金剛姫side3
新さんの力は圧倒的だった。『聖なる剣』を一切寄せ付けず、完勝。ここまでの成果は予想していなかったが、もうこれは本物だった。
恰好は変態だったけど…
狂王子の焔さんは腕を組み、
「俺の想像以上だ。新也はハゼじゃなくてアザラシだったんだな…」
と言っていた。何を言っているのか全く分からなかったが言わんとしていることは分かった。度肝を抜かれたということだろう。
「今日はお時間をいただきありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。おかげで沙雪にしてあげられることが増えます」
新さんは結局最後までエルフの正装だった。そろそろ服を着て欲しい。
『いいこと言ってるのにエルフの正装のせいで何も頭に入ってこねぇのよ』
『ほんまに嘘付きすぎやで、エルフの皆さん…』
『すぐに染まる新ちゃんも新ちゃんだしなwww』
『それな。おっさんなのに素直さが赤子なんや』
今は義妹ちゃんの病院に着いたところだ。家まで送ろうかと新さんに提案したが断った。病院から相当山奥に村があるらしく、とてもじゃないが、車では迷ってしまうとのことだった。
ひとまずダンジョンに一緒に潜る約束もしたし、またすぐに任務で会えるだろう。それに色仕掛けの方もだいぶ手応えがあった。これで
「それでは失礼します」
「はい、また今度」
新さんは自転車に乗って、夕陽の彼方へと向かっていった。丁度、角を曲がってあちら側から見えなくなった時、私は作戦を実行する。
「銀蜘蛛、いいですね?」
「はい。お任せください」
新さんには悪いが私の今回の狙いはこれだけではない。新さんの出身の亜人種たちの住まう村を発見することだ。エルフが人間を支配しようとしているという事実を知った今、日本、いや、世界に危機が迫っていると言っても過言ではない。
その時に敵の本拠地を知らなければ対応が後手後手に回ってしまう。よって新さんには内緒で付けさせてもらう。純粋な新さんを騙しているようで悪いが、これも国のためだ。
私たちは車に乗り込み、すぐに新さんを追いかけた。角を曲がると新さんの自転車が見つかった。このままある程度の距離をとって、尾行した…のだが
「あの、新也さんはどうなっているのですか…?」
「分かりません…というより自転車でなぜあれほどのスピードを出せているのですか…?」
車の最高速度は180km/h、私のリムジンはオーダーメイドなので300km/hまで速度を出すことができる。そして、現在、新さんとの距離は全く縮まらないのだ。
「なるほど…ドローンでは確認できないわけです」
「どういうことですか?」
「配信で自転車の速度に言及する人がいないことですよ。一本道で、風景がほとんど変わらない上に、ドローンと新さんは等倍の速度で進んでいるので、300km/hでさえ止まって見えるのです」
「なるほど…」
ただ、それでも新さんが全力で自転車を漕いでいるとは到底思えない。まだ余力があるように思える。ただ、新さんがこのままのペースを維持してくれれば、村にたどり着くことができる。
配信で新さんの状況をつぶさにチェックする。すると、
「金剛姫さん、綺麗だったなぁ」
私のことを呟いていた。
『ずっと、金剛姫さんに夢中だったしなwww』
『ってか視線がずっと45度下を向いていたぞぉ?www』
『信じられんけど、
下々にそう見られているということは私のやっていることがあっているということだろう。
…と思っていたのだが、意外と新さんのことは嫌いではない。マナーもしっかりしているし、謙虚だし、優しいし、Sランクモンスターを倒す日本の救世主となりうる存在だ。
「ただ、不思議なのは『
『まだ言ってるwww』
『義妹ちゃんが
『
『怖いもの知らずやなぁwww』
『でも
『気のせいや。金剛姫が解説してたやろ?』
そういえばさきほどの病院に義妹ちゃんがいると教えてもらった。こういうのはやってはいけないことなのだろうけど、帰りがけに義妹ちゃんのいる病院を訪ねよう。そうすれば、運が良ければ新さんについて教えてもらえるかもしれないし、何よりも義妹ちゃん自身について興味がある。
