第4話

目を覚ました少女は上体を起こした。


「いたっ...」


しかし、これまで興奮状態で紛れていた傷の痛みが走る。


「あっ、ちょっと待ってて」


「女神様...?」


望は何かを思いつくと、少女に向かって両手を向けた。


「グレーター・ヒール」


望がそう唱えると、少女の身体を緑色の淡い光が包み込む。


そして、白い肌に見える無数の傷は次々と癒え、やがて少女の身体は傷一つ無くなった。


(やっぱり、魔法もゲームと同じように使えるみたい)


望は魔法と剣で戦う職業クラス『魔剣士』の最上位職、『魔剣神』なので魔法はお手の物だ。


その魔法に、少女は驚きの表情を浮かべた。


「ありがとうございます、女神様」


望は微笑みながら少女に手を差し伸べ、彼女を起こした。


「大丈夫?」


「はい。痛みがなくなりました」


すると、少女はハッとしたかのように焦りの表情を浮かべ、望にお願いする。


「女神様、ミヤの村に来てくれませんか?」


これは、もしかしたらの村のみんながまだ生きていて、望が来てくれたらみんなが助かるのではないかと考えたからだろう。


あまりに淡い期待。あまりに小さな希望。


それは、まだ真実に向き合えない少女の願いだった。


(考えたくは無いけど、彼女の村はきっと...)


「...わかった。一緒に行こう」


望は力強く返事をする。


彼女は、これから少女が大きな試練に直面することを予感し、せめて傍に居てあげたいと思った。


大切な人を失った時、誰かが傍にいて欲しかった自分を思い返して。


そして、望は少女の案内で森の中を走った。


暫くして、小さな小屋が建ち並ぶ村が見えてきたが、小屋は荒らされ、そこには少女と似たような服を着た人達が沢山倒れていた。


「みんなが...」


少女は震える声で囁く。


「お母さん! お母さん!!」


そして、彼女は母親を探すため村の中へと走っていった。


壮絶な光景に立ち尽くしていた望だが、どんどん進む彼女の背中を見て、ゆっくりと村の中へと足を踏み入れた。


望は荒れ果てた村を歩く。


流石の望でも、死んで時間のたった人間を生き返らせることはできない。


死後10分以内に死者を復活させられる魔法があったが、それを村の人達に発動しようとしても何も起こらなかった。


時間が経ち過ぎているようだ。


そして、少女の絶望に満ちた声が村に響き渡る中、その声が聞こえなくなり、その先で座り込む少女の後ろ姿が見えた。


彼女の前には、彼女と同じピンク色の髪の綺麗な女性が横たわっていた。


「お母さん!!!!」


その女性は少女の母親だった。右肩から左腰にかけて斜切りにされ、既に息を引き取っているようだ。


望は、少女を後ろから抱きしめる。


強く、強く、抱きしめる。


それから、少女は一晩中泣き続けた。





日が昇り、朝の冷たい空気が頬を撫でる。


前の晩、望は少女になんて声をかけていいのかわからなった。


そして、少女は涙が枯れるまで泣いたのだ。


「女神様、ありがとうございます...ミヤは...もう平気です...」


少女は向こうを向いたまま話す。


その表情は見ることができない。


(なんて強い子なの...私はパパがいなくなった時、全然立ち直れなかったのに...自ら命を絶とうとしたのに...)


「...あなたが生きている限り、お母様はあなたの中で生き続けるわ」


少女は何も言わずに頷いた。


それから、村の人達を土に埋めて墓を造り上げた。


そして、そのお墓の前で二人はしゃがんで両手を合わせる。


「......独りになっちゃいました」


立ち上がった少女がそう呟いた。


「ねぇ、ミヤちゃん」


望は、お墓を建てている時に教えてもらった少女の名前を呼ぶ。


「なんでしょうか? 女神様」


望も立ち上がってミヤに向き合った。


「私と一緒に旅に出ない?」


「え、旅、ですか?」


「うん。じ、実は、私この世界のこと何も知らなくて...だ、だから、ミヤちゃんがもし、もしいいって言うなら、一緒に来てくれたら嬉しいなぁ~って。ダメ、かな?」


友達が出来たことのない望の誘い方はなんだかぎこちなかった。


しかし、その美しい顔から出るぎこちなさがおかしかったのか、ミヤはすっかり赤く腫れてしまった目を細めた。


「ふふ、はい! 是非、女神様の旅にお供させて下さい」


「良かった~。断られたらどうしようかと思ったよ~」


「ふふ、女神様のお願いを断るわけないですよ。それで女神様。これから一体どうするのですか?」


「うーん。取り敢えず、ここから一番近い街に行きたいな」


「それでしたら、要塞都市ギランティアですね。あそこなら何度か行ったことがあるので、道もわかりますよ」


「わぁー!! じゃあ、まずは要塞都市ギランティアに行こう」


「はい」


すると、ミヤが両手を前に出して握手を求めた。


「これからよろしくお願いします。女神様」


「い、いつまでも女神様呼びは照れくさいかも...私の名前はノノンよ」


望はゲーム内で使っていた名前を名乗り、ミヤの両手を握った。


「ノノン様...素敵な名前ですね!!」


「ありがとう。これからよろしくね、ミヤちゃん」


こうして、女神ノノンと少女ミヤの旅が始まった。




――――――――――――――――――――――――


悲しい話が続いていますが、次から二人は楽しく異世界を冒険します。

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