第2話

力尽きたと思われた望だったが、その意識が消えることはなかった。


(あれ? 風?)


植物の香りが鼻腔をくすぐり、倒れていたはずの自分は何故か両の足で立っている。


(私、死んだはずじゃ...)


望がゆっくり目を開けると、目の前には全身鎧の騎士達が5人いた。


その後ろには薄暗い森が広がっている。


(え、ここはどこ? 森? それになにあの格好...)


今度は後ろを見てみる。


そこにはなんと物凄く可愛らしい少女がいた。


年齢は10歳ほどだろうか。


ピンク色の髪をショートボブにしていて。その髪には黒いリボンで飾られたサイドテールがあり、風に揺れている。


両膝をついて祈るポーズをとり、彼女は輝く瞳で望を見上げている。


その後ろには深い谷があるようだ。


(ピンク色の髪!? 谷の上!? てか全身鎧の人達はなに!? どういう状況!?)


望の頭は混乱の波で溢れ返っていた。


「あの! お助け下さい。女神様!!」


望が困惑していると、少女が真っ直ぐな眼差しでそう訴えかけてきた。


(女神様...? 私に言ってるのかな?)


望は試しに後ろを確認するが、鎧の男達しかいない。


(いや、確かにゲーム内ではそう呼ばれていたけど...ってこの子、傷だらけじゃない!!)


少女は簡素な茶色い半袖のワンピースを着ていて、肌の出ている部分は多くのすり傷があった。


(それに助けて下さいって...)


「お前、一体何をしやがった!!」


その時、騎士の一人が少女に剣を向けて叫んだ。


その声と共に、他の四人も剣を抜いて少女に向ける。


「ちょっと待ってください!! どうしてこの子に剣を向けるのですか!!」


ただならぬ空気に、望は両手を広げて少女を庇う。


すると、先頭の騎士が口を開いた。


「火種はひとつ残らず消さなきゃならねぇ。一人でも逃がして、復讐でも企てられたら厄介だからな」


「復讐を企てる...?」


「その人達に村の皆が......村の皆が殺されたんです!!」


「え!?」


「まぁ、そう言うことさ。勿論事情を知ったあんたにも消えてもらうぜ」


騎士は剣を構えると、望に向かって走り出した。


その剣の刃が月明かりに照らされて光ったその時、望はつい先程自分のことを苦しめた包丁を思い出す。


「いやああ!!」


騎士が目の前まで迫って剣を振り下ろそうとしたその瞬間、望は咄嗟に両手を伸ばして騎士の胸を強く押した。


「ぐはッ!?」


メキメキと鎧が沈む音が聞こえ、騎士は衝撃波と共に後ろの木へと吹き飛ばされた。


「へ...?」


「な!? やはり只者ではないぞ!!」

「全員でかかれ!!」


考える隙もなく、残りの四人が望に襲い掛かる。


「やめて下さい!! ってあれ?」


襲い掛かる騎士たちに怯んだ望だが、何故か彼らの動きがゆっくりに見える。


(なんだか動きが遅い? いや、この感じは...!!)


すると、望は振り下ろされる四つの剣を軽々と躱してみせた。彼女は自分の動きが何故速く、騎士たちの攻撃が遅く感じられるのか戸惑いながらも、驚くべき冷静さを保っていた。


それは、今の自分の状態がある時の感覚と似ていたからだ。


(SWO《スターワールドオンライン》の時みたいに身体が軽い...!!)


望は数多の猛者プレイヤーを打ち破ってきたその身のこなしで、最小限の動きで剣を避けつつ反撃を開始した。


騎士達の胸を1人ずつ押したのだ。


まず最初に斬りかかってきた騎士の胸を軽く押す。


「ぐわぁ!!」


騎士は森の木へと吹き飛ばされた。


今度は、上空。2メートルほど跳んだ騎士の剣を素早く避けて、鎧に手を優しく当ててから軽く押す。


「はやッ!? ぬぐっ!!」


騎士が森の木へと吹き飛ばされた。


左右から挟み撃ちしてきた2人の攻撃も華麗に避け、1人ずつ掌底をお見舞する。


「ぐわぁ!!」

「ば、ばけも――ぐはッ!!」


2人は森の木へと吹き飛ばされた。


(か、加減したけど死んでないよね...?)


騎士達はそれぞれの木に色々なポーズでめり込んでいて、綺麗な横並びになっている。


それはまるで、舞台で役者が陽気にダンスを踊っているかのようだった。


(な、なんだか現代アートみたいにしてしまったわ...)


すると、そんな騎士達のいる森の奥から、一人の男がゆっくりと姿を現した。

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