第14話

「ここが会場になります」


「お、おお。建物の中にこんな開けた場所が…」


ビルの中だというのに二十メートルはありそうなほどの天井で、フィールドの形状はドームになっている。この中にあるものだったらなんでも使っていいと言われているような気がした。


「ふっ、遅かったじゃないか」前歯キラーン


『あ、アレは!光速の槍ライトニング・スピア!』

『めっちゃかっけえええ!』

『こっち向いてぇ!司さまぁ!』

『イケメンすぎるうううう!』

『『叡智の貴公子』様もこっち向いてえええ!そのドエスな視線で私を殺してええ!』

『『狂王子』さまもぉ!いつもの天然で私を射抜いてほしいぃぃ』

『雌共がうるせぇな』

『全くや』

『ワイ男やで?』

『ごめんなさい』


俺たちの対角線上の場所からとてもイケメンなお兄さんが現れた。しかも三人もだ。そして、優雅に現れたかと思いきや、俺の方を見て血相を変えて走ってきた。


「き、君!銀色の風シルフ様になんてことをさせているんだ!無礼だよ!?」前歯キラーン


「え?いや、勝手に腕を掴まれているんですが…」


というか腕どころか身体ごとおれに預けている。銀色の風シルフちゃん、そろそろどいてくれないかな。


「ふっ、『叡智の貴公子』の前で嘘をつくとは愚か者だな。俺は分かるぞ。何か、スキルを使っているな?」片眼鏡キラーン


「いえ、全く」


『ホイホイしとるやないかいwww』

『嘘はいかんぞ嘘は』

『でも、効果が分からないからいいんじゃない?』


「狂王子の俺の鼻もビンビンだぜ?お前は求愛中のタコだ」


ボサボサ頭のイケメンさんが俺につっかかってきた。俺はその言葉に少しだけムッとした。


「それを言うなら、空飛ぶ金魚ですよ?」


俺の返答にボサボサ頭のイケメンさんが一瞬詰まるがすぐにニヒルに笑った。


「甘いな。空を飛ぶのはセイウチだ」


「いやいや、セイウチはたんぽぽです」


『一体なんの話をしとんねんwww』

『何も分からねえwww』

『新ちゃんが普通にすげぇwww狂王子と会話できる人間がいるのかよ』

『天然王VS鈍感王www』

『焔君、心なしか楽しそうにしてるwww』

『新ちゃんもやな。まさか『狂王子』と新ちゃんのカップリングが見られるとは…』

『ただ通訳してくれ。常人には何も分からねえwww』

『それな。求愛中のタコから何もわからねぇよwww』


ふむ、このボサボサ頭の人が何を言っているのか全く分からないな。とりあえずノッたけど。すると、


「あんた、名前は?」


「あ、はい。山口新也です」


「ふっ俺は谷川焔だ。通名は『狂王子』だ。焔でも、狂王子でも好きな方で呼んでくれ」


「あっ、どうも、焔さん」


「俺と対等に会話できる人間なんて初めてだ。よろしく」


そう言われて手を出してきたので、握手をした。そして、


「俺が審査するまでもねぇ。新也は合格だ。俺の中のダチョウがそういってるぜ」


「なっ!?」前歯キラーン


「裏切るのか!焔!」片眼鏡クイクイ


「人聞きの悪いことを言うなっての。陸にあがったペンギンに見えるぜ?」


『誰か通訳よろ』

『とりあえず新ちゃんが狂王子に認められたのは分かった』

『俺の中のダチョウってなんやねんwww』

『それを言うなら陸に上がったペンギンも意味が分からねぇwww』


この三人の感じからすると、試験官は三人だったのだろう。で、俺はその中の一人、焔さんから認められたということだ。何が何だか分からないけど良かった。


すると、俺からずっと離れなかった銀色の風シルフちゃんがパチパチと手を叩いていた。そして、焔さんを見ると、


「新ちゃん様の潜在能力をよく見破ったな。見直したぞ?」


