山口沙雪side5

『巨乳で綺麗なお姉さんホイホイ』の直後、


美女式奥義:『純情猫撫で声カマトト・キャッツ』発動!


「スマホかえちて♡」


「は、は~い♡」


私はスマホをお願いして返してもらった。Sランクの規則だとか知らんがな。私を見れば受付の鉄面皮など、ふにゃふにゃにできるのだ。


そして、私はトイレにこもり、兄さんの配信にコメントを打ちまくる。愛しの義妹を想って、暮らしているのかと思いきや、巨乳で綺麗なお姉さんをホイホイするという愚行を犯していた。そんなことは流石に兄さんと言えども許すことができない。


私は魂の限り、コメントを打ち込んだ。しかし、


「何をやってるんだろ‥私」


途中で心を虚しさが支配した。私はただ兄さんとパルテノン神殿で結婚式をあげて、子供を男女11人ずつ産んで、最後はピラミッドに埋葬されたいだけなのだ。それなのに私はいつまで経っても兄さんと離れて暮らして、こうして画面越しに一方的に会うことしかできない。


一週間に一回の面会で私の心の空白が埋まるわけがないのだ。はぁ、もっと兄さんと一緒にいることってできないのかなぁ。


私は少しだけセンチになりながら会議室に戻った。


━━━


━━



部屋に戻ると、兄さんの切り抜き上映会をドМが開いていた。まぁ悪くはない。完成度だけで言ったら100点だな。兄さんが被写体な時点で100点は確約されているのだから楽なものだ。すると、


「ふっ、何かと思えばフィクションかよ。俺たちの時間を返してほしいね」前髪フッ


あ?


「ふっ、子ネコちゃんのために時間を使うのもやぶさかではないが、それでも我々の時間は有限だ。そんなおっさんのことよりもエルフのことを考えるべきではないか?」前歯キラーン


じっちゃんたちよりもワイの兄さんについて議論してる方が身になるだろうが、コラ。


やっぱり自害させるか?前髪とか、前歯がずっと前からずっと気に入らなかったし、殺るか。殺ろう。



…ん?殺る?殺す…?夕霧…クルーシャ…エルフのばっちゃん共…


ああ、そっか、そうすればいいのか。やっぱり私は天才だ。この状況をクリアする最高の解決策を思いついてしまったのだから。


「ふっ、それこそ時間の無駄だ。異世界の亜人共の対策など、私は既に考えている」


「なっ、本当ですか!?」


「…一体どんな方法をお考えなのですか?」前歯キラーン


「ふっ、そんなの簡単だ。エルフ、いや、亜人共の女を全員殺せ。そうすれば亜人共も絶滅する以外に道はあるまい」


「なっ!?」


夕霧、そして、クルーシャは私が入院している間にも関わらず好き勝手していた大罪人だ。私の兄さんを唆し、誘惑する害虫。それなら殺してしまえばいい。エルフのばっちゃん共もだ。昔良くしてもらったの恩を差し引いても兄さんをたぶらかした罪はぬぐえない。


じっちゃんたちはいいんやで。兄さんがとてもお世話になっているからな。


それに女が死ねば繁殖することもできなくなるし、兄さんを求めるといったこともなくなる。そうなれば絶滅は必至だしな。エルフがどんくらいで死ぬのか知らんけど。


後、じっちゃん達がその後に日本を侵略しようとしても私には関係ないし、兄さんと私を害することをしなくなれば私としてはどうでもいいのだ。


が、


「それはどうやってやるのですか…?」


「ん?」


ドМが私に質問してきた。


「魔法、そして、強力なスキルを内包している亜人種相手に私たちだけでは勝利するなどとてもじゃないですが現実的ではありません。少なく見積もってSランク冒険者が1000人は必要かと…」


「ふむ」


やっべ。憎しみのままに良案が浮かんだから、口から出まかせに言ってしまった。ぶっちゃけ具体的な案を何も考えていなかった。


しかも、Sランク共は皆、私に期待の視線を送ってきていた。普段この場で話すことはないから余計に不味い。


どうしよう。こんなところで評価を落とすのも腹が立つし、なんとかせなアカン。あ、そうか。


「ふっ、焦るな。ドМ。物事には段階がある」


「な、なるほど」


「今、この戦力で亜人種たちを殲滅することは叶わない。だが、あの男がいたらどうだ?」


私は配信に映る兄さんの顔を指さす。カッコいい♡


「ま、まさか!?」片眼鏡キラーン


「本当にあの男をスカウトするというのですか!?」熊のマフラーを引っ張る


「不服か…?」


「いえ、なんでもありません…」


『精棒』の二人は撃破できた。私のSランクとしての面子を保ちつつ、兄さんをSランクにしてお揃いにできる。


なぜ今まで思いつかなかったのだろうか。私は銀色の風シルフとして正体を隠しているし、ダンジョンで緊急クエストとか言えば兄さんと毎日でも一緒にいられるじゃないか!そして、銀色の風シルフとしての私にメロメロになった兄さんを見てみたい!


