第9話

ノノンとミヤはテラドラゴンを倒した後、薬草を求めて森の奥深くへと歩を進めていた。


森は静かで、時折小鳥のさえずりが聞こえ、穏やかな風が心地いい。


「ノノン様、やっぱりその装備似合っていますね」


「えへへ、そうかな?」


ノノンはくるりと1回転して、茶色いマントをなびかせた。


仮面を外して見せている素顔はとても美しい。


彼女は今、駆け出し冒険者御用達の皮鎧を身につけている。


これは、SWOで着けていた女神の装備一式だとあまりに目立つため、街の武器屋で調達したのだ。


「ミヤちゃんが選んでくれたこのミニスカート、すっごく可愛いよ」


赤いスカートを少し持ち上げ、ノノンははしゃいでみせる。


彼女は生まれてこの方友達ができたことがなく、ミヤと装備を買うのは友達と服を選んでいるみたいで楽しかったのだ。


「ノノン様、とても綺麗です」


「ありがとう。でもごめんね、お金ほとんど使っちゃって...」


ノノンは申し訳なさそうに笑った。


「気にしないでください。ノノン様が楽しんでくれたのなら、それだけで十分です。今日の宿代はこのクエストの報酬で払いましょう」


「ありがとうミヤちゃん。よし、薬草見つけるぞー!」


ノノンは元気よく声を上げた。


2人は森の中をさらに進んでいく。木々の間を抜け、柔らかな地面を踏みしめながら、薬草を探し続けた。


しばらく歩いたところで、ミヤが小さな声を上げた。


「ノノン様、あれを見てください!」


ミヤが指さす方向を見ると、小さな青い花が咲いている薬草がいくつも見えた。


「もしかして、あれが依頼されてる?」


「そうです! 今回依頼されていた薬草、『ヒーリングハーブ』ですよ!」


「やったー! これで宿代が払える! ミヤちゃんよく見つけられたね」


「昔お母さんとよく薬草を集めていたので、結構探すの得意なんです」


「そっか。ミヤちゃんがいてくれて助かったよ」


そして、二人は笑顔でヒーリングハーブを摘み取った。


その時、ノノンが突然大きな声を出した。


「ミヤちゃん、見て見て! これすごく綺麗な薬草だよ!」


ミヤが驚いて振り向くと、ノノンは紫と黒の斑点がびっしりある、明らかに毒々しい見た目の草を持っていた。


「ノノン様、それは...!」


ミヤは慌てて駆け寄った。


「この色、すごく鮮やかで綺麗だよね。これも薬草かな?」


ノノンは目を輝かせながら草を見ている。


ミヤは思わず頭を抱えた。


「ノノン様、それは毒草です! 絶対に触っちゃダメです!」


「え、そうなの!?」


ノノンはびっくりして草を放り出した。


「そうです! その草は『デスストライクグラス』という毒草で、触るだけで危険なんです」


ミヤは心配そうにノノンを見つめる。


「ごめんね、ミヤちゃん。全然知らなかった...」


「大丈夫ですよ。でも次からはちゃんと確認してから触って下さいね」


「わかった!!」


その後も二人は薬草を探し続けたが、ノノンは次々と奇妙な薬草を持ってくる。


「ねぇねぇミヤちゃん、この赤い花はどうかな?」


「ノノン様、それは『ブラッド・フラワー』です!!触ると血液が凝固して危険です!! すぐに捨てて下さい!!」


「えっ、そうなの!?」


ノノンは慌てて花を放り捨てる。


「ねぇねぇミヤちゃん。この黄色くてうねうね動く草は?」


「それは『シャイン・デスリーフ』です!! 強いアレルギー反応を引き起こし、最悪の場合呼吸困難になります! 今すぐ手放して下さい!!」


「え、これも!? こんなに綺麗なのに…」


ノノンは急いで草を手放した。


「ねぇねぇミヤちゃん。この真っ黒くて目玉が生えたキノコは?」


「ノノン様!! それは『タベタラ・ゼッタイニシヌタケ』です!! 多分、てか名前的に絶対毒です!!」


「ええっ、またか...」


ノノンはなにかを見つける度にミヤの前に行って見せ、それが毒だと言われればそれを放り出した。


気がつくと、ミヤの前にはノノンが拾ってきた珍妙な形や色をしてうごめく植物で溢れていた。


その後も、ノノンが嬉々として持ってくるものはことごとく毒性のあるものだった。


「なんかいっぱいになっちゃったね」


そう言って苦笑いをするノノンの隣には、毒草が山のように積み上がっていた。


「はぁ...はぁ...びっくりしすぎて心臓が持ちませんよ...一応、毒草も売れるので沢山あっても大丈夫だと思いますよ。あと、本当にお身体は大丈夫なのですか?」


ノノンは元気よく頷く。


「うん!あれかな? 私、毒の耐性を持ってるからかな?」


そう言いながらノノンは毒の山をアイテムボックスに放り込んだ。


2人がそんな初クエストをこなし、ギランティアに戻ったのは日が暮れた頃だった。


その一方で、ギランティアの冒険者ギルドでは、ノノンに助けてもらった『荒野の剣』が、森にテラドラゴンが現れたことについてギルドマスターに報告していた。


「それで、急に現れたその仮面の女性がテラドラゴンを一撃で倒したんですか?」


「はい、信じられないほどの力でした。それに、俺たちの命を救ってくれたんです」


リーダーのバーンが熱心にそう説明した。


「なるほど...低級モンスターしか現れない『無邪気の森』にS級のテラドラゴンが現れるとは…不自然ですね」


エドワードは顎に手を当て、考え込む。


「あ、あの。やっぱりあの仮面の方はSSランクの冒険者なんですか?」


「ん? あー、あなた方を救ったお方は、恐らく最近冒険者になられたあのお方でしょうね」


「最近冒険者になった...?」


「ええ。ただ、SSランクの冒険者でも、あのお方の実力には到底及ばないと思いますがね」


エドワードはそう言って苦笑いを浮かべた。


(火山地帯に生息するテラドラゴンが『無邪気の森』に現れたか...人為的なものとしか思えないな)


エドワードは早急に『無邪気の森』を調査することにした。

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