第5話 やめてよ
さめざめ雨が降っていた。
傘を差さなくては、ずぶ濡れになって困る程の雨。
あの日を思い出す嫌な雨だった。
でもあの日と違って傘はちゃんと持っている。
しかもおニューの真っ赤な傘。
だけど私は傘を差すわけにはいかない。
だってそんなことをしたら見つかってしまうかもしれないから。
彼が歩いて行く後ろ姿を数十メートル後方から追尾していく。
あの子が学校に来なくなってから一週間が経った。
心ここにあらずといった様子だった。
それに毎日彼女のお見舞いに行っているみたいだし、実際その現場も毎日見ている。
今日だってそうだ。
だからそろそろ………駆除しないとね。
少し離れた物陰から、彼があの子の家に招かれるのを見収めると、それからの私は辛抱の時間だ。
一〇分、二〇分、三〇分、一時間。
雨に打たれながらも微動だにせず、長い長い時間を静かに待つ。
長い長いと言っても、彼が私の元へ戻ってきたときにどうお迎えするか考えているから、体感時間は十分にも満たない。
今日は話に花が咲いたのか、彼が家から出てきたのは夜の七時。
彼女の家に上がったのが午後四時半を過ぎたところだだったことを考えると、いつもより長めの二時間半という滞在時間だった。
しかもしっかりあの子にお見送りまでされていて、二人とも笑顔で話している。
彼女は家に居るからかラフな格好だったが、それでも彼が訪れると分かっているからか、服装に気を遣っていると一目で分かった。
「………へぇ」
そんなにあのこと話すのが楽しいんだ。
なにより学校で見せていた弱り切った表情は見る影もない。まるであと数日もあれば登校再開できるかのように、ケロッとしていた。
あぁ、やっぱりダメだな………。
彼の姿が見えなくなり、家中に戻ろうとしていた彼女を私は引き留める。
「久しぶり~。
「
名字の呼び捨てなんて随分警戒されているらしい。
ただ彼女をここまで追いやった行為が、全て私の行いだとバレたわけではない筈だ。
「そりゃ心配だったからに決まってるじゃん」
「心配………」
「そうだよ。だから来たの」
嘘じゃない。
本当に心配でなかったらわざわざここまで来る必要も無いのだから。
だけど、折角ここまで訪れた私を門前払いする気なのか、扉の中へ戻ろうとし始める。
「待って」
「アンタと特別仲良いわけでもないし、いいでしょ。………それに私は」
「………疑ってる目」
「そういうこと。もう来ないでね」
そう言うと彼女は扉を閉めようとして────。
その直前、私は傘を持ち変えた。
グリップ部分と尖った先端部分を逆方向へ。
そしてその柄を彼女の肩に引っ掛けると勢いよく引き寄せる。
彼女の体勢がぐらりと揺れ、私の目の前で
「ひっ、やめっ────」
彼女の目はまるで鬼でも見るかのように怯えていて体をわなわな震わせていた。
ソレに。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、何度でも。
全体重を込めて、傘で背中を突き続ける。
度々、ウェッとかオェッとか聞こえてきてお行儀が悪い。
「────やめてよ。千雨ちゃんのせいで私の服が
あ~あ、制服一枚ダメになっちゃったなぁ。
そんなことを考えながらいつまでも突き続ける。
彼女がその呼吸を
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