第5話・女子高生、マジックアイテムを授かる

 ギュンターさんから学んだ魔法。


 それを使って理想のプロポーションになったのはいいのですけれど、まず今まで来ていた衣服のサイズが合わなくなってしまいました。

 これについてはお年玉貯金を崩して少しずつ買い足していくことでどうにかクリアできるのですが、問題は、突然体型が変化したことを、どうお父さんたちに説明すればよいのかということです。

 とりあえずは伸縮性のいい学校指定ジャージを着て、その上から大きめのロングコートを被り、急ぎ近所のショッピングモールへ。

 当面必要な下着の上下とTシャツのセットを数着分購入。

 自宅ではジャージで我慢できるのでこれはクリア。

 幸いなことに、高校の制服はあらかじめ大きめのものを購入してくれたので、なんとか誤魔化すことはできますね。


「ということで、お父さんたちにどうやって誤魔化せばいいのか、その秘訣というか裏技を教えてください!」


 自宅に戻ってから、私は急いで自分の部屋に駆け上がっていくと、再び部屋の真ん中で土下座です。

 こうなったらギュンターさんに頼るしかありませんよ。


『う~む。色々と手はあるのじゃがなぁ。残念なことに、杏子の魔法適性値では、上位魔術を使うにはまだ早いからのう。だが、わしになら可能な手段はある!!』

「教えてください、なんでもしますから!!」


――キュピーン

 あ、なんだか嫌な予感がします。

 私、迂闊なことを行ったかもしれません。


『今、なんでもといったな?』

「え、ええっと……私の出来る範囲ででしたら」

『明日の日曜日、朝から夕方まで体を貸してくれ。町に出かけて、自由に歩き回って見たいのじゃよ』

「え、ええっ……と。そうですね、一日……朝から夕方……う~ん」


 これは困りましたけれど、背に腹は代えられません。


「わかりました。それでいいですよ。でも、貸し出すためにはメガネを外さないとなりませんよね。ギュンターさん、周りの視界ってはっきりみえていますか?」


 確認のために眼鏡をはずします。

 その瞬間に私は深層意識の世界へ、そしてギュンターさんが表に出たようですが。


「霧がかかったように視界がぼやけているのう。いや、目を細めればどうにかできると思うが……」

『それなら、机の右側にある引き出しの、一番上に予備のメガネが入っていますので。それを使ってみてください』

「机の引き出し……と、これじゃな?」


 私から見ても、いまの視界はかなりぼやけています。

 そしてギュンターさんが眼鏡を掛けた瞬間、視界がはっきりとしました。

 でも、やっぱり二年前に使っていた眼鏡ですから、今のものよりはすこしだけ視界がよろしくないですが。


「おお、はっきりと見えるぞ、なるほど、こういうことじゃったか……どれ、面倒くさいから、このまま裏技を使ってやろう……杏子や、普段使いしてもとくに目立たない装飾品はあるかね? できれば貴金属であるとよいのじゃが」

『貴金属ですか? それなら、机の横にあるドレッサーの引き出しに宝石箱が入っていますので。そこに銀の指輪がありますよ?』

「それでよい。では、ちょっと借りるぞ……と、すまぬが、上着だけ脱ぐぞ、魔術による付与を行うので、最悪の場合、この胸当てが吹き飛ぶ!!」

『あ、あの……う~ん、あまり見ないというのなら……』


 仕方がありません。

 これも、私の平穏な日々のため。

 そう思っていると、いきなりギュンターさんが魔法の詠唱を始めました。


「夢魔スティ・グラシアの24の理と、幻術王パラノ・マリカの4番目の術印により、このマテリアルを魔導具に変換せよ。我が望むのは幻影、我が記憶にある中原杏子のたたずまいを抜きつけ、それを実体化せよ……イルジオラ・アニマスっ」


