第16話

金剛姫と沙雪が対面した一方、


「ふぃ~遠いよぉ!後一個山を越えなきゃいけないって田舎過ぎるんだよ!」


十五年も通い続けているとはいえ、キツイものはキツイ。特に今日のように向かい風が吹いている日は地獄だ。自転車を動かすのに、通常の百倍くらいの力を入れている気分になる。それなのに、いつもより自転車が動かない。


俺はもしかしたら、向かい風が一番嫌いなのかもしれない。


「早く家に帰って夕霧のご飯を食べたいなぁ。俺の村一番の癒しだ」


『毒入りやけどなwww』

『癒すどころか殺しに来てる飯だぞ?あれ、それだとなんでクルーシャ様は平気なんや?』

『茶碗に毒無効のスキルでも付与してるんちゃうん?』

『ああ、それはありそうや。義妹ちゃんほどではないが、夕霧さんも隙さえあれば殺そうとするタイプやろうしな』


「はぁ、でも、干将/莫邪を壊したのは怒られるよなぁ…うう、胃が痛い…」


『干将莫邪が壊れても凹む必要はないで。むしろ、クルーシャ様は喜ぶで?新ちゃんに構ってほしくて割り箸を渡したんやからな』

『今度はどんな武器を渡すんやろうな?』

『それより、自転車でエルフの正装はやめろwww帰りの電車で笑っちまうねんwww』

『ワイもやwww腹筋が崩壊しそうwww』


ようやく目の前に山道が見えた。ここを超えれば、家に着く。


「新也」


「わわっと!?」


突然、真横から話しかけられたら、俺も驚いてしまう。自転車から落ちてしまった。


『大丈夫か!?』

『すっげぇ転び方したなwww』


俺は立ち上がって、服をパンパン…する必要はなかった。今はエルフの正装だった。治癒草の位置だけ元の位置に調整する。そして、驚かせてきた張本人を睨む。


「心臓に悪いんだから、驚かすのはやめてくれって言ってるだろ?サクナ姉…」


「妾が何をしようとも、新也に止められる筋合いはない」


「はい…」


『妖狐だ!』

『すげぇ!マジもんだ!』

『威圧感半端ねぇな…』

『キセルがめっちゃ似合ってる』

『この村、なんでもありやな…』

『義妹ちゃん、解説よろ』

『息してないな』


いつも通りの横柄な態度にため息がこぼれてしまう。すると、ドローンが俺の肩にトントンと叩いてきた。また解説が欲しいのだろう。


「この人は、妖狐のサクナ。俺はサクナ姉って呼んでる。この山で社を作って一人暮らしをしている妖狐の末裔。村でも指折りの実力者で、めっちゃ性格が悪い」


「おい」


『新ちゃんが性格が悪いって言った…だと?』

『それは相当やろうな』

『アカンやろ、それ』

『まぁ顔からしてめっちゃ怖い上司みたいだもんな』


そして、例のごとく俺はドローンの説明をする。それをずっと毛づくろいをしながら、聞いていた。興味がないなら聞くんじゃねぇよと内心思っていたが、怒るとめっちゃ怖いので、何も言えない。子供の頃から調教されているので、正直怖くて仕方がない。


ダンジョンに一人で置いてかれたり、クルーシャからもらった武器を壊されたり、夕霧のご飯に嫌いなピーマンをのっけたりと、中々酷いことをされている。


そして、何よりも俺は弱みを握られている。絶対に逆らうことができないのだ。


「妾の社に来い」


「え、嫌だ」


『即答www』

『めっちゃ嫌そうな顔をしてるwww』


反射的に俺は答えてしまったが、これは悪手だった。


「ほぉ…それなら妾が新也の秘密を村中に伝えてしまってもいいんだな?」


「いいえ、手伝わせていただきます!」


村に俺の黒歴史を共有されたら、色々終わる。俺は観念して、サクナ姉についていくことにした。


「それより、その格好はなんだ?」


「エルフの正装だよ。セフィさんに教えてもらったんだ」


「そんなわけない…いや、まぁいいか…こいつの倫理はどうなっているんだ…?」


『めっちゃ正論やなwww』

『ドローン君が高性能すぎて助かります』

『新ちゃんの秘密って気になるな』

『一体なんやろうな?ここまで露骨に隠されるとめっちゃ気になるわ』

『エルフの正装ですら黒歴史にならないんだから、相当のものやろ?』


サクナ姉が俺の身体にふさふさでもふもふの尻尾を俺の身体にくっつける。なぜか俺の治癒草を外そうともふもふしてくるのだが、それはやめてほしい。全裸になるのはまだ抵抗があるのだ。


『おいwww』

『もう同類やろこれwww』

『知ってたけど、いつボロを出すのかずっと気になってたwww』

『新ちゃんも治癒草を外されるのはいやなのねwww』

『そこに羞恥心があってギリギリ人間の尊厳を守れてるよwww』


「着いたぞ?」


「相変わらず凄いね」


霧が晴れると、立派な社が立っていた。鳥居の前に俺たちは転移したと言ってもいい。それより、そろそろ尻尾でもふもふするのはやめてほしい。治癒草が外れちゃうし、何よりも転移は終わったのだ。