「「銀色の風シルフ様!?」」


銀色の風シルフちゃんが焔さんを褒めたことに残りの二人が驚いていた。そして、焔さんは照れ隠しのように鼻の下を人差し指で掻いた。


「へっ、当然だぜ、銀色の風シルフ様。新也からは俺と同じ、ポメラニアンのオーラを感じる」


「何を言っているのか分からんが、よくやった」


俺を置いてけぼりにして話がどんどん進む。さっきからずっと蚊帳の外だ。


「新さん、この方々が今回新さんのSランク冒険者になるための試験をしてくれる『聖なる剣』です。とりあえず、焔さんからは認められたようなので後の試験は二つです」プルン


「ほぉほぉ」


「さっきから前歯をキラーンとしている人が『聖なる剣』のリーダー、王寺司さんです。『光速の槍ライトニング・スピアという二つ名を持っています」プルン


「ほぉほぉ」


「そして、片眼鏡をしているのが、鏡谷恭介さん。同じく『聖なる剣』のメンバーで『叡智の貴公子』と呼ばれています」プルン


「ほぉほぉ」


金剛姫さんが近すぎて何も頭に入ってこない。確か『精なる棒』っていう名前だ。それだけは覚えた。


それよりも銀色の風シルフちゃんがこっちを見ている気がする。仮面越しなので全く分からないけど鋭い視線だ。村にいる猛獣を相手にしているようなそんなオーラすら感じさせる。


「そういえば銀色の風シルフちゃんの名前はなんていうの?」


銀色の風シルフちゃんだと…!?」前歯キラーン


「貴様!どれだけ罪を重ねれば気が済むんだ…!」片眼鏡キラーン


『精なる棒』の二人が俺につっかかってきた。さっきから何を怒っているのだろうか。


「え、え~秘密ですぅ♡」


銀色の風シルフちゃんは人差し指で唇を押さえて、俺に秘密と言ってきた。


クルーシャみたいな子だなぁ。


『媚スタイルの銀色の風シルフ様も素敵だわ』

『全くだ』

『女神だから何をやっても許されるからな』

『クソぉ!新ちゃん代われええ!』


「くっ、そろそろ試験を始めようか!」前歯キラーン&前髪フッ


「お願いします」


俺は頭を下げる。すると、金剛姫さんが俺から離れた。大事だったものがなくなったような喪失感が俺を襲った。フィールドには俺と、片眼鏡さん、前歯さんが残った。残った人たちは階段を上がって、上の観客席から俺たちを見下ろしていた。


いや、銀色の風シルフちゃんだけはずっと金剛姫さんガン見していた。ハエでも止まってるのかな?


「それでは試験内容を伝えさせていただきます。ルールは簡単。新さんがSランク冒険者である『光速の槍ライトニング・スピア』、そして、『叡智の貴公子』に実力を認めさせたらSランクに認定させていただきます」


『頑張れ新ちゃん!』

『Sランクになってくれ!』

『実際問題、どんな戦いになるんやろうな?』

『分からん』

『というか『聖なる剣』の方は二人掛かりかよ』

『それな。ちょっとズルいわ』


金剛姫さんの説明は至ってシンプルだ。目の前にいる二人に俺の実力を見せればいいのだろう。というか緊張してきた。俺は村でしか戦ったことがないので、外の世界の人たちの力が分からない。すると、


「ふっ、山口新也といったかな?」


「あ、そうです」


前歯さんは背中に背負っていた槍を取り出して構えた。そして、片眼鏡さんは剣を取り出して、俺に向けてきた。


「君は俺たちのようなスペシャルで超隔絶したスーパーエリートたるSランク冒険者にふさわしくない。全力で排除させてもらうよ」前髪フッ


「は、はぁ…」


いきなり凹むことを言われた。でも、実際問題そうなのだろう。さっきから隙だらけで、脳内では100回は殺している。まさか、そんなことに気付かないほど無能なわけはないから、わざと俺に隙を見せているのだろう。