はっ!もしや、『銀色の風シルフの正体が沙雪だよ?end』もありなのでは…!?退院endしか考えてこなかったが、それも全然ありな気がする。


しかし、


「俺は反対です!あのような男をSランクに入れてしまってはSランクの品位が下がります!」キラーン


ふむ。こいつは後で殺すとして、この程度の反対は一応、考えていた。


「では、この男の力を試してみればいい」


「なんですって…?」


「『聖なる棒』、貴様らが兄さん、じゃなくて、新ちゃん♡の実力を計れば良い。それを合否の判定とするのでどうだ?」


私の言葉に一瞬、ボケっとするが、私を馬鹿にするような視線で見てきた。


「…はっ!良いのですか?俺は自分よりも強い男しか認めませんよ?」


「好きにしろ。もし、新ちゃん♡を倒せたら一日デート権を与えてやろう」


「本当ですか!?」前髪フッフッ


「もちろんだ」


兄さんを落としたら、殺さなきゃいけないからな。人を殺すのには一日かかるのだ。


「あのぉ~」


すると、ドМが遠慮がちに手をあげてきた。


「私たちは新さんがどこにいるのか分からないのですが…」


「必要ない。私はこの男の居場所を突き止めてある」


「なっ!?本当ですか!?私がどれだけ探しても見つからなかったのに…」


「ふっ、ここを使うんだよここを」頭トントン


「さ、流石でしゅぅ…」


確か、ドМは東京大学卒業だった気がする。幼卒が大学最高峰の女にマウントを取れるのは気持ちええわ。


「私は失礼する。これから新ちゃん♡を呼び出す準備をしなければならないからな」


「は、はい!馬は必要でしょうか?」


「いらん」


私は退屈な会議室を退出した。


━━━


━━



「くそ!なぜ銀色の風シルフ様はあのような下品な男にご執心なんだ!」前歯キラーン


「分からない。だが、何か別の思惑があるように思われるな」眼鏡キラーン


「ああ。まるで蜘蛛に囚われたサメみたいだぜ?」熊のマフラーびよーん


「意味が分からん…」


銀蜘蛛の言う通り、あの動物の例えはなんなんですかね?


まぁ気にしても仕方がないですね。それにしても、愚かですねぇ。この人たちは。この中で銀色の風シルフ様の真意に気付いたのは金剛姫たるこの私だけ。


そもそも銀色の風シルフ様は新さんを知ってからまだ二時間も経っていない。それなのに、あのお方はすでに新さんの潜在能力を見抜き、あまつさえ、居場所すらもう既に把握しているというのだ。


銀色の風シルフ様が選択を間違えることなどありえない。そして、あれほど早く行動されるということは新さんが日本を救う救世主だと直感が言っているのだろう。


私の直感も恐れ多くも銀色の風シルフ様と同じだ。新さんがSランク冒険者として活躍してくれれば、日本を救うことになる。


「ふふ、これから忙しくなりますねぇ~」


━━━


━━



一方、銀色の風シルフ様は、


「兄さぁぁぁん、怖いよぉ!私、明日、注射を百本打つことになったのぉ!え~んえ~ん(棒」


リムジンの中で新也に連絡をしていた。


美女式奥義:『七色の嘘泣きレインボー・ブリッジ』。兄さんにどうしても構ってほしい時に開発した美女式奥義だ。


ただ、多用は厳禁。あまりにもしつこすぎると兄さんに嘘泣きなんじゃないかと疑念を抱かれてしまう。これを使ったのは一週間前だから、インターバルもあるし、問題ないな。


『な、なんだって!?それは大丈夫なのか!?』


「うん…もしかしたらダメかもしれない…最期に兄さんの顔が見たかった…」


『そんなことを言うな!分かった!明日、朝一で行くから!待ってろよ!?死んじゃダメだからな!?』


「うん、待ってる…」ㇷ゚ツ


ふぅ…ちょろいぜ…


電話を切ると私は満足感でいっぱいだった。兄さんが明日私の病室に来てくれる。それだけで白飯千杯はいけるってものだ。


「あの、沙雪さま」


「なんだ…?」


私が兄さんとの明日をシュミレートしている最中、藪医者が会話に入ってきた。


「あの、お兄様が来られて大変お喜びなのはよろしいのですが…」


「なんだ煮え切らないな。はっきり言え」


「その…配信はどうするのですか?」


「あ」


それはアカン。私の美女オーラが世界に配信されたら色々不味い。そして、もし私の正体が銀色の風シルフだとバレたらもっとヤバイ。私の入院している病院は特定されると、私が好き勝手行動できなくなってしまう。


さらに、


「それに、今の沙雪さまはとても健康的でございます。いつもの準備は良いのですか…?」


「くっ、迂闊だった…!」


私は兄さんが来る前に毎回重病に見せるために、前日に想像も絶する準備をする。子供が学校を休みたくて体温計に息を吹きかけるものだと考えてもらえればにいいかもしれない。


絶食、胃液を吐く、肌を乾燥させる、血管が浮き出る折れそうな身体…せっかくの兄さんとの面会時間、これだけの準備をしなければ女が廃るってものよ。しかも、今回はそこにドローンとかいう撮影機材まできてしまう。


映像を撮られたら色々不味い。まさか優秀なドローンを買ったツケがこんなところで来るとは…!


しかし、逃げるわけにはいかない。兄さんを完璧に迎え、ドローンの映像を騙し、視聴者のすべてを偽るには…


「やるしかないか。ブス式奥義…」


私は覚悟を決めた。


━━━


次回、久々の病院。正統派ヒロインとしての格を見せつけられるのか!?


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