「お嬢様!?止まります!」
「え?」
銀蜘蛛が急ブレーキをかけた。配信に夢中になっていて気が付かなかったが、道が霧に覆われて、何も見えなくなっていた。私と銀蜘蛛は外に出て、周囲を確認するが、新さんの行方は分からない。配信をみてみると、霧など全くない。私たちだけが霧に迷い込んだようなものだった。
「銀蜘蛛、どこかで道を間違えましたか?」
「そんなはずはありません!私は新さんだけを追いかけてきましたし、道は一本道です。とてもじゃないですが、迷う要素がありません!」
「ですよね…」
しかし、辺りを見回しても、私たち以外に誰もいない。
「迷い人か…」
「え?」
前方から人の声が聞こえた。鈴のようでいて、威圧感のある声に私と銀蜘蛛は臨戦態勢をとる。霧の奥から人影が浮かんだ。一歩一歩、近づいてくる音が私たちの脳に警告音を鳴らす。そして、全体像が見えると私たちは息を吞んだ。
「妖狐…?」
九本の尾を持つ、伝説的な妖怪だ。神聖な巫女服に身を包み、キセルを吹かす。そして、その金色の瞳はさきほどから私たちを捉えて離さない。まるで下手なことをしたら殺すと言われているようだった。
「村のことを知ったのなら口封じをするというのが掟」
「「ッ!」」
私と銀蜘蛛はここを死地と決めた。互いに得物を構えて、妖狐に向ける。
「だが、今日の妾は気分がいい。運が良かったな、迷い人よ。妾の姿を見れて、生きて帰れる人間などそうはいない」
妖狐は私たちに興味を失くしたのか、反転して霧の奥に向かった。
「待ちなさい!」
だが、このまま逃がすわけにはいかない。亜人は一人でも倒しておかないと、日本が滅びる。私は『バハムート』を持って、妖狐に斬りかかった。しかし、私の剣は霧を斬るだけで何も起こらなかった。妖狐は本当に私たちに興味がなかったらしい
すると、徐々に霧が晴れてきて、視界がクリアになる。私たちの目の前には義妹ちゃんが入院していた病院があった。
「し、信じられません…!私たちは確かに新也さんを追いかけていたはずです…!」
銀蜘蛛の言う通り、私たちは確かに新さんを追いかけていた。だが、目の前にあるのは義妹ちゃんのいる病院。私たちは狐の化かしにあった気分だった。
「…早急に対策を打たなければなりませんね」
私の中での危機感、そして、さらに強くならなければならないという使命感が私を襲った。
「こうしてはいられません…!」
「お嬢様!?」
私はいてもたってもいられなくなり、病院に駆け込んだ。そして、受付に駆け寄ると、
「すいません、山口さん、いえ、山口新也さんの妹さんのお見舞いにきました」
「え、え~と、山口沙雪さんのことですかね…?失礼ですが、どのような関係なのですか?」
受付の方が困惑していた。当然の疑問だ。義妹ちゃんは重病で入院しているというのに、私のような見ず知らずの人が来たら警戒するのは当然だ。
「私は山口新也さんの婚約者です。新さんの家に挨拶に行く前に義妹に挨拶を、と思いまして…」
「あ、そういうことでしたか…でしたら、五階に上がって、すぐの部屋になります」
「ありがとうございます!」
私は言われるやいなやすぐに階段を駆け上がる。とてつもない迷惑だろうが、私は村についてすべてを知らなければならない。
「お、お嬢様!お待ちください!流石に迷惑です」
「分かっています」
銀蜘蛛が注意してくるが、それどころではない。私は五階に着くと、山口沙雪という表札を見つけた。そして、ノックを軽くすると、
「はいはいどうぞ~」
この感じだ。義妹ちゃんに違いない。私は部屋の扉を開ける。そこには、
「藪医者~、ポテチが切れたからダッシュで買ってこい。後、ジェット機の振動で身体が疲れたからマッサージ専用の看護婦を連れてき………は?」
目の前にいるのはポテチを食べながら、横になっている義妹ちゃんがいた。そして、こちらを見ると、ポテチをこぼしてしまっていた。
なぜ病人なのにポテチを食べているのか。飲み終わったコーラのペットボトルがそこら辺に捨ててあるのか。
いや、そんなことはどうでもいい。
「な、なぜ
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