サクナside

「ふぅ…行ったか」


新也を家に帰すと、妾はすぐに社に戻った。


『え~ん、置いてかれたよぉ』

『またかよ…』

『新ちゃん、迎えに来てぇ』


新也のドローンが主人をなくして彷徨っていた。少しだけ興味をそそられたので、ドローンを捕まえた。


『な、なんだ!何をする!?』

『助けて新ちゃん!』


意志を持っているようで、持っていない。不思議なものだ。ただ、これがあの義妹のものだという時点で、何もないわけがない。何か裏でもあるのだろう。


「今の妾にはどうでもいいことか」


妾はドローンをくまなく調べた後、手を離す。すると、少しだけ高所に浮かんだあと、妾を見下ろした。頭が高いと言いたくなるところだが、今の妾はやらなければならないことがある。


部屋に戻ると、妾は本棚を再び崩し、数冊持って、縁側に移動する、新也が綺麗に掃除してくれた庭を見ながら、読書をするのが風情を感じられて、とても良い。


「これが趣というやつか…」


銀髪美女:『ワイの兄さんのエルフの正装で何を悟ってんねん』


『おっ、義妹ちゃんだ』

『ええ、ツッコミや』

『ワイも驚いたもん。本の中身が新ちゃんのエルフの正装やしな』

『一体何で趣を悟ってるねんwww』


妾は今日、記録した新也のエルフの正装とやらを本に念写する。妾のスキル『映像記憶』、そして、『複製魔法』があれば今日の新也をすべて記録できる。そして、毎日毎晩、新也が妾に告ってきたときからの記録を眺めている。


『それで、義妹ちゃん、サクナさんってどんな人なん?』


銀髪美女:『盗撮魔やで』


『自己紹介はええんや。ワイはサクナさんのことを聞いているんやで?』


銀髪美女:『だから、盗撮魔やって言ってるやんけ。しかも、超絶変態やで?ありあまるスキルと魔法をすべて兄さんのために使ってるんや。しかも性格も腹黒やからな』


『いや、それは義妹ちゃんのことやん』

『それな。自己紹介はせんでももう知ってるで?』

『というか同類ってことかwww』


銀髪美女:『ワイとサクナを同類扱いは許さんで?個人的にサクナには恨みしかないねん!ワイの兄さんの初めてを奪った女やからな!』


『え!?新ちゃん、童貞ちゃうん?』

『いや、失礼すぎるやろwww』

『流石に30過ぎて童貞…いや、ありうるのか…?』


銀髪美女:『これだから童貞共は…発想が貧困やなぁ。ワイの言う初めてってのは兄さんの初恋がサクナだってことや』


『なんだよそんなことかwww』

『俺らより圧倒的にお子様やないかwww』

『ちなみに新ちゃんは童貞なん?』


銀髪美女:『当たり前や。というかそうじゃなかったら、世界を滅ぼす』


『怖』

『アレ?サクナさんって新ちゃんのことが好きなんだよな…?それで新ちゃんの初恋…義妹ちゃんたちに勝ち目ってなくね?』

『それは思った。サクナさんって確実に新ちゃんのことを好きだよな?』


銀髪美女:『ああ、それなら大丈夫や。サクナの性格的に兄さんと結ばれることはないねん』


『どういうこと?』


「ああ、何で妾は新也を前にすると、ああなってしまうのか…」


自分の性格が本当に嫌になる。昔のように新也に甘えさせるような姉オーラを出せれば良いのだが、新也を前にすると、素直になれない。それはというのも、


「治癒草を盗ろうとしたとき、そして、妾に部屋と境内の掃除を頼まれたときの、嫌そうな表情…とても甘美な表情をしておったな…」


スキル『映像記憶』で記憶した新也の表情を『複製魔法』で本に載せていく。


銀髪美女:『サクナはめっちゃドSやねん。特に好きな相手になると、そのドSを隠しきれんのじゃ』


『なんじゃそりゃあwww』

『新ちゃんが性格が悪いって言ってたのってそういうことかwww』

『好きな子をイジメたくなるっていうタイプなのねwww』


新也が嫌がっている表情を見せると、本気でイジメたくなる。妾の内側にある激情が新也を困らせろと言ってくるのだ。もちろん、これが新也からの好意をどんどん失わせている要因だというのは分かっている。だが、止めることができないのだ。


「それでも妾のことを嫌いにならずにいてくれるのは本当に嬉しいが…」


なんやかんや二十年近く付き合ってくれているのだ。新也の優しさには頭が上がらない。


銀髪美女:『惚気んな』


『辛辣やなwww』

『まぁ新ちゃんの性格がいいのは今に始まったことじゃないしな』

『ああ、新ちゃんの周りの女共の性格が悪すぎるだけやしな』

『違いない』

『そういや、義妹ちゃんってサクナさんと関わりはあんの?』


銀髪美女:『あるで。兄さんが狐の皮を被った女に騙されてると思ったワイは兄さんの眼を覚まさねばならんと思ったんや。決して、嫉妬していたとかじゃないで?』


『はいはい』

『分かってるで』


銀髪美女:『そんで分かったんや。この女は兄さんの前だと優しいお姉さんを演じてるってな。純情な兄さんの心を弄びやがって!と正義感が湧いてきたんだわ』


『近所のお姉さんに憧れる少年みたいな感じやな』

『それより、女って本当に怖いわ。ここまで自分のことを棚に上げられるのも天才的やわ』


銀髪美女:『それでワイは兄さんにサクナが兄さんのことなんてなんとも思っていない。よくて蚊くらいにしか思っていないよ、って忠告したんや』


『ほうほう』

『女の嫉妬が怖いよぉ』

『この程度、女社会なら普通やで?』

『ひぇぇ』


銀髪美女:『そしたら、兄さんは次の日に、実際にサクナの社に行って、ワイに言われてたことを確認して、ショックを受けてもうたんや。まさか近所のお姉さんがドSだなんて思わなかったようやからな』


