第2話 悪魔
「──ッつ!イタタタ……」
あぁ……落ちたんだ……にしてもよく生きれたな……視界がぼやける、クラクラする。頭が痛いしこれ絶対頭から血が出てるよ……てか全身痛すぎる折れてるんじゃない?そこまでの痛みではないか……ねーちゃんたちは……
ぼやけた視界に映る悲惨な光景。車はひっくり返っており、前に座っていた両親が凹んだ屋根によって潰されている。
自分はよく生きてるな。いや、1人だけで生き残ってしまった。否、生かされた。
自分の下敷きになっている姉の存在によって。うっすら覚えている。気を失う時、優しく、強く自分を包み込む姉を、必死で抱き抱える姉を。そんな、憎たらしいはずの姉はもう動かない。
赤い血を広げながらどんどん冷たくなっていく。
吐き気が襲う。
少し外に出て気持ちを落ち着かせようとするができない。車に戻りもう動いていない姉の手を握る。
「ねっ……ねーちゃん!!! 起きてよ!イヤだ……イヤだ! そんなわけない。こんなことが……こんなことが……」
呼吸が乱れ荒くなり、心音がうるさい。また、気が遠くなる……
もうすっかり冷たくなっている手を握りながら寝ていたようだ。
少しは冷静さを取り戻していた。もはや諦めたとでも言おうか。家族は死に知らない山に1人、物は散乱しスマホも見当たらない。助けを呼ぶ手段がない。
「もう夕方になってる。お腹空いたな。いや、今は何も喉を通らないな。これからどうすればいいんだよ──」
誰も答えない。答えれる人はいない。
「──起きてよ……起きてよ! ねーちゃん!! ……ありがとう……助けてくれてありがとう! だから起きて! お願いだから……これからどうすればいいの?分かんないよ……」
だんだん空が薄暗くなっていくのを粉々に割れた窓越しに仰いで見ていると、雪が降ってきた。
「雪か? いやいや今は夏だしありえないはず──」
驚き、外に出てみた。そっと手に乗せるが溶けて消えない。すると車のほうから音が聞こえた。見ると両親が少し動いている。
「お父さん、お母さん生きてたの!?」
駆け寄ろうとしたが足が止まって動かない。頭が潰れ血だらけのまま動いているその姿は自分の知る両親の姿ではなかった。
車から出てきてこちらに近づいてくる。深紅の血を地面に擦り付けながら、這いずって来る。
逃げようとするが動けない。呻きながらどんどん近づいてくる。
「来るな! こっちに来るな! あっちに行け!!」
腰が抜けて座り込んでしまう。
嫌だ、嫌だ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 死にたくない、せっかくねーちゃんが助けてくれたのに、ここで死ぬ訳には……誰か……誰か……ねーちゃん──
「助けて……!!」
そう言った瞬間両親は吹っ飛んだ。
諸共木に打ち付けられ体がとんでもない方向へ曲がり鈍い音ともに低音の悲鳴が聞こえる。
「──何あれキッモ」
聞きなれた声。いつもいつも絡んでくるウザイやつの声。命の恩人の声。その声が聞こえ安心してしまう。
「ね、ねーちゃん?」
安心と同時に次なる恐怖、ねーちゃんは死んでいる。
確認した。冷たくなっていく手を、流れ出す血を。
だか、違う。お母さんお父さんみたいに這いずってない、怪我がほぼ治っているし、何より言動がねーちゃんそのもの、
「大丈夫何してんの? 腰なんて抜かして男として頼りないね。」
やっぱりウザイやつだな……だけどこの感じはねーちゃんだ。
「本当にねーちゃんなの? てか、なんで生きてるの? その力どっからで出んの?」
少し間がありながらも平然と答える。安心できたからだろうか、一人では無いか
らだろうか、家族が生きていたからだろうか、どこかとても安心している。
「おねーちゃん以外のなんだと思ってるの? 確かに私は死んだ、けど今もこうして動けているってことは実は生きていたってこと!」
雑だな……なんで生きてるんだろうか。今までの行いが悪いから悪魔にでもなったんだろう。
「……悪魔だ!!! ねーちゃんは悪魔になったんだ! 死んで動いてるってことはゾンビだ!」
本当に? 本当に悪魔になったのか!? ゾンビなのか!? だがそれ以外説明がつかない。
「ゾンビってあんま可愛くないな〜悪魔になるんならもっと可愛いやつになりたかったな〜」
内心喜んでいた。姉が悪魔となりいい気味だという訳では無い。
こうしてまた話せるという事にだ。助けてもらった命を守って貰ったありがとうと言える。だが、言葉が突っかかる。
「──そ、それどころじゃないよ! DDWに狙われるんだよ!? 逃げなきゃだよ! 早く離れなきゃ! 行くよ! ……どうしたの?急いがなきゃだよ?」
何故かねーちゃんがそっと腰に手を回し抱きつきてきた。
「……生きててくれて良かった。元気でよかった。本当に良かった! ごめんね、痛かったね、今度はちゃんと守ってあげるからね。おねーちゃん頑張るからね! 絶対にもう離さないからね。私の弟に手を出す奴も事故も私が何とかして守ってあげるからね、もう安心してね」
「きゅっ、急になんだよ! 頭でも打ったんじゃない? 早く離れろよ! まったく……」
守ってくれたことにはとても感謝している。だが罪悪感が残る。
姉をこうしてしまったのは自分なのではないかと言う罪悪感。
もし、僕を守ってなければ位置的には僕が下敷きになる方だったはずだ。
心の中は渦巻き、複雑でなんとも形容しがたい。
……でもなんか変な気はするけど大丈夫だろうか……?この事故がねーちゃんを変な方向へ行かせてしまったか……今後が心配になってくる……
「さぁ行くか! まずは着替えようね! 血だらけだからね! 着替え覗いちゃダメだよ」
「誰も覗かないよ!」
──でもちょっと興味あるな……変な意味ではなく傷の部分とかどうなっているのかなとね、顔とかの傷は痕も消えて大丈夫そうだけど首らへんの傷がまだ痕があるし、場所によって回復スピードが違うということか?
「着替え終わった~? なんかやらしい顔してるけど姉で欲情とかキモイわ~」
「してないよ!! で、何持ってんの?なんかとても物騒だけど」
「あーこれ? ほら駆除されちゃうならやっぱ抵抗しないとね! 私にはもう人間の法律は通じないから!」
いや、だからって斧に、ナイフにハンマーまで持つ必要ある? ないだろ?てか、その隣を行くしかない俺は法で裁かれちゃうよ?
「ちゃんと今度はおねーちゃんが守ってあげるからね!絶対に!」
「あっ、うんありがとう。でもナイフ持ちながら言うのはやめようか!その感じだと法律は通じないとか言いながら人を殺しそうだからね。」
でもこれからどうしようか、まず人目のある所にはあんまり行きたくないな。ねーちゃんの見た目は人に近いからいけるのかな? でも危険な橋はわたりたくないな……でもまずは眠いし暗いので寝たい。
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