第15話
『精なる棒』の二人が武器を構えて、突っ込んでくる。前歯さんが俺のお腹に向けて、槍を突き刺しに来た。俺は左手に持っていた干将で槍の側面を叩いて、直撃を免れた。
「俺の
「慌てるな司。計算通りだ。くたばれ下衆」
今度は前歯さんの後ろから、突然現れ、横薙ぎに剣を俺に向けて振ってきた。俺は右手に持つ莫邪をくるっと回して防ぐ。
「『叡智の剣』を防いだ、だと…!?」
「では、こちらから行かせてもらいますね」
俺はつばぜり合いをしている干将を前歯さんの槍の側面に滑らせて、そのまま流れるように顔を狙う。しかし、上体を逸らされて普通に回避されてしまった。
「司!?」
「よそ見は厳禁ですよ」
「何だと!?」
両手が前歯さんが後ろに引いてくれたおかげで俺の左手が空いた。右手の莫邪で片眼鏡さんの剣を抑えつつ、俺は左手の干将で片眼鏡さんの剣の側面を攻撃し、破壊しようとしたが、狙いがバレていたのか前歯さん同様に後ろに躱されてしまった。
「「はぁはぁ」」
『お、おおお!すげぇ!』
『これがSランク同士の戦い…!』
『すげぇよ新ちゃん!』
『『聖なる剣』も見直したわ!』
『エルフの正装もすげぇな!大事なところがしっかり隠れてるで!』
『全裸なのを忘れてたわ!』
『割り箸つええええ』
「ふっ、ふ、中々やるじゃないか」
「あ、どうも」
前歯さんが肩で息をしながら、俺をほめてくれた。嬉しかったので頭をポリポリ掻いた。
「だが、俺はとうに貴様の動きを見切った。次の攻防で決着がつくだろう」
「え、えええ!?」
俺は今、本来の実力の一割も出していない。それなのに、俺の実力を見抜かれてしまったらしい。この片眼鏡さんは相当頭が良いのだろう。
ただ、俺もさっきから千回はこの人たちを殺している。それが不気味で不気味で仕方がない。こんなあからさまに隙だらけだと手加減されているのだと思ってしまう。いや、現に手加減されているのだろう。
村で無双できるからって、外の世界で無双できるとは限らない。そんなことすら忘れてしまうほど、傲慢になってしまっていたことに情けなくなる。
「ふっ!行くぞ!」
「うわ!」
突然、前歯さんのスピードが跳ね上がった。干将莫邪で防ぐ暇もなく、俺は咄嗟に横に躱した。すると、俺が避けた進行方向に、片眼鏡さんが迫ってきた。俺は干将莫邪で防ごうとするが、既に片眼鏡さんは俺の避けた方向に剣を振っていた。
まるで、未来を読んだかのような動きに俺は驚いてしまう。ギリギリで堪えたけど、治癒草が半分切れてしまった。危ない。もう後1mm回避が間に合わなかったら俺の息子が斬られていた。ポイズンブレードサンドワームの毒は効かないとはいえ、息子をやられたら俺だって悶絶してしまう。
『あかんwwwもう見えちゃうwww』
『治癒草も半分になっちゃったよぉwww』
『安心できなくなっちゃうぞぉwww?』
「ふっ、驚きすぎて声も出ないかな?俺のスキルは『俊足』。自分の敏捷性を10倍まで跳ね上げるというものだ」
「は、はぁ」
「そして、俺のスキル『叡智』は自分の思考力を十倍にするというものだ。俺は脳で貴様の動きを演算している。既に貴様は籠の中の鳥、というわけだ」
「ふっ、恭介。そこまでにしてやれよ。絶望しているぞ?」前歯キラーン
「だが、
「ま、その通りだね。
なんでこの人たちは自分のスキルをひけらかしているんだろう?いや、そうか、そういうことか。都会では自分のスキルを教えるのが礼儀なんだ。だから、こんな馬鹿みたいにスキルを伝えてくれているんだ。昔、じっちゃんたちが言っていた、騎士道ってやつなんだろう。それなら出し惜しみはなしだ。
「俺のスキルはホイホイと言います!」
「なんだと…?」
「え~と、干将/莫邪も言っておいた方がいいよな。干将に内包されたスキルが『柔術』、莫邪の方が、『弱点特攻』になります!では、行きます!」
「なっ!?」
俺はありったけの力を足に込めて、地面を全力で蹴とばす。そのせいで地面にひびが入ってしまった。思った以上に地面が柔らかい。そして、片眼鏡さんの前にたどり着くと、『弱点特攻』が自動で片眼鏡さんの弱点を探して、俺の動きを最適化して、その部位を狙ってくれる。これが莫邪の力だ。
