第11話

「ここはガキが来るようなところじゃねぇぞ。とっとと失せろ」


男の威圧に緊張感が高まる。


「え、えぇっと...」


突然の事に、ノノンは困惑してしまう。


すると、男の後ろにいる黒髪の女性が1歩前に出て、迷うことなく彼の頭にゲンコツを振り下ろした。


「ガゼル! あんたなに初対面の相手を威圧してるのよ!!」


「いってぇな!! なにすんだよレイラ!」


「いきなり失せろだなんて...しかも相手は子供よ!!」


「今のはガゼルが悪い」


「レイラの言う通りなんだな」


「なっ!? エレスとバルドもレイラの味方かよ」


すると、レイラと呼ばれた女性がノノンとミヤの方をそっと向いた。


「このバカがごめんなさいね」


「バカじゃねぇよ!!」


「私たちはSランク冒険者パーティーの『不死鳥の翼』。私はレイラ。こっちの魔法使いがエレス、斧使いがバルド、そして、このトンチンカンがガゼルよ。よろしくね」


「誰がトンチンカンだ!!」


ノノンとミヤは少し驚きながら丁寧にお辞儀をした。


「ノ、ノノンです。Cランク冒険者です。あ、あの。私たち、この町を守るために戦いたいんです!!」


「ミヤです。Dランクです。ミヤもノノン様と同じ気持ちです」


その決意を感じたのか、レイラは優しい笑みを浮かべた。


「ノノンさん、ミヤちゃん、よろしくね。私たちも協力するから、何かあったら言ってね」


すると、エレスが一歩前に出て、杖を地面に刺した。


「なにかあったらすぐ頼る」


バルドもそのたくましい腕で、大きな斧を肩に担いだ。


「困ったことがあったらいつでも声をかけるんだな」


ガゼルはまだ不機嫌そうにしていたが、渋々と同意する。


「...まぁ、足だけは引っ張るんじゃねぇぞ」


その時、防壁の上から兵士の声が響いた。


「全員、配置に着け! モンスター軍が接近中だ!」


ノノンが地平線に目を向けると、そこには既にびっしりとモンスターの群れが見えていた。


一同は急いで持ち場に向かい、防衛の準備を整えた。空気は緊張感で張り詰める。


「ミヤちゃん、渡した回復ポーション、ちゃんと持ってる?」


「はい、しっかり持っています。指輪もバッチリです」


ミヤはそう言って、虹色に輝く宝石がはめられた指輪を見せた。


オールステータスリング『エターナルバースト』。


装着者の全ステータスを20パーセント上昇させるアイテムだ。


これにより、Lv.9であるミヤのステータスはLv.15相当になっている。


「ノノン様から頂いたこの指輪を付けてから、すごい力がみなぎってくるのを感じます」


「良かった。これで少しは安心だね」


その時、地面が微かに揺れ、重低音が脚に伝わる。


モンスター達が着実に近づいてきていたのだ。


ノノンは覚悟を決め、現在の装備を解除した。


彼女の全身が青い光に包まれる。


その光が晴れると共に、ノノンは純白のドレスをなびかせ、金色の防具で身を固めていた。


ノノンの本気ガチ装備だ。


「突撃! 全員、突撃だぁ!」


指揮官の声を合図に、冒険者や兵士の精鋭たちが一気に草原を走り出した。


「うおおおお!!」


「行くぞおおお!!」


雄叫びが響き渡り、兵士たちは剣を振り上げ、冒険者たちはそれぞれの武器を構えたまま突進していく。


ミヤは指輪の力を感じながら魔法を唱えた。


「アデプト・ファイヤーボール」


手から放たれた火の玉は、彼女が母に教えてもらった時よりもはるかに強力で、ゴブリンを一撃で焼き尽くした。


「すごい...! すごいです! ノノン様!」


「おおー、流石ミヤちゃん!」


ノノンは感心するが、その隙を狙ってハイオークが突進してきた。


しかし、ノノンの剣が金色の光を帯びる。


「セイントスラッシュ!」


ノノンによって放たれた光の一撃により、ハイオークの巨体が真っ二つに割れた。


その衝撃波は、周りのモンスターも一緒に吹き飛ばす。


「ハイオークを一撃で!?」


「何者なんだ!? あの冒険者」


その光景を見ていた冒険者や兵士は思わず声を上げた。


(数が多すぎるっ...!!)


ノノンは現在、味方を巻き込まずに使える広範囲攻撃がなかった。


この世界で使ったことは無いのだが、感覚でわかっていた。


広範囲攻撃を使えば、大地はマグマで煮えたぎり、周囲は一瞬で砂漠化したりするだろう。


(この数を相手するには、あの技しかないっ!!)


味方を巻き込まない唯一の大技、それは敵を倒すことでゲージが溜まり、発動できる必殺技だ。


その技は味方の体力を回復し、敵全体に強力なダメージを与える。


ノノンは敵を倒していく中、自分の内側でゲージのようなものが溜まる感覚を覚えていた。


(敵のレベルが低くいせいか溜まりが悪い...)