――ヒュゥゥゥゥゥッ

 私の身体の頭、両肩、胸、そして両肘に魔法陣が浮かび上がります。

 やがて6つの魔法陣がパスで繋がると、魔力が胸の法印ティファレトに集まり、そこで高濃度圧縮を開始。

 ゆっくりと指輪を手に取ると、両手で包み込むようにして。


二つ目の願い、受諾せよアクセプト・セカンズ……」


――ヒュゥンッ

 ギュンターさんの言葉と同時に、すべての魔力が手の中に集い、魔法は完成しました。


――ハラハラリッ……

 音もなくブラジャーが千切れ、襤褸ぼろ切れのようになって床に落ちます。

 するとギュンターさんはすぐさま、ベッドに置いてあるバスタオルを体に巻いて、胸を隠してくれます。


『あ、ありがとう』

「いやいや、杏子のいやがることはせぬよ。それに前にも言ってあるじゃろう? わしの好みは、もっとこう、おっぱいがバインバインの女性じゃよ!!」

『はぁ。それを言わなければ、いい話で終わったのに。ちよっとだけ見直したところなのですよ』

「はっはっはっ。まあ、そんな些末なことはどうでもいい。そして、これが今作り出した『幻影の指輪』じゃ。身に付けて、指輪に触れて魔力を流せば、幻影が杏子を包んでくれる。ほれ、試してみるがよい」


――スチャッ

 指輪の使い方を説明してから、ぎゅんたーさんが眼鏡を掛けなおします。

 その瞬間に、私とギュンターさんは入れ替わりました。


「これが……えぇっと、指に付けて、魔力を注いで……」


 不思議なことに、ギュンターさんから魔法についての知識を刷り込まれているせいでしょうか。

 魔力を注ぐという行為自体が、特に苦でもなく自然に行えるようになっています。

 そして魔力を注いだ瞬間。


――ヒュッ

 私の見た感じは特に変わっていないのですけれど、姿見に映っている自分の身体を見て、思わず吹き出しそうになってしまいます。

 そこには、つい先日までのぽっちゃり体系の私が映っていたのですから。

 しかも、私が体を動かしても幻影はぴったりとくつついたまま動いてくれます。

 『太った私の着ぐるみ』を着ている感じと言えばよいのでしょうか。


『ちなみにじゃが、直接触れられたとしても、そのものは太った身体のように錯覚するはずじゃ。幻影同化ファンタズマ認識変換ファレーラ、二つの術印が刻まれているからな』

「そ、それは凄いですね……って、うわぁ、私が触ってもモチモチプニプニしていますよ。でも、校則で指輪とかは禁止されているのですよねぇ」

『別に、学校というところでは誤魔化す必要はあるまい。どうせ明後日の身体検査とやらでバレるのじゃからな。学校の友達程度は言葉で誤魔化せても両親についてはその指輪を使って当面は凌ぐとよいじゃろ』


 そして、誤魔化している最中に、少しずつ幻影を痩せさせるということだそうです。

 異世界の大賢者というひとは、なんでもできるのですね。


「うん……ギュンターさん、ありがとう。私の無茶なお願いを聞いてくれて」

『いやいや、こうして杏子の身体に同居させて貰っているのじゃから、少しくらいは賢者としての知恵も貸してやらぬとな……そうそう、わしが森羅万象で蓄えたこつちの世界の知識も、杏子と共有してあるはずじゃ。こめかみに指をそえて、そこで魔力を指先から流しつつ一つ目の願いよ、受諾せよアクセプト・ワンズと唱えればよい』

「こうですか……一つ目の願いよ、受諾せよアクセプト・ワンズっ」


――キィィィィン

 すると、私の目の前に巨大なモニターが浮かび上がりました。


「こ、こ、これって」

『わしの持つ森羅万象を、杏子でも使えるようにしてあるだけじゃ。そのモニターは杏子にしか見えず、杏子にしか触れられない。あとはほら、いつもやっているググレカスってやつじゃ』

「グーグルサーチですっ!! カスなんて言葉、使ったことありませんよ」

『そうなのか、わしが森羅万象で見た知識の中にあった、ネットミームというやつにあったぞ』


 また、偏った情報を。

 それでもまあ、ギュンターさんは彼なりに、私に色々と気を使ってくれているのでしょう。


「うん、ありがとうございます!!」


 お礼を口に出しつつ、土下座のように頭を下げます。

 別にギュンターさんは返事を返してくれませんでしたけれど、なんとなく、照れているのかなぁってわかってしまいますね。

 

 さて、明日はギュンターさん、どうするのでしょうか。

 初めての一人散歩だなんて、トラブルに巻き込まれなければよいのですけれど。

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