そして、
「はうううううううん!?」
「あ」
気付いたときには俺の莫邪が片眼鏡さんの股間を捉えていた。そして、アッパーの要領で莫邪を全力で空に向かって繰り出した。ここまで『弱点特攻』が発動してるので、俺に動きを止めることはできない。
片眼鏡さんは最後、凄い顔をして天井のドームまで吹き飛ばされた。
『えええええ!?』
『『叡智の貴公子』があああああ!?』
『割り箸でOthinn-thinnを吹き飛ばしたああああ!?』
「ああ、いっけね…男の弱点が股間だって分かってたのに、思わず使っちゃった…」
とりあえず、ドームの天井に顔を突っ込んでぷらーんとしているから大丈夫だろう。それに、Sランク冒険者なんだから、これくらいは余裕だろう。
それより莫邪が折れちゃったよぉ…またクルーシャに怒られちゃう…
「な、なな、何をしたんだ君は!」
「何って『弱点特攻』ですよ?」
「違う!その前の動きはなんだ!?」
「え…普通に身体能力ですけど…」
「は?」
『理不尽www』
『これが素の身体能力なのズルいよなwww』
『
「そ、そんなわけあるか!恭介を一体どんな反則をして倒した!」
「え、だから身体能力だって…」
「ふ~、どうあってもスキル名を言う気がないらしいね。それなら、俺も本気でぶつかろう」
全く俺の話を聞いてくれない。すると、俺の周りをぐるぐると回り始めた。そして、どんどん加速し、10秒も経つ頃には残像を残すくらいの超スピードで俺の周囲を回り始めた。そして、
「うわ!」
残像から放たれる槍のラッシュ。死角からも攻撃されたので、ちょっと治癒草が切れてしまった。しかし、治癒草を気にしているわけにはいかない。攻撃は続く。
「
『う、うおおおお!
『すげぇ!こんなところで最強の技を観れるなんて!』
『流石に新ちゃんもきついか?逃げてるだけだし』
『確かに…これを受けて立っていた者は一人もいないしな』
「はははは!どうだ!泣いて謝るなら許して「『柔術』発動」は?」
俺は干将に内包された『柔術』を発動した。身体が柔軟になり、ぬるぬると動くことが可能になる。
「なっ、なんだその動きは!?」
俺は槍をぬるぬると躱しながら、前歯さんの下に向かう。全身が脱力しているので、すべての事象を冷静に捉えることができる。そして、
「ぐっ!?なんだと!?」
「捕まえた」
高速で動くものであろうと、一度絡みつけば、逃がすことはない。俺を囲んでいた前歯さんの分身は消え去った。そして、
「むぅううううううう!?」
地面に押し倒すと、俺は前歯さんの足を両手で固定した。そして、股のところで前歯さんの首から上を固定した。息をできないようにしっかり股で抑えつける。しかし、そこはSランク冒険者。なんとか外に顔を出し、空気を確保する。が、
「こ、この程度で「ぷ~」ぬお!?」
あっ、おなら出ちゃった。
「お、俺がこんな、無様な、負け方…を…」
すると、前歯さんが動かくなった。
『ひっでぇ勝ち方www』
『裸で拘束する絵面がヤバかったwww』
『司さまが新ちゃんの股間で窒息してしまった…』
『あのスマート王子がwww』
『いいぞ新ちゃん!もっとやれwww』
『葉っぱが取れかかってるやないかwww』
とりあえず一回戦は俺の勝ちだろう。そして、ここから試験の難易度は上がってくるはずだ。今も天井でぷらーんとしている片眼鏡さん、そして、地面で気絶しているように見せかけている前歯さんだってすぐに立ち上がってくるはずだ。
「さぁ来「勝者、山口新也さん!よってSランク冒険者の資格を与えます」え?」
え?もう終わり?
金剛姫さんの声が聞こえて、俺はポカーンとした。俺の住んでる村だったら、ここからが正念場だった。気絶してからが試合の始まりという言葉もあるくらいなのでとても拍子抜けしてしまった。
『うおおおおお!すげぇよ新ちゃん!』
『最悪の試験だったけどなwww!』
『ああ、近年まれに見るクソ配信だったwww』
『ゴミみたいな配信だったなwww』
『『聖なる剣』の扱いよwww』
『あ~あ、かっわいそwww』
━━━
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