第13話

「そそそそそれはどどどどどういう意味なんですか!?」


「いやですね…この超絶美しい銀髪、どこに嫁に出しても恥ずかしくないスタイル、そして、人を安心させるような優しい声は沙雪そのものなんですよね…」

「はう!?」


銀色の風シルフ様!?』

『新ちゃん、何をしてんねん!』

『というかあのアタオカと銀色の風シルフ様が同一人物なわけないやろうが!』

『普通に入院してるしな』

『そういや義妹ちゃんは?』

『息してないな』


ただ、沙雪は病人だ。それなのに俺の直感がこの人を沙雪だと言っている。ただ、それだとこんなに元気が良さそうにしているのがおかしい。そもそも昨日、沙雪は病院で注射を百本打ったのだ。どう考えても東京に来れるような調子ではないはずなのだ。


俺の勘違いだろう。


「新さん…流石に銀色の風シルフ様に失礼ですよ?」


そういって金剛姫さんはレッドカーペットの一番上のところで四つん這いになっていた。なんでそんなことをしているのだろう。


「何をしているんですか?」


銀色の風シルフ様の馬になっているのです」


『どういうこと!?』

『ただのドМじゃねぇかwww』

『めっちゃ息をはーはーしてるwww』

『アレ?義妹ちゃんの言ったとおりになってるやん…?』

『あり?』


金剛姫さんが馬になると、銀色の風シルフさんが金剛姫さんの上に跨った。とても混乱する光景だった。


「あの、何をしてるんですか?」


「何って馬に乗って移動をします。あ、失礼しました。馬が足りませんでしたね」


「いえ、そういうことじゃなくて、人を馬にするって良くないことですよ?」


「え?」


銀色の風シルフ様に意見するだと!?』

『身の程知らずにもほどがあるやろ!』

銀色の風シルフ様が固まっているやないか…』

『あ~あ、これは死んだな』


「そ、それは。ですが、このドМが私の馬になりたいと言っているのです。ねぇ?」


「はい!これが都会の馬なのです」


なんて純粋な瞳だ。だけど、


「流石にそれが嘘だってことは分かりますよ。だって、都会の馬ってその車でしょ?」


「そ、そうですが」


やっぱりか。


「僕、人に嘘をついたり、誤魔化したり、イジメたりする人が大嫌いなんです」


「グハッ!?」


銀色の風シルフ様!?」


『す、すげぇ。銀色の風シルフ様に嫌いって言った…?』

『いや、ただの不敬だろ…』

『で、でもさ。銀色の風シルフ様に嫌いって言う人なんて言える人っていたか?』

『いや、そもそも心の中でも嫌いって言う人間なんていないやろ…』

『それな』


俺はこの時点でこの人が沙雪ではないということを確信した。沙雪は虫も殺せないほど気弱で、誰かを傷つけるようなことはしない。傲慢さもなく、欲もないし、何よりも嘘や誤魔化しを絶対にしないのだ。少なくとも人を馬にするような義妹ではない。


「うう~嫌いって言われたぁ!新ちゃん様にぃ~もう生きてられない…」


「気をしっかり持ってください!銀色の風シルフ様!」


金剛姫さんが銀色の風シルフさんを慰めながら俺の方を向いてきた。とても恨みがましい視線だ。銀蜘蛛さんも同じような視線を俺に向けていた。そして、口パクで何かを伝えようとしている。


凡人には何を言っているか分からないだろうが、俺なら分かる。


『わらわせなさい』と言っているな?


※『あやまりなさい』です。


『新ちゃん、謝れ』

『マジで死ぬぞ?』

銀色の風シルフ様を泣かせるんじゃねぇよカス!』

『アカン、銀色の風シルフ様の信者がキレ始めた…』


『笑わせろ』か…


なんとなく頭に、


「『義妹』とかけまして、『荒廃したダンジョン』と説く。


その心は?


どちらもパイがないでしょう」


というギャグが思いついた。ただ、今だけはそれをやってはいけないという危険信号が俺の頭にけたたましく鳴っている。


となれば俺がやれることは銀色の風シルフさんを元気づけることだけだ。これは夕霧にもクルーシャにも使ったことがあるのだが、元気が出ること間違いなしなのだ。


俺は銀色の風シルフさんと目線を合わせる。そして、


「ッ」


「な、何をしているのですか!?」


金剛姫さんがとても驚いているが、俺は銀色の風シルフさんの頭を撫でただけだ。


「ごめんなぁ、銀色の風シルフちゃん。俺が大人気なかったよ」


「う…う」


『何しとんねん!?』

『死ね死ね死ね死ね!』

『流石にやりすぎだ!』


「でも、人を馬にしちゃいけないんだ。それが悪いことだっていうのは分かるよね?」


「…うん」


「「うん!?」」


良かった。根はいい子みたいだ。おそらく周りの人が人を馬にしちゃいけないっていうことを教えなかったのだろう。全く、周りの大人は何をしているのだろうか。沙雪を見習ってほしい。


※本人です


それにしても金剛姫さんと銀蜘蛛さんは何を驚いているのだろうか?


