第7話

「お待たせしました。ノノン様、ミヤ様。ギルドマスターがお呼びです」


受付のお姉さんにそう言われ、2人はギルドの応接室へと通された。


部屋の中央には低いテーブルと向かい合って黒いソファーがあり、太陽の光が窓から優しく差し込んでいた


2人がソファーに座ると、お姉さんが紅茶を入れてくれた。


「まもなくギルドマスターが来ますので、こちらを飲んでお待ちください」


「ありがとうございます」


そう言って、まずはミヤがカップに手を伸ばした。


「わぁ、この紅茶、とっても美味しいです」


「ふふ。ありがとうございます」


「ノノン様、凄く美味しいですよ」


「あ、じゃあ私もいただきますね」


ノノンは紅茶を飲むために仮面を外した。


すると、お姉さんは口元を手で隠す。


「わぁ~! 美味しいですね!」


そう言って紅茶を飲む彼女の顔が、まさに絶世の美少女と呼ぶにふさわしかったのだ。


その美しさを人に伝えようとしても、「そんなに美しい人がいるわけがない」と信じてもらえないだろう。


見ているだけで吸い込まれてしまう。


「どうかしましたか?」


「あ、いえ、ノノン様がとても――」


その時、部屋の扉が静かに開いた。


その扉を動かしたのは、黒いスーツに身を包み、短髪で口髭の生えたイケおじだった。


「お待たせしました。ギルドマスターのエドワードです」


彼から出た声は低く重みがあり、同時に親しみやすさも感じさせるものだった。


彼はノノン達のところまで歩くと、反対のソファに腰掛けた。


「は、はじめまして。ノノンです」


「ミヤです」


2人は小さく頭を下げる。


座るや否や、ノノンの顔を見てエドワードはその美しさに目を見開く。


しかし、すぐに咳払いをすると、冷静な表情を作ってみせた。


「あなたがノノン様ですね」


「は、はい」


すると、エドワードはじっとノノンの事を見据えた。


ノノンはその視線に緊張し、背筋を伸ばす。


「なるほど...お会いしてわかりました、どうやらステータスの件は本当のようですね...」


「あ、あの。やっぱり私のステータスっておかしいんですか?」


「そうですね...おかしいと言いますか...異常といいますか...常軌を逸しているといいますか...」


「な、なんか、言い方がどんどんひどくなっていませんか...?」


「あはは、すみません。それぐらい信じがたい事でしたので。それで、ノノン様は一体何者なのでしょうか?」


すると、ノノンが答えるより先に、バンッと机を叩いてミヤが立ち上がった。


「ノノン様は女神様なのです!!」


(ミ、ミヤちゃん!? )


「やはりそうでしたかっ!」


(エドワードさん!? そんなにあっさり受け入れていいの!?)


「私は別に自分の事を女神だなんて――」


すると、エドワードがノノンの手を取り、上下に動かし握手をする。


「女神ノノン様!!」


「で、ですから――」


「なにかあればなんでも仰って下さい。 我がギルドはできる限りの支援をさせていただきます!!」


「は、はい...ありがとうございます...」


(今の私って種族が女神になってるし、それを否定する方がおかしいのかな...)


それから、ノノンは彼からこの国について簡単に教えてもらった。


まず、ここ要塞都市ギランティアはスカーモドン王国の西側に位置し、すぐ隣には国境を挟んでイリュミティア帝国があるとのことだ。


帝国とは現在仲が悪く、領土拡大政策を続けているらしい。


更に、硬貨についても教えてもらった。


安い順に、小銅貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、そして大金貨という順序で、実物を見せてもらった。


金貨と大金貨はかなりの大金のため、「ミヤもこの2つは初めて見ました」と、ミヤは興味深そうに見ていた。


他にも様々なことを教えてもらい、そして、話はノノン達の冒険者ランクについてとなった。


「さて、お二人の冒険者ランクにつてなのですが、本来、新人冒険者はFランクからスタートします。しかし、ノノン様がCランク、ミヤ様がDランクからのスタートでも問題ないのですが、いかがですか?」


これは、明白な特別待遇だった。


純粋な好意だけではなく、2人に恩を売っておきたいというエドワードの打算も含まれている。


しかし、何故Cランクなのか。


ステータス的にSSランクでも問題ないノノンだが、いきなり現れた新人をSSランクにしてしまっては、他の冒険者の反感を買ってしまうからだ。


ミヤもその幼さでLv.9と、かなりの将来性とステータスを持っているため、Dランクからでも問題ないだろう。


しかし、ノノンは首を横に振った。


「なんだかそれって自分だけズルしているみたいで嫌と言いますか...私も皆さんと同じようにFランクからでお願いします」


「ミヤもノノン様と同じ意見です」


「そうですか...わかりました。では、冒険者カードを発行いたしますので、お手数ですが、もう一度受付の方へお願いします」


それから、2人は受付でお姉さんから冒険者カードを受け取り、依頼を受けてみることにした。


「こちらは身分証にもなりますので、無くさないようにお願いします」


「「はい」」


「それでは、本日依頼を受けてみますか?」


「受けたいです!!」


「かしこまりました。えーっと、現在Fランクの依頼は...あ、この薬草採取なんていかがでしょうか?」





「わぁ〜、綺麗な森だね」


「そうですね」


「初クエスト頑張ろうね! ミヤちゃん」


「はい!」


2人はギランティアから西側に暫く歩いたところに位置する森にやってきていた。


そして、今まさに森の中に入ろうとしたその時――


深い森の奥から、モンスターの低く咆哮する声が轟いた。

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