と光に焼かれ、絶叫を上げながら体が溶けていく。光の雨は止まることなく降り続け、テラドラゴンやハイオークをも容赦なく包み込んだ。


その光景はまさに天罰の如く、誰もが圧倒されるほどの神々しさだった。ノノンの剣から放たれた光は、戦場全体を覆い尽くし、まるで世界そのものが聖なる力で浄化されていくかのようだった。


一方、味方の冒険者や兵士たちには、その光は癒しの力となって降り注いだ。彼らの傷は次々と癒え、疲労も一気に消し去られていく。


「なんて力だ...」


「美しい...」


誰もが言葉を失い、ただその奇跡を目の当たりにすることしかできなかった。


そして、光の雨が完全に降り止むと、戦場にはもはやモンスターの影は一つも残っていなかった。静寂が包む中、冒険者や兵士達には遅れてやってくる勝利の感覚が湧き上がってきた。


(これでよし。ミヤちゃん達の所に戻ろう)


戦場が勝利の喜びと安堵に包まれる中、暗い影が落ちている場所があった。


「ガゼルさん!?」


倒れているガゼル、それを泣きながら抱えるレイラ、そして、それを暗い表情で見つめるエレスとバルドとミヤ。


ノノンはなんとなく状況を察し、急いで駆け寄る。


「ガゼル、いや、いかないで!!」


レイラの悲痛な声が響く。


ノノンは深呼吸をして自分を落ち着かせた。


「ミヤちゃん、ガゼルさんがこうなったのはいつ?」


「え、えーっと...数分ほど前です...」


(数分前...まだ可能性はある!!)


ノノンは剣をしまい、ガゼルの前にしゃがみこむ。


「ノノンさん...?」


「レイラさん、安心して下さい。ガゼルさんは私が必ず救ってみせます!!」


ノノンは両手を前に構えて魔法を唱える。


「リザレクション!!」


その瞬間、ノノンの手からまばゆい光が放たれた。


その神秘的な光は優しくガゼルの身体を包み込み、まるで穏やかな日差しのように浸透していく。


やがてガゼルの身体が温かさを取り戻し、微かな鼓動が戻ると、瞼が微かに動いた。


「ガゼル、お願い...目を覚まして!」


レイラの祈るような声が響くと、光はさらに輝きを増し、そして、光が少しずつ消えていくと同時に、ガゼルの目がゆっくりと開かれた。


「レイラ...」


「ガゼル! 良かった...本当に良かった!」


涙を浮かべながら、レイラはガゼルを抱きしめた。エレスとバルドも安堵の笑みを浮かべ、ノノンに感謝の視線を送った。


(良かった...蘇生魔法は死後10分を過ぎたら使えないから、間に合ったみたいね)


「ノノン様、ありがとうございます!!」


ミヤが感動しながら呟いた。ノノンは微笑んで答えた。


「みんなが無事で良かったよ。でも、まだ終わりじゃないよ」


そう言うと、ノノンは草原の遠くに見える人影の元へと目にも止まらぬ速さで駆け寄った。


「少し、お話を伺いたいのですが?」


「ひぃぃっ! くるな化け物ぉぉ!!」


そこには腰を抜かし、鼻水を垂らしながら涙目になる、紺色のローブにフードを被った男がいた。

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