すると、銀色の風シルフさんが立ち上がった。


「すいません、取り乱しました。それでは、会場に案内させていただきます」


「ああ、よろしく。銀色の風シルフちゃん」


「はい!」


俺の腕に身体ごと絡ませてくる。とても歩きにくいし、山がないので、なんか凄い悲しい気分になる。はぁ、金剛姫さんだったらよかったなぁ。


ただ、機嫌が直ってくれたようでよかった。夕霧もクルーシャも何か悪いことがあった時に、俺に撫でられるとすぐに元気になるのだ。幼児のように甘えん坊になってしまうので、そこだけが難点だけど。


━━━


━━



『い、一体何が起きてるんや…!?』

『まさか、銀色の風シルフ様が新ちゃんに堕ちた…?』

『おおおおおおおちつけえええええ』

『おまえええええええがおちおちおちおちつくんだ!』

『ん?金剛姫と銀蜘蛛を映してるで?』

『本当や』


「し、信じられません…!まさか銀色の風シルフ様が…!」


「それ以上の発言は許しませんよ」


「で、ですが!」


はぁ、銀蜘蛛、そして、配信を観ている下々はとても慌てているが、冷静に考えれば銀色の風シルフ様が新さんに堕ちるわけがないのだ。そもそもああしているのも銀色の風シルフ様の策略だろう。


「男は庇護欲をそそる者を好みます」


「…どういうことですか?」


「簡単なことですよ。今の銀色の風シルフ様はどのように見えますか?」


「そ、それは恐れ多くも、好きな男にアピールしているだけの一般的な女性としか…」


『そうやな…申し訳ないがそう見えてしまう』

『配信に屍の山ができてるで?』

『ああ、銀色の風シルフ様ぁ…』

『俺は明日から何を希望に生きていけばいいんだ…』


「ふふ、そうですね。では、先ほどまでの行動を思い出してください」


「先ほど…?」


「ええ、一番最初まで遡りましょうか。新さんと会った時に、銀色の風シルフ様はどのような行動をされましたか?」


「どうって、新也さんを盛大に出迎えたとしか…」


『そんで新ちゃんは義妹ちゃんと勘違いしてたな』

『確かに美人やけど、銀色の風シルフ様ほどではないやろ』


そう。新さんは義妹ちゃんと銀色の風シルフ様を重ねた。そこにもツッコミどころはあるが本質は…


「新さんが銀色の風シルフ様に跪かなかったことです」


「跪かなかった…まさか!?」


「新さんは『銀色の風シルフ様の美しさに打ち勝ったのです。いえ、この場合は魅了されなかったというのが正しいでしょう」


そうとしか考えられない。人類は皆、銀色の風シルフ様に魅了される運命にある。しかし、新さんは銀色の風シルフ様の魅了に打ち勝ったのだ。


「信じられません。銀色の風シルフ様に魅了されない人間など、人間なのですか…?」


「分かりません。ですが、これだけは分かります。新さんは銀色の風シルフ様に並び立つことができるほどの逸材なんです…!」


これだけでSランク冒険者に相応しい人間だ。『精なる棒』との試験など必要がないだろう。


『ほえ~流石新ちゃんやな』

銀色の風シルフ様に並びたてるほどのポテンシャルを持っているってことか…』

『それならあの不敬も少しだけ許せるわ』

『ん?でも、それじゃあ新ちゃんに媚びるようなあの姿勢はなんなんだ?』


「そして、新さんを逸材だと見抜いた銀色の風シルフ様は方針を変えたのです。何があっても新さんをSランク冒険者へと囲い込む。そのために銀色の風シルフ様は魅了なしで新さんを堕とそうとしているのです」


「なっ!?あの鈍感野郎をですか!?とてもじゃないですが、魅了ナシで堕とせるはずがありません!」


『好き放題言うなwww』

『まぁその通りやけどなwww』

『反論できないのが悔しいwww』

『鈍感王極まれりだからな』


特に特徴のない一般的な男性だが新さんはとてつもなく凄いということが分かる。そして、この国を救うために銀色の風シルフ様は自己犠牲をしている。銀色の風シルフ様はプライドが高い。そんな女性が自分のプライドをへし折り、国のために尽くしている。


あの媚媚スタイルを銀色の風シルフ様は血反吐を吐きながら行っているに違いない。私は銀色の風シルフ様の内心を悟って涙が止まらなくなった。そして、私も協力しなければならないと思い、新さんに近付いた。


「新さん!」


「こここここここここんごううひめさああああん?」


私は新さんの空いている方の腕を胸に沈めた。さっきから新さんは私の胸にご執心だということに気が付いている。それに銀色の風シルフ様ほどじゃないが、私も美人の部類に入る。


色仕掛けなどしたことがないのでとても恥ずかしい。だが、銀色の風シルフ様が身体を張っているのに、私が動かなくてどうするのだ。そして、反応を見る限り、効果は抜群だった。


やりましたよ、銀色の風シルフ様!


私は新さんの反対側にいる銀色の風シルフ様を見ると、


「…」


この世のものとは思えないほど冷たい視線が私に突き刺さった。


アレ?何かミスりましたか?


━━━


━━



おい…ドМは何をやっているのだ?


私が兄さんを独り占めしている時に、突然反対側に抱き着いてきた。そして、その無駄にデカい脂肪の塊で兄さんを堕としにかかっていた。


ふっ、馬鹿め。兄さんが私の写真集に夢中になっていたのは知っている。だから、私に夢中に…なっていないだと!?


兄さんがこっちを見ない。というか完全にドМの方を見ていた。というか視線が完全に下を向いていた。


「し、新ちゃん様?」


「ん~なんだい?」


鼻の下が超絶伸びてるだと!?


な、なぜだ。兄さんは私とドМの写真集を…ん?ドМ…25歳で巨乳で綺麗なお姉さんホイホイ…ドМは私ほどではないが、美人。


まさか!?兄さんのドストライクがドМだというのか!?

 ・

 ・

 ・

え、殺るしかないな?


━━━

ドМさん、突然のピンチ。次回『聖なる剣』改め『精棒』との試験です。


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