第16話 特別室


「はじめまして、ラッセル兄妹」オリヴァー・ホワイトヘッドは、髪がぽっかりと抜け落ちた頭頂部に切り傷がある男性で、勘定台で二人を出迎えた。「白髪頭ホワイトヘッドなのさ」傷に注目しているロベリアに顳顬こめかみを掻いてみせる。そこは、薄いがわずかに絶滅を免れていた。


「ジーラさんは留守ですか?」ルークが尋く。


「ぼくの聞いた話だと、彼女は特別室に籠っているらしい」オリヴァーは指についた毛をつまみとって睨み付けた。「ギルドマスターと一緒さ。なにをしているんだろうね?」そんなことはどうでもいいような様子で、机にはらはらと抜け落ちてくる髪の毛を集めはじめた。「くそっ、悩み事だ。悩み事の所為だ。老化じゃない」


「特別室ってなんですの?」ロベリアが尋ねると、


「許可された者以外、立入禁止の地下室さ」そこでにやりとして、「しかし、君たちは入る資格があるみたいだね。なにせドモンジョと交戦して無傷で帰ってきた」


「どういう意味です?」とルーク。


「部屋で行われていることを知っておいたほうがいい」オリヴァーはいった。「もしかすると参加させられるかもしれないな」


 ルークとロベリアは、彼に従って談話室の近くにある階段を下りた。



 ギルドの地下は薄暗く、長い間隔で壁に取り付けられた蝋燭の炎が心もとない光で足元を照らしていた。廊下にある扉はどれも頑丈な鉄製で、地上雰囲気とは全く違っていて、陰鬱な空気が漂っている。


 微かに、血の匂いがした。


「ここさ」オリヴァーがとある扉の前で立ち止まった。


防音魔法サイレントが施されていますわ」ロベリアが扉を見ていった。


「ご明察」オリヴァーはいった。「君たちは此処が聖女イングリッドの涙と言われる所以を知るだろう。ギルドの闇へようこそ」


 扉が開けられた瞬間、悲痛な叫びが中から聞こえた。

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