山口沙雪side4

「それではSランク冒険者の定例会議をはじめます。皆様、日本の将来のためにお願いいたします」


今日の司会進行はドМらしいので、私は久方ぶりに会議室の椅子に座った。ぶっちゃけ座り心地だけだったらドМが一番いいから正直、椅子になんて座りたくはない。


長机があり、私は一番偉そうな端っこに座っている。席は全部で十席。一つは私、もう一つはドМと、その変態秘書。後は、ずっと両腕を組んでいる忍者っぽいやつ。多分、厨二。後は、


「ふっ、久しぶりだね。銀色の風シルフ様」前歯キラーン


前髪をフッとしながら、私の方を見てくるイケメンがいた。確か、『精なる棒』とかいうパーティのリーダーだった気がする。他にも私のすぐそこに『精なる棒』のメンバー二人が周囲を固めていた。イカ臭いので、話しかけないでほしい。


「『聖なる剣』のリーダー、王寺司おうじつかささん…今は会議中です。私語は慎むように…」


『聖なる剣』か。ゴメンゴメンゴ


「ふっ、嫉妬させちゃったかい、子ネコちゃん」前歯キラーン


「…そういうのはいいです。それでは『聖なる剣』から定期報告をお願いします」


「ふっ、任せたまえ」キラーン


そして、前髪はスライドの前に行き、堂々と自分たちの成果を語った。やれAランクの魔物を何匹倒したとか、ダンジョンをいくつ攻略したとかどうでもいい情報ばかり言ってきた。ただ、視線がすべて私に向いていた。すると、


銀色の風シルフ様、今度、私とダンジョンの叡智について語り合いませんか?」


『精なる棒』のメンバーである片眼鏡をしたサイドテールのイケメンが私に話しかけてきたが、ダンジョンの叡智など興味があるわけがない。私が興味があるのは兄さんの叡智Hだけだ。ダンジョンがどうなろうが私の知ったこっちゃない。


当然無視だ。


そういえば今度、ドМと一緒に映った写真集を兄さんに送ってみよう。仮面もしているのでバレることはないだろう。私のページだけカピカピになっていたらどうしよう。妄想が膨らむなぁ。


すると今度は逆サイドから声がかかってくる。


「べ、別にお前のために作ったわけじゃないんだからな!」


『精なる棒』の最後の一人、ツンデレ風の少し頭がボサボサなイケメンがなぜか知らないが熊のロゴが入ったマフラーを渡してきた。


今、夏やで?


多分、少女漫画なら、「ふふ、馬鹿みたい」とかいって、イケメンの天然を好意的に受け取るのだろうが、私をそんじょそこらのヒロインと一緒にするな。兄さんと結ばれた時、全人類にNTR寝取られ属性を付与できる最強のヒロインだぞ?頭が高いわ。


当然無視。


そういえば、4年前の2/17の13時31分15秒に夏と間違えて病室に半そでハーフパンツで来た兄さんがいた。不意打ちだったので心拍数が一瞬1000を超えた。そして、『どうりで寒いわけだよ」とか言って頭を掻いていた兄さんを見て、悶え死にそうになったのを覚えている。


当時、私は困っていた。冬になると馬鹿、じゃなくて、天然な兄さんでも服を着る。そうなると、オカズが足りなくなるのだが、そのために秋ごろになると兄さんをたくさん盗撮して冬に備えていた。それなのにその年の秋は不作で兄さんの写真が少なかった。


そんな飢えた熊のような私に気付いた兄さんは流石だと思った。私がオカズに飢えているのを勘づいて、薄着で来たのだろう。大ちゅき♡


兄さんこそまさに生きた天然記念物、日本が生んだ至宝だというのは異論はないだろう。


「貴様ら…大事な会議の最中、|銀色の風シルフ様を口説くんじゃない!」


おっ、ナイス。変態秘書が気の利いたことを言ってきた。だけど、この流れは…


「ふっ、お前のような愚か者には私と銀色の風シルフ様の崇高な話が理解できるわけがあるまい」


「そうだぞ、銀色の風シルフ様は今凍えているんだよ!俺との熱い時間を邪魔するな!」


「私の銀色の風シルフ様が貴方たちのものになるわけがないでしょう?馬鹿なんですかぁ?」


「ふっ、喧嘩をするなよ。子ネコちゃんたち。俺を巡って争うのはやめたまえ」キラーン


あ~あ、また始まった。いっつもこうなのだ。定期報告で私が来ると、私を巡って全員が口論を始める。これが始まると大体ほとぼりが冷めるまで三時間くらいかかる。


めんど


スッスッ


「うむ?」


私の服の裾を引っ張ってくる曲者がいた。忍者風のやつだった。片膝立ちで私を見ていた。何用かと思って首をかしげると、私に何かを渡してきた。


「…我が禁忌目録アカシックレコード。姫には我が恩讐、怨念のすべてを伝えておくべきと拙者は判断した」


そういうやいなや忍者風のやつは自分の席に戻って、腕を組んで場を静観していた。


「ふむ」


やっぱ厨二か…ぶっちゃけ何を言ってるのか何も分からんかったわ。ごめん…


後、重ねて謝罪しなきゃいかんのだが、ワイ、幼卒なんや。漢字は雰囲気でしか読めん。でも、一応ちゃんと資料にしてくれたみたいだし、後で藪医者に読ませるわ。ワイは読まん。


それにしても、面倒で退屈だ。仮面もしてるし、寝るのもありかと思ったが、今、寝てしまうと夜に寝れなくなってしまう。兄さんの配信でも見ようかと思ったが、スマホは受付で没収された。私が『お願い♡』って言えば、取り返せるのだが、自分を安売りしているみたいで嫌なのだ。


