第5話

タニアの指示で、俺たちは草原のひっそりとした一本の木の近くに立っていた。彼女は流れるように魔法を使い、緑の粒子が周囲を照らし出す。


「探索魔法をつかいました。周辺にモンスターは居ないようです。」

「まずはリーナから。ウノレドはよく観察しているように。」


「リーナ ステータスを開いて、回復魔法の項目をよく見てください。何か見えますか?」


じっとステータスを見つめるリーナが、小さく頷いた。「ヒールと表示されました。」


「いいですね!ではそれを私に使ってみてください。ヒールと念じてみて。」


リーナがそっと目を閉じると、彼女の周りにはふわっと銀色の粒子が広がり始めた。一瞬の後、タニアの体が包み込むのが見えた。


「いいですね!早速魔法が使えました。ステータスを見て、MPがどれくらい減ったか確認しましょう。」リーナがその指示に従い、ステータスを確認する。


「次はウノレドです。」


俺はドキドキしながら、自分のステータス画面を開いた。「迫撃魔法にはなんと出ましたか?」タニアが促す。


60mm迫撃法と書いてある。これ、どうなんだ?明らかに地球の単位系じゃないか。タニアは悪い人じゃなさそうだし正直にいくか。


「60mm迫撃法 と書いてありました」

「やはり聞いたことがないですね。慎重に試してみましょう。あの木が見えますか。あそこに向かってその迫撃魔法を打ってみてください。」


俺は慎重に60mm迫撃法を唱えた。言葉を紡ぎながら、俺の体から赤い粒子が抜けて行くのを感じた。それと同時に、背後からポンポンポンポンと何かが連続して打ち込まれる音がした。あれ?何も起こらないぞ?タニアに視線を移すと、彼女も困惑している様子だ。


「魔法が発動しなかったのかな?」俺が問うと、タニアはじっと俺を見つめていた。その時、木の方からヒューっと風切り音がして、パンパンパンパンと乾いた音が続いた。一瞬の後、目の前の景色が変わった。大量の砂埃と草が空高く舞い上がり、もうもうとしてすぐには何も見えなかったが、すぐに視界が晴れて、状況がはっきりと見えるようになった。


「見て、ウノレド!」リーナが指さす方向に目を向けると、目指した木の近くの草原が大きくえぐれていた。木自体は倒れてはいなかったが、その幹には深くえぐれた痕が刻まれている。まさか、俺が唱えた迫撃魔法が遅れて発動したのか?


「どうやら魔法が遅れて発動するタイプのようね。とても珍しいわ。しかもで範囲魔法。非常に珍しい能力だけど、発動の遅さは実戦で使うのは難しいかもしれないわね。もう少し発動を早めることはできないの?」


俺はステータス画面を開いて、消費MPが6だったことを確認した。

「消費MPは6」

「今度は発動の速さを意識して打ってみましょう。」


俺は集中して、再び魔法の呪文を唱え始めた。赤い粒子が体から抜けていく感覚に、俺は少し慣れてきた感じがする。しかし、またしても魔法の発動には時間がかかり、木に向けて放ったはずの魔法が遅れて爆発する。


「やっぱり遅れるな…」

「うーん、同じ結果ね。もう一度だけ試してみて。」


俺は三度目の呪文を唱える。魔法が発動したらすぐ爆発しろと願って。


「ああ、どうしても爆発まで時間が掛かる…」

「気にしないで。威力も範囲も十分あるし、Lvが上がれば改善するかもしれないわ。」


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