ノノンは覚悟を決める。


「ミヤちゃん。私は敵を倒してくるから、ここを少し離れるよ。なにかあったらすぐに呼んでね」


「わかりました」


ミヤが頷くと、ノノンは敵の密集地帯に向かって駆け出した。


「おい、ガキ!! 避けろ!!」


ミヤはノノンの背中を見つめた後、かけられた声に反応して周囲を見渡した。


「えっ?」


次の瞬間、テラドラゴンのブレスがミヤの目の前に迫っていた。


(動けない...!!)


ミヤは反応できなかった。


「おりゃぁ!!」


しかし、そこを声の主、ガゼルがミヤを抱えて助け出す。


「チッ。なんてパワーだ...」


ガゼルの視線の先、そこには黒く焦げ、穴が空いた地面があった。


「あ、ありがとうございます」


「別に礼なんかいらねぇよ」


「ミヤちゃん、大丈夫!?」


レイラが駆け寄り、ガゼルに向かって叫んだ。


「ガゼル、無茶しないで!」


「俺が無茶しなきゃ誰がやるんだ!!」


エレスとバルドも駆け寄る。


すると、即座にガゼルが指示を出した。


「エレス、防御頼む!」


「了解!」


エレスが魔法の杖を振りかざし、強力な防御魔法を発動した。


「エンハンスド・シールド!」


透明なバリアがガゼルたちを包み、テラドラゴンの次のブレスを防いだ。


「うっ、なんて力...」


エレスの額を1滴の汗が伝い、バリアに少しずつヒビが入る。


「何度もブレスを撃たせるわけにはいかないんだな!」


その時、バルドが大きな斧を振り上げ、テラドラゴンの足元に潜り込み攻撃を加える。


鈍い金属音と共に、ドラゴンの足が少し削れた。


「ぬっ、すごく硬いんだなっ!」


バルドは細めていた目を見開いた。


ガゼルとレイラもそれに続き、大きく跳躍すると、剣と槍でテラドラゴンの真っ赤な目を狙った。


「ガゼル、合わせて!」


「言われなくてもっ!」


ガゼルの槍が鋭く突き出され、レイラの剣が閃光のように光る。二人の連携攻撃がテラドラゴンに迫るが、ドラゴンは軽く後ろに跳ぶことによりそれを回避した。


「くっ、さすがに動きが早いわね!」


その瞬間、エレスの支援魔法が発動する。


「アドバンスト・スタン!」


エレスの杖から放たれた雷撃がテラドラゴンに命中し、一瞬動きを止めた。


「今だ!」


その隙を見逃さず、3人が一斉に攻撃を仕掛ける。


(すごい...これがSランクパーティーの連携...)


彼等の完璧な戦いに、ミヤは入る隙がなかった。


自分が参加しては返って邪魔になると考えたミヤは、周りに群がるモンスターを倒すことに集中する。


「やつは確実に消耗していぞ!!」


なんとかガゼル達が奮闘し、ようやくテラドラゴンにダメージが蓄積し始めたその時、巨大な棍棒がガゼルに振り下ろされた。


「チッ。マジかよ...」


ガゼルはそれを紙一重で避ける。


目の前に現れたのは巨大なハイオークだった。


「はぁ...はぁ...S級とA級を同時に相手するのはキツイわね...」


レイラが肩で息をしながらテラドラゴンとハイオークを見上げる。


彼女のその瞳にほんの一瞬、諦めが映ったその時、テラドラゴンの強烈な尻尾による攻撃と、オークの棍棒がレイラを襲った。


「レイラ、避けろ!!」


ガゼルの叫びも虚しく、咄嗟に棍棒を避けたレイラだが、テラドラゴンの尻尾が直撃し、メキメキと骨が砕ける音と共に彼女は地面に叩きつけられた。


「「「レイラ!!」」」


「おい、レイラ、しっかりしろ!! レイラ!!」


ガゼルは2体の相手をしつつ、彼女の名前を叫ぶ、その声は彼らしくない、震えた声だった。


「レイラさん!!」


すると、ミヤがレイラのもとに一心不乱に駆け寄る。


「ミヤちゃん危ない!!」


エレスが咄嗟に魔法を唱え、ミヤを襲いに来るモンスター達を焼き尽くす。


「レイラさん、これを飲んでください!!」


ミヤが取り出したのは、ノノンから貰った回復ポーションだった。


「す、すげぇ...」


「こんなに速く回復するポーションがあるだなんて...」


「信じられないんだな...」


ミヤがレイラの口にポーションを流し込むと、彼女の身体が淡い緑色の光に包まれ、傷口がみるみるうちに癒えていった。


「い、痛くない!? 私の傷、回復したの!?」


「はい。ノノン様のポーションですから」


「......ありがとう、ミヤちゃん」


「いえ、これはノノン様のお力です。さぁ、みんなで協力してあの2体を倒しましょう!!」


「「「「おう!!」」」」


レイラの復活により、ガゼル達の士気は上がっていた。


彼らは武器を強く握り、テラドラゴンとハイオークに再び立ち向かう。


その時、テラドラゴンが大きく動き出し、新たな攻撃を仕掛けてきた。

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