「はぁ、そもそもこんなくだらないことをするためにSランク冒険者になったわけじゃないんだけどなぁ」


眼の前で私を巡って争うSランク冒険者を見てため息をつきたくなる。私が冒険者になろうと思ったのはある崇高な目的のためだった。


そもそも『魅了』で冒険者とか無理やろ?と言われるかもしれないが、そんなことはない。いや、魅了単体なら確かに無理だ。人間以外に魅了は効かないからだ。しかし、私は魔素を常人の十倍くらい持っていた。


原因はおそらくだが、あの村だろう。勘だけどこれは当たっている気がする。まぁ幸か不幸か、その大量の魔素があることを可能にした。それは『魔法』だ。


私は人間にして魔法が使えるのだ。で、私がどんな魔法を使えるのかというと、『変身魔法』だ。


例えば、象になりたいと願えば象になれるし、リスになりたいと願えばリスになれる。ただ、特定の人間や無機物になることはできない。後はohinn-thinnを付けるのも不可能だ。私はどんなになっても土偶のままらしい。


そんで、当時の私はなんて意味のねぇ魔法だと絶望した。


兄さんに変身できれば、あんなポーズやこんなポーズをして恥ずかしい写真を撮ってフォルダに保存できるのに…!なんならOthinn-thinnをいじりたかった…!


ベッドの上で三日三晩悔し涙を流したのを覚えている。


話をダンジョンに戻そう。そんで『変身』と『魔法』で一体なにができんねんと思うだろう。


ここで『魅了』のおさらいをしようか。魅了とは同族の老若男女問わず、私に夢中にしてしまうというものだ。もう一度言う。『同族』を、だ。


つまり、私が魅了できるのは本来なら人間だけなのだ。けれど、私には『変身魔法』というものがあるので、リスに変身すれば、すべてのリスを魅了できるし、象に変身すれば、すべての象を魅了できる。


これがダンジョンのモンスターにまで適用できたのだ。つまり、私は人間だけではなく、地上、ダンジョンにあまねくすべての偶像アイドルになることが可能になったのだ。


だから、私がダンジョンに潜って、モンスターに変身して、『自害しろ』と言えばすべてが解決する。力なんて全く必要ない。


ちなみに『自害しろ』は別の言葉でもいいんだけど、当時私は『曹操のフリー恋』という漫画にハマっており、『自害しろ』が口癖になっていた時期があった。うっかり人間を殺してしまったこともあったが、アレはマジで反省。


まぁというわけで私は『自害しろ』だけでSランク冒険者になったのだ。おかげでダンジョン攻略数はSランクでも二位。一位になるのは面倒だし、どうでもいいわ。


で、一番最初の話に戻る。そんで冒険者、ひいては、Sランク冒険者になったかだ。それは目の前にいるドМに関係する。


「もう!銀色の風シルフ様の前でみっともないですよ!」プルン


ピキッ


「ほら!銀色の風シルフ様も…どうかされましたか?」プルン、プルン


ピキピキッ


「ま、まさかご気分を害されましたか…?も、申し訳ありません!」 プルン、プルン、プルルン!


私の前でいい度胸だ…


言わなくても冒険者になった理由は分かるだろう。地上の医療、素材だけではおっぱいを大きくする世界に叛逆することは無理だと悟った私は地上にはない未知の素材をダンジョンに求めたわけだ。


そして、集めた素材は藪医者を通じて世界に流通させ、おかげで医療がとんでもなく発展したらしいが、そんなことはどうでもいい。私のおっぱいはいつになったら、あのドМ天然を凌駕できるのだ?


「あ、あの、銀色の風シルフ様ぁ…胸がぁ…」


「「「はわわわ」」」


力いっぱいみしみし揉んでいるとドМが感じてしまった。そろそろこのドМを殺すか?私の理想とするおっぱいを持っているから温情で生かしていたが、私の手はドМのおっぱいを握ることに最適化されている。つまり形状、重さ、密度に至るまですべて把握しているといっていい。


後、Sランク共、気色悪いから見るんじゃねぇよ。


とりあえず私はドМのおっぱいから手を離す。


「会議を続けろ…」


「「「は、はい」」」


空気が変わる。軌道も修正したようだし、そこそこ身になる話を聞けるだろう。まぁ幼卒だから、何を言ってるかはほとんど分からんけどな。


「続いては私からの報告になります。私からはある配信についてになります」


ピク


「配信?」キラッ


王寺とかいうイケメンが反応した。


「はい、名を新也。配信内では『新ちゃん』の愛称で呼ばれている男性冒険者になります」


「ふっ、そんな冒険者に僕らの時間を「続けろ」…え?」


イケメン共が固まっているがどうでもいい。


「聞こえなかったか?続けろと言ったのだ」


「は、はい!申し訳ありません」


すると、ドМがあたふたと準備を始めた。変態秘書も手伝ってくれたおかげですぐに準備が整った。そして、そこに映ったのは、


「兄しゃあああああん♡!」


「「「え?」」」


やっべ、やっちまったぁ。


くっっっそつまんねぇ会議に癒しが突然現れたから魂が勝手に反応した。とりあえず、


「…続けろ」


「は、はい!」


ゴリ押しだ。並みの美女なら無理だが私ならいける。


「改めまして、この『新ちゃん』という配信者をSランク冒険者にスカウトしたいというのが今回私が提案させていただく議題になります」


素晴らしい。ただのドМだと思ったが、優秀じゃないか。今度ケツバットをしてやろう。


私はとても前のめりになって会議に臨むことにした。


━━━

次回、盗撮配信がSランク会議に登場!


ブックマークと☆☆☆をお願いします…!応援もありがたいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る