第27話 デートのはじまり

豪奢な馬車が石畳の上を走っていく。

窓に顔を寄せたエルシャは思わず歓声を上げた。


「わぁ……」


外には瀟洒な街並みが広がっていた。

ショーウィンドウには色とりどりの商品が並べられ、店の前を綺麗に着飾った紳士淑女が行き交う。

きらびやかなその光景にエルシャはすっかり魅了された。


(メルベルクよりもさらに栄えているみたいね。さすがは王都だわ……)


初めて王都に連れてこられた日には景色を楽しむ余裕などなかったが、こうして見るととても美しい場所だ。


すっかり景色に夢中になっていると、不意に強い視線を感じる。振り向くと、向かいに座るオズヴァルドがじっとこちらを眺めていた。


「どうかしましたか?」

「いいや。ただ、君を見ていた」

「……? 私、何か変ですか」

「あまりに美しいから見惚れていただけだ」

「…………そ、そうですか」


(返答に困るわ……)


デートという名目でオズヴァルドが提案したのは王都の観光だった。

エルシャは王都に来て以来、王宮から出たことがない。そんなエルシャのために、今日一日オズヴァルドが案内をしてくれることになったのだ。


(まさか、オズヴァルドと王都を観光する日が来るなんてね)


エルシャが感慨に耽っていると、再び強い視線を感じる。いつの間にやら、オズヴァルドはエルシャの隣に移動していた。


(ち、近い……)


「オズヴァルド? どうして隣に……」

「君をもっとよく見ようと思って」

「私なんて見ても面白くないですよ。綺麗な景色でも見た方が……」

「国中を探しても君ほど美しいものは見つからないはずだ」

「…………」


よくもまあそんな台詞を恥ずかしげもなく言えるものだ。

さすがにこの距離で見つめられると落ち着かない。エルシャは必死にオズヴァルドから離れる言い訳を探した。


「せ、狭いです」

「そうか。では私の膝の上にでも座るか?」

「……それは結構です」

「そう遠慮するな」


そっと距離を取ればすかさずオズヴァルドが近付いてくる。そのうちに窓際まで追い詰められてしまい、エルシャは赤くなった。


「ど、どうしてこっちに来るんですか」

「顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」

「わかってて言ってますよね……」

「……さあ?」


オズヴァルドは悪戯っぽく笑う。

エルシャの頬はますます紅潮していった。


(オズヴァルドといると調子が狂うわ……!)


こんな調子で今日一日心臓が持つのだろうか。そんな不安を覚え始めたとき、馬車が止まった。


「……着いたみたいだな」


外を確認したオズヴァルドは少しだけ残念そうな顔をした。しかしすぐに元の表情に戻ると、エルシャに手を差し伸べた。


「さあ、行こうか」

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