第6話 ずれた歯車

清々すがすがしくて気持ちよくて何もかも全部が出てしまいそうな快感だった。


ストレスも鬱憤うっぷんも、他の柵も、全ての抑圧から解放されて昇天してしまいそうな開放感に打ち震える。


一体いつからそうだったのか定かではなかったが、気付いたときには雨が止んでいた。


その場を立ち去り千鳥足で歩く私の気分は今、最高潮に達している。


少しでも気を抜けばすぐに漏らしてしまう気さえするし、実際問題そうなんだと思う。だけどそんなはしたないことをするつもりはないから、辛うじてその意識だけは保ってるけど。


あぁ、楽しかったなぁ………。


思い返してまた、表情筋が崩壊しかける。


それに、これでやっと。


「害虫駆除完了っと」


自分で思っている以上に気が晴れていたんだと思う。

足は勝手にステップを踏み出していたし、腕は勝手に前後へ振れていた。


ピーポーピーポーと大きな祝福の音色が響いている。

それに合わせて、身も心もらんらんるんるんと踊りだし、信号を渡ろうとしていた時だった。


「おい」


背後から男の声がする。


私に向けられたものかそうでないものかなんて、それだけじゃ本来判別なんてつきやしない。


でも、わかった。


だってそれは聞き覚えのある……いや、聴き慣れていたモノだったから。


「あっ……」


愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしい。


やっぱり私を忘れてたわけじゃない!

私のもとへ戻ってきてくれた。それが嬉しくて嬉しくて、嗚咽おえつのような声だけが漏れる。


気がついた時には、脇目も振らず抱きつこうとしていた。


「おい。待てよ、菖蒲あやめ


「なんで止めるの?」


「俺はお前と別れたんだよ。もう付き纏われる筋合いはない」


「そんな事言わないでよ〜。私はまだ」


「それよりもお前に聞きたいことがある。何してきた」


「特に何も?」


彼の私に向ける視線が酷く冷たい。息の根を止められてしまいそうな鋭い視線。


おかしい。


何やら不穏な空気が漂い始めていた。 

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