第12話 消えた死体

「これは――魔法で実体を作り出していたのか」ルークは呟く。


分身魔法アバウルですね」


「分身に油を詰めて自爆させたんだ」


 つまり、ドモンジョはまだ生きている。そして此処にはいない。偽物を残して逃げたか、あるいは、


「始めから、追っ手を消すための罠だ」


「酒場の店主が嘘をついたのですか?」


「わからない」


 そのとき、先ほどの女中が盆に夕食を乗せて二階にあがってきた。


「どうかなさいましたか?」


「この部屋に泊まっている男は、いつから此処にいるのですか」ルークはきく。


「ドモンジョ様は七日前からお泊まりに。あら? いらっしゃらないわ。先ほどお見かけしましたのに」


「どうも、ありがとう」ルークはいった。「美味しそうだね」


 盆を手渡した少女は、ぺこりと頭を下げて階段を降りていった。




「どう思う、ロベリア?」ルークは自分たちの宿泊部屋で、妹と一緒に芋と魚のスープを食べながらきいた。


「とっても美味しいですわ」ロベリアは笑顔だ。


「そりゃ、よかった……」たしかに美味だった。安宿の食事にしては手の込んだ一品だ。「それで?」


「臭いますわね」ロベリアがいった。


「ああ。だか実際には臭っていなかった」ルークは頷く。「あれだけの爆発で、煙ひとつ残らなかった。それだけじゃない。ロベリアが被った油が、すべて燃え尽きたとは考えにくい。だがお前はとても綺麗だ」


「まあっ!」ロベリアが照れる。「油は分身の肉と一緒に、転送魔法テレジアしたのですね」


「そうだ。そしてさっきの女中さんだけど、おかしいとは思わないか?」


「爆発にまったく気づいていない様子でした。宿にいる他の人間も。何故です?」


「爆音がしなかったからだ」


「部屋には防火魔法サラリが施されていました。そのうえに防音魔法サイレントまで使って、宿に損害を与えたくなかった?」


「可能性は高い。その理由はまだわからない。だかもしそうなら、ドモンジョは単なるならず者ではなさそうだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る