「何より我らが女王、銀色の風シルフ様を惑わす害虫。何があっても貴様を合格になどさせない!」片眼鏡クイクイ


「え、それじゃあ試験の意味がなくないですか?」


「ふっ、我らが戦闘不能になったら貴様の勝ちだと言っているのだ。ウスノロめ」


「は、はぁ…」


『なんか少しだけ『聖なる剣』が嫌いになったわ』

『分かる。二人掛かりで新ちゃんを相手にするとかないわ』

『落とす気満々だよな』

『逆に俺は狂王子の評価が上がったわ』

『ワイもや。なんか好きになった』


Sランク冒険者になればお金がたくさん増えて、沙雪にしてやれることが増える。だから、こんなところで負けるわけにはいかないのだ。最初から本気で行こう。


「なっ!?貴様!」


「そ、それはなんだい…?」


ふっふっふ、驚いているな。


村一番の鍛冶師、クルーシャが作った最強の双剣、干将/莫邪だ。俺は左右のポケットから取り出した。そして、今回は特別だ。セフィさんから教えてもらった、エルフの正装に俺は着替えることにした。


「お、おいおいおい。ふざけているのかい?」前髪フッ


「なぜ全裸になる…!?神聖なる試験で何を考えているんだ貴様は…!」


「あ、全裸は駄目なんですね…」


本気の舞台ではしっかり恰好からと思ったのだが、エルフの正装は駄目らしい。仕方がないので、俺は異空間箱アイテムボックスから、使用済みの治癒草を取り出した。そして、大事なところを覆った。


上から「銀色の風シルフ様!?しっかりしてください!」っていう金剛姫さんの声が聞こえてきた。何かあったのだろうか?まぁいいや。


「安心してください、履いてますよ?」


「「…」」


暗にこれならいいですよね?と聞いたのだが、反論がないということはOKということだろう。本当は全裸が良かったが、ここは人間の世界だ。エルフの常識をぶつけてはいけない。


そして、干将/莫邪の調子を確かめるために、本能のままに舞う。全身に風を感じて気持ちいい。まるで干将/莫邪と一つになったようなそんな感覚になった。


「ふぅ…軽くて、短いな…」


『やめろ馬鹿www』

『腹がねじれたwww』

『もうやめてええええwww』

『ってかパクるなwwwそれはアウトやろwww』

『Sランク試験をなんだと思っているんやwww』

『『聖なる剣』の皆さん、この鈍感王をやっちゃってくださいwww』


「「ふ、ふざけるなあああ」」


Sランク冒険者との戦いが始まった。


━━━


━━



一方、銀色の風シルフ様side


乳を使って兄さんに近付く害虫、無自覚にワイの兄さんを誘惑するゴミ。今まで幾度となくそのプルプル揺れる胸に殺意を覚えたか…


ついに貴様は踏み込んではいけない領域に足を踏み入れた。ならば、貴様にあるのは死のみだ。せいぜい理想を抱いて溺死しな。


「自害「な、何をしてるんですか!?」ん?」


なんだ?ドМが顔を覆ってしまった。よく見ると、指と指の間が空いている。私はその視線を追うと、


「な!?アレは!?」


兄さんが全裸になっていた。兄さんの全裸を見たのは入院する前のお風呂でだけだ。あの時の思い出は今も私の一生の宝物になっている。


ただ、あの時はまだ恋心を自覚していなかった。そして、自覚してからの私は入院していた。つまり、想い人の全裸を十五年も生で見ていなかった。そこから導き出される答えは、


「グハ!?」


銀色の風シルフ様!?しっかりしてください!」


脳の過剰処理によるオーバーヒートだ。最後に聞こえてきたのは、ドМの声だった。


兄さんエッチすぎるねん…

━━━


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