第4話 異端視能力者
「久しぶりだな。レ……、何でもいいか。お前が何者であるかなんて、もう決まりきったことだしな」
「テメェ、どうやってここに来やがった! この船の防衛設備は近づくすべてを迎撃するように俺が設定したはずだ!」
「んなもん、砲弾も銃弾も全部避けて、海上を走ってきたに決まってるだろう」
「は? 何言ってんだテメエ。ガトリングが何門この船に備え付けられてると思ってんだ⁉」
武装豪華客船の武装の所以は、海のモンスターを迎撃するためだ。
ガトリングにミサイル、魚雷まで完備してある。
そこまでやって、ようやくモンスターの跳梁跋扈する海を安全に航海することができるのだ。
そして今はその全ての武装が、近づく船や他のシーカーに向けられている。
絶海の要塞。そういうべき存在になっているのだ、この武装豪華客船は。
「それを、全部避けただと! ふざけたこと言ってんじゃねえ! そんなの『
「お前とは鍛え方が違うんだよ」
「っ……! だがなぁ、テメエに何ができるよォ、今だってブルっちまってんじゃねえか!」
同僚の男が言うことは正しかった。
俺の手は今も震えている。震えているのは常に同じ理由だ。
怖いから。
ではない。
「俺が震えているのはな、常に力んでいるからだ」
「は?」
「色々な物を持ち上げたりしてみたけれど、やっぱり自分の力を自分にかけるっていうのが一番鍛錬の効率が良くてな。場所を選ばんし、時間も気にせず常にできる。だから俺は俺の全身に力を籠め続けているんだ。常にな」
「何を、言って……」
「俺はな。色々な鍛錬をしてきた。水深二万メートルのエルソナ海溝の底で水圧を使って体に負荷を掛けたり、標高一万五千メートルの至天山に行って、高所トレーニングをしたり、地下に潜ってマントルを泳いだりな。色々やった結果、これに行きついたんだ」
「は、はったりに決まってんだろ、そんなん! それに、実際に怖いから戦えないって言ってたじゃねえか⁉」
「勘違いをしているな。俺が怖いのはな、戦って傷つくことじゃない」
俺は一歩踏み出した。
「俺が怖いのはな、勢い余って――」
力みを解く。筋肉が膨張する。服が破れて上半身が露わになる。
そこには無数の傷跡が刻まれていた。
「――殺してしまうことだ」
「銃撃をしろ! 殺せ! こいつは無能力者のはずだ!」
「まだテロリストは残っていたのか」
全部片づけたと思ったんだがな。反省しなくては。
「撃てェ! 撃ちまくれ‼」
数人のテロリストが対能力者用のメガアサルトライフルを乱射する。
銃弾が殺到する。
俺は、その全てを。
指先で一つずつつまんでいった。
「は?」
じゃらじゃらと俺の手のひらから、銃弾が零れ落ちる。
魔力障壁を張った能力者をも殺傷せしめる弾丸であったとしても、俺には効かない。
「次はこっちの番だ。お前は良いな――」
肉迫。
「待っ」
「――殺してもあと腐れなさそうで」
拳を振り抜く。その途中で、ソニックブームをまき散らす。音速を超えた証だ。
頬骨に突き刺さった拳は、その勢いと俺の膂力を余すことなく伝えて。
元同僚の男を彼方の星にした。
ソレが今回の事件の決着だった。
□
「す、すごい! アラタさん! 凄いです!」
「怪我はしてないか?」
「だ、大丈夫です! ちょっと疲れてますけど」
「そうか。ゆっくり休んでくれ」
それじゃあ、と立ち去ろうとした時だった。
「待ってください! アラタさん!」
少女に呼び止められる。
「どうかしたか? やっぱりどこか怪我を……」
「貴方なら、なれます」
真っ直ぐ俺を見つめて少女はこう言った。
「世界最高のシーカーに‼‼‼」
とても大きな声で。
俺は驚いて、手のひらから火炎を漏らしてしまった。
「え」
「え?」
何で?
「ま、まさか、アラタさん、能力に目覚めたんですか?」
「いや、これは、違うな……」
「え、それじゃあ、まさか」
「能力を、奪ってしまったんだと思う」
これは、マズい。
マズすぎるぞ……‼‼
□
この時代において、『
世界における異能力者の割合は一割程度。しかし先進国と途上国の
しかし量以上に酷いのが、質の隔たりだ。
大国に数えられる条件が、一つの軍隊に匹敵する『
逆い言えばそれ未満の能力者がいくらいても、軍事力的には勝ち目がないということだ。
今や能力者と言えば、現代の生きた核兵器であると揶揄する者もいる。
それだけ能力者というのは、この時代の主役であり、けっして『無視』することのできない存在であるということだ。
では、そんな時代において、能力を奪う能力者の存在は、国際的のどんな意味を持つだろうか。
答えは単純明快だ。
『
世界各国からの拉致、もしくは殺害が横行する。
当然だろう。
言ってしまえば自国の核兵器を好きなように盗み取れると言っているような物なのだ。
マズい、なんてものではない。
彼は、これから。
世界中を巻き込んだ騒乱の台風の目となっていくだろう。
果たしてそんな中で、彼がどんな答えを出すのか。
ソレはまだ誰も知る由はない。
未来を見る能力者たちであったとしても、だ。
□
けれど俺の中で一つだけ決まっていることがある。
俺は約束を守る。
アヤノに言われたように、幸せを求め続ける。
天国に行った時、彼女にたくさんの土産話ができるように。
俺はいつだって、幸せを探し求めるのだ。
因果応報 ジャッジメント・プレデター ポテッ党 @poteto_party
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