『うへぇ、これは空間魔法か?』

『サクナさんも使えるんだな』

『それより尻尾の動きよ』

『本体のサクナさんはクールだけど、尻尾が荒ぶってるな』

『内心を表していると思えば可愛いもんだ』


「サクナ姉はこの山一帯の主でね、この山でのサクナ姉は最強といってもいい。だから、門番の役割も担っているんだ。空間魔法もお手の物なんだ」


サクナ姉は地縛霊のような存在で、自分が領域と定めた場所では無類の力を発揮する。とはいえ、自分の領域以外でも当然強い。


そして、鳥居をくぐって、サクナ姉の住んでいる社に向かう。鳥居や社はとても綺麗な紅葉色をしている。もう何年目なのか分からないが新築のような綺麗な家はとても素晴らしい。


本当に、外観は綺麗なんだよなぁ…


社の扉を開けて、部屋に入ると、そこには


「もおおおおお!なんでこんなに散らかすかなあああああ!?」


そこには本が部屋中に散らばっていた。どれも表紙は麦のような色で統一されており、何がなんだか分からない。


「こんなに汚かったら、どれがどれだか分からないでしょ…?」


「妾を舐めるな。すべてどんな本なのか把握している」


「それなら、自分で掃除をしなよ…」


「断る。妾がなぜそんな面倒なことをしなければならない?」


「えええ…」


もう嫌だ。帰りたい。


幸い自転車も鳥居のところにある。俺はダッシュで逃げれば、帰れるかもしれないと思ったのだが、


「もし、帰ろうと思うなら好きにしてもいいぞ?」


キセルを吹かしながら俺の方を見ていた。


「あ、それなら「新也の初恋が妾だという話を村に流布するがな」それは言わないでええええ!」


『えええ!?マジで!?』

『新ちゃんの初恋なんwww!?』

『超以外www』

『いや、それでもエルフの正装でいるよりもええやろwww』

『可愛いなぁwww』


「ふふ、『お姉ちゃんだ~い好き♡』『もふもふしてえ』とか言っていたのが懐かしいな」


「違う!『サクナ姉、好きだ』と『モフモフさせてくれよぉ』としか言ってない!そんな媚びたことを言うわけがないじゃん!」


「語るに落ちるにもほどがあるだろ…」


「あ」


『可愛いなwww』

『10歳だったら可愛いよwww』


「とにかく、つべこべ言わずに、片付けろ。後、三十分で片付けなかったら、村人に伝えるぞ?」


「このろくでなし!」


俺に逃げ道はなかった。さっそく部屋に散らばっている本を一冊ずつ元に戻す。絶対に中身を見るなと言われている。この間、サクナ姉は全く手伝ってくれない。自分の手鏡を熱心に見つめていた。


「うう…過去の俺は一体何をしているんだ…騙されやすいにもほどがある…」


『気にすんな。今もそんなに変わってねぇから』

『それな』

『オレオレ詐欺もびっくりするくらいの騙されやすさやからな』

『それよりどういう経緯で惚れたん?』


ドローンがどんどんとぶつかってくる。普通に痛い。聞きたいのは俺がなぜサクナ姉に惚れたかだろう。


「いや、それは」


「新也が齢10歳の時だったか?妾が異世界からこっちに引っ越してきたときに、妾を見てボーっとしてたな。そして、そこに生えていたタンポポをちぎって妾のところに来ると、『お嬢さん、俺と草取りでもしませんか?』って言って口説いてきたんだよ。流石の妾も困惑したな』


「なんで言うのぉ!」


『『俺と草取りでもしませんか』www』

『それは痛いwww』

『いや、それでも可愛いでwww?』


「面白い餓鬼だなぁと思ったので、妾の小間使いにしてやったのさ。こっちの世界には妾の侍女はいなかったからな」


キセルを吹かしながら、鏡をずっと見続けている。俺は一切、手を止めることがない。


「う…う、酷ぇよ…俺の純情を弄びやがって!『部屋の片づけをしてくれたら、お姉ちゃん、惚れちゃうかも』とか、『油揚げを作ってくれる優しい人はいないかなぁ、もし、いたら夫にしてあげるのに』とか言って五年間も俺を弄びやがって…!」


俺はそうやってずっと騙され続けた。そして、五年後、沙雪に出会うことによって、眼を覚ますことができたのだ。


最初は確かにお姉ちゃんだったサクナ姉も狐の化けの皮が剥がれると、徐々に『お姉ちゃん』から今の『女王』へと変貌した。そして、今の今まで、過去のことでいじられ続けられて、ずっと小間使いをしている。


「さっさと部屋を片付けろ。妾が寝るところがないではないか?本を片付けたら、庭掃除も頼むぞ?」


「くっそぉ!」


俺は増えた仕事に一切不満を言うこともなく、片づけをした。


『なんか今までのヒドインとは違うな…』

『それな。恋愛感情とか持ってなさそうやん』

『いや、でも治癒草を捲ろうとしてたで?』

『アレは嫌がらせなんじゃないかな?』

『確かに、そう考えたら合点がいくな』


━━━


━━



部屋掃除が終わり、庭も片付け、山に潜むモンスターの退治もさせられて、日が暮れていた。


「それじゃあ帰るよ?」


「ふむ。ご苦労。帰りくらいは送ってやろう」


「お、ありがとう」


さっきからずっと鏡を見ていたのだが、ようやく、こっちを向いた。そして、霧が発生すると、すぐ目の前が家だった。


「ありがとう…サクナ姉…あれ?」


もう既にいなくなっていた。相変わらず淡白な人だ。昔のお姉さんだった頃が懐かしくなった。


「アレ、またドローンがいなくなってる…」


よくいなくなるなぁ…まぁ放っておいても帰ってくるからいいか。

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