第5話

要塞都市ギランティアは広大な草原の中に位置しており、高い石壁に囲まれていた。


ノノンとミヤは二日間の道のりの末にたどり着き、今は街の中に入るための関所の列に並んでいた。


「ミヤちゃん、のど乾いてない?」


ノノンはアイテムボックスから『祝福の聖水』という、高難易度ダンジョン『聖なる泉』で入手できるアイテムを取り出す。


「ノノン様、ずっと思っていたのですか、このお水すごく高価そうな瓶に入っていっていますよね? ここに来るまでに何本か頂きましたが、もしかして貴重な物なんですか? それでしたら、そんなにいっぱい頂けないのですが...」


「沢山あるから気にしないで! それに、これはただの水だよ」


「ほ、本当ですか...? では...いただきます」 


「あ、お腹も空いたよね」


ノノンは更にアイテムボックスから、金色に輝く『世界樹の果実』を差し出す。


「ノノン様...このピカピカ輝くリンゴも、絶対貴重なものですよね...」


「そんなことないよー。ただのリンゴだから遠慮せずに食べて」


「いや、昨日このリンゴをミヤが落としてしまった時、その地面から花が咲いて、ちょっとしたお花畑ができてたじゃないですか。それのどこがただのリンゴなんですか!!」


「え、えーっと...」


「それにこのお水だって、どうして飲んだら身体がうっすら光り始めるんですか!!」


先程聖水を飲んだミヤの身体は、既にうっすら光っていた。


「うぅ...で、でも、お水もリンゴも凄く美味しいでしょ? 光もすぐ消えるし...」


「ノノン様! ミヤはノノン様から頂ける物ならなんでも嬉しいですが、貴重な物を何度も頂くことはできません。ミヤは普通のリンゴでも十分なのです」


「で、でも、ミヤちゃん昨日このリンゴすっごく美味しそうに食べてたじゃん」


「うっ。それは....とにかく! たまにならまだしも、毎日食べるのはよくないとミヤはおもいます!!」


そう言って。ミヤは名残惜しそうに差し出されたリンゴを見ながら、片手でそれを押し返した。


「そ、そう? じゃあ、ギランティアで何か買ってあげるから、それ食べよ?」


「ま、まぁ。それなら...」


そうこうしているうちに、二人の順番がやってきた。


「身分証はあるか? ないなら通行料は銀貨1枚だ」


関所に立つ兵士が事務的に言う。


それに対し、ノノンはアイテムボックスから金貨を1枚、自信満々に取り出した。


「これでお願いします!!」


(ふふーん。ずっとS W Oスターワールドオンラインをやってきた私は、ゲーム内の金貨が有り余るほどあるんだよね!)


「あ、あの...この金貨どこの国のやつですか? 凄く美しい金貨ですけど、ここでは使えませんよ」


「えええええ!!??」


あまりの衝撃に、ノノンに雷が落ちた。





ズーンと肩を落としてノノンは歩く。


結局、ミヤが村から持ってきた銀貨で街の中に入ったのだ。


「うぅ、ごめんね、ミヤちゃん...」


「気にしないでくださいノノン様。それに、お金はこれから冒険者になって稼げばいいじゃないですか」


冒険者になれば身分証が手に入り、生活費も稼げるため、ノノン達はここに来る途中に冒険者になろうと話し合っていたのだ。


しかし、実際は、ミヤに冒険者という存在を教えてもらったノノンが、「わたし冒険がしたい!!」と瞳を輝かせた事が主な理由だろう。


彼女はS W Oスターワールドオンラインでも冒険が大好きで、よくその話を父にしたものだ。


それから冒険者ギルドに向かって歩いていると、ノノンは道行く人達の視線が気になった。


すれ違う人達がみんな、自分の顔をじっと見つめながら通り過ぎていくのだ。


「なんだかみんな、私の顔を見てない?」


ノノンが何気なく訊くと、ミヤは視線を落として、顔を少し赤らめた。


「その...ノノン様のお顔が、えっと、その......とっても美しいからだと思います」


「え、そうなの?」


ノノンは手鏡を取り出して自分の顔を見る。


美しく長い銀髪に綺麗な青い目で、金色のティアラを付けている。


その顔は、完璧な曲線と柔らかな輝きを持っている。


こだわり抜いて作った自慢のアバターだ。


(確かにこれは目立つかも... 仮面でも付けて顔を隠そうかな)


ノノンはアイテムボックスからある仮面を取り出し、それを付けると、まだ顔を赤らめて下を向くミヤの肩をとんとんと叩いた。


ミヤが気づいてノノンの方を見ると、そこにはカエルの仮面を被ったノノンが、こちらをじっと見つめながら、顔の横でピースをしていた。


その仮面には影が落ち、不気味なオーラが出ている。


恋する乙女のような輝く瞳だったミヤは、ノノンの方を向くなり、その瞳から光を消した。


「あの...ノノン様? 一体何をされているのですか?」


「素顔のままだと目立つかなーと思って、仮面を被ってみました!」


これで完璧でしょ? と満足気な声が仮面の向こうから聞こえてくる。


「いや、そっちの方が目立ちますよ!!」


「えぇ!? そうなの!? この仮面お気に入りなのに...」


「絶対にその仮面はダメです。絶対にです!!」


「そ、そんなに? うぅ...ミヤちゃんが言うならしょうがないかぁ...」


ノノンはしょんぼりとしながら仮面を外した。


「仮面はミヤに選ばせて下さい」


「わかった...これすごく可愛いのに...」


そうこうしているうちに、冒険者ギルドの建物が見えてきた。

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