『ほぇぇ…』

『人間知らない方がいいこともあるからな』


銀髪美女:『ただ、その後の展開がワイには予想できんかったんよ…』


私はかつての過ちを思い出す。いや、ある意味では過ちではないのだが…


新也のことを意識したのは新也が15の頃だった。あの頭の可笑しい義妹がこの村に引っ越してきて少し経った頃だった。


ある日、妾が社でのんびりしていると、新也がやってきた。そして、


「サクナ姉は俺のことを騙していないよね?」


と言ってきた。なんのことだと思って、新也に話を聞くと、義妹は妾が腹黒で新也のことなどなんとも思っていないクソにクソを煮詰めた最悪の性格をしていると言って来たのだ。流石に少しだけキレかけた。当然、否定しようと思った。


しかし、目の前で不安そうにしている新也を見て、妾の中で嗜虐心が湧いてきた。10の頃から15に至るまで妾に懸想してきた新也がもし、妾の本性を知ったらどうなるのか。それでも葛藤したのだが、


「妾はお前のことなど、何とも思っていない」


言ってしまった。その時の新也の表情は見事なまでに絶望に染まってしまった。それから新也は妾の社に来なくなった。当然、やり過ぎた妾は新也に謝ろうと、何度も捕まえたのだが、新也を前にすると、すぐにイジメたくなってしまい、我慢をすることができなかった。


そんなことを続けていると、妾の中で新也のことばかり、頭に浮かぶようになった。そのあたりで妾は新也のことが好きなんだと自覚し始めた。それと同時に、妾はなんてことをしてしまったのだろうかと後悔した。


「まさか妾はイジメればイジメるほど、新也のことを好きになってしまう気質を持っておるとは…我ながら難儀すぎるぞ…」


昔のように新也に関心がなかった頃のように振舞うことができない。だが、新也はあの時の妾が好きだった。とんだジレンマを抱えてしまったものだ。


『一番最初にクリアしたのに…』

『全くや…勝手にスタートに戻るどころか、新ちゃんの攻略難度をMaxにしとるで…?』

『まぁ自業自得やろ。普通に性格が悪いと思うわ』

『それに関しては同感やな』

『好きな子をイジメたくなる気持ちは分かるで。ただ、相手に嫌われるからな…』


ドローンが肩に当たってくる。まるで、妾の内心を当てているようだった。


「分かっている。まずは新也に謝らなければ始まらない」


『おっ、偉い』

『まずは誠意が大事やからな』

『でも、いざ本人を目にすると、素直になれない…んじゃなくて、素直になりすぎてイジメたくなるんやろうな…』


新也を前にすると、素直になり過ぎてしまう。それなら段階を踏まなければならない。そこで始めたのが、


「新也の私生活の記録だ。この本に記録されている新也に対して、謝る練習をすれば良い。本物でなければ謝ることなど造作もない」


『段階を踏むのは良いのだが、下山していないか…?』

『なんだろう…盗撮を肯定してるよなwww』

『いや、それにしてもページよwww今日のエルフの正装やないかwww』


私は深呼吸をした。そして、


「この時の新也の表情は甘美すぎる…だが、なぜもっとイジメなかったのか…は!?」


治癒草をいじられている時の新也の表情を見て、妾は興奮が止まらなかった。もっと強引に葉っぱを剥してしまって良かったのではないか。そうなったときの新也の羞恥心の表情を見てみたかった。


いや、そうじゃない。なぜ妾は謝る練習をしていたのに、新也の表情を見て興奮しているのだろう。


『なんか人生楽しそうやなwww』

『それなwww』


「そうか。この被写体が良くないのだ。劣情を煽ってくる裸の新也に謝るなどほぼ不可能だ…!」


『その通りやな』

『まずは服を着た新ちゃんにしとくべきやで?』

『エッチな映像じゃ理性がイカレるしな?』


「そうと決まれば新也の被写体を集めなければ。鏡魔法」


妾は自分の手鏡を見る。すると、ドローンが後ろから近付いてきた。解説を求めているようだった。


「鏡魔法は任意の鏡とこの手鏡をつながる魔法だ。今、繋げているのは新也の家の鏡だ。新也はいつもこの時間に風呂に入るからな」


『おいwww』

『服を着た新ちゃんはどうしたんやwww』

『おもっくそ煩悩丸出しやんwww』


銀髪美女:『ほぉ…ええ魔法やないか。ワイの兄さんを盗撮するのは許せんが、今は休戦と行こうや』


『自分を棚に上げすぎやwww』

『鏡見ろよ』


ドラム缶風呂が見える位置に置いてある鏡からは何も見えない。いつもだったら、風呂に入っているのだが今日はそういうわけではないらしい。


仕方がないので、妾は部屋の中を覗く。あまり人の家を覗くのは好きではないのだが、これも妾が新也と結ばれるためだ。


「は?なぜ、お前らが新也の家に…!?」


そこに映っていたのは新也。そして、クルーシャ、夕霧が新也にご飯を食べさせていた。そんな脳内寝取られのショッキングすぎる映像に妾はいてもたってもいられなくなった。


「こうしちゃおれん…!すぐに新也の家に向かわねば…!」


『サクナさん参戦確定やな』

『さぁ、どうなる』

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