金剛姫side
「はぁ…昨日はとんでもない配信を観てしまいました…」
私はSランク冒険者の定例会議に必要な資料をまとめていた。あまりにも荒唐無稽、けれど、配信であるということがすべてのフィクションの可能性を打ち砕いていた。今も例の配信を開いているのだが、寝ているのか画面は真っ暗だった。
「新さん、貴方は一体何なのですか…そして、それを配信する謎の『義妹ちゃん』…」
義兄妹で配信しているのだが、色々おかしすぎるのだ。兄である新さんは一見普通の中年に見えた。しかし、身体能力だけでSランクモンスターを軽々と拳で粉砕し続け、オリジンキングオークを絶死のスキル、自爆で屠った。
自爆で死ぬならいい。私たちSランクが自爆さえすればオリジンキングオークの命と等価交換くらいできるかもしれない。だが、新さんは自爆をしても身体はぴんぴんしていて、服が吹き飛ぶだけで済んでいたのだ。
強さの理不尽。
もし、『日本ダンジョン協会』に所属してもらえれば今も日本中に蔓延るダンジョンの攻略が一気に進むかもしれない。しかし、行方を探っているのだが、中々見つからない。とりあえず、今日のSランク会議で絶対に話さなければならないテーマだ。
そして、個人的に気になっているのは『義妹ちゃん』こと『銀髪美女』さんだ。そして、新さんを盗撮している張本人で、同じ村の出身。姿形は分からないけれど、身体が弱く、入院しているという情報がある。ただ、それでは可笑しいのだ。
なぜなら博識すぎるのだ。いや、あの鬼族やエルフがいる村の出身だということで村事情に詳しいのはおかしくない。ただ、それにしてはモンスターの生態について知り過ぎている。
盗撮できるのだからネットをする環境はあるのだろう。ネットで調べまくったモンスターオタクの可能性も捨てきれない。けれど、あまりにも生きた情報すぎるのだ。まるで、私たちと同じくダンジョンを攻略しているようなそんな雰囲気すら感じさせる。
何よりも、個人的な私の事情を知っている。私の頭にはある一人の御方が思い浮かんだ。だが、それだと病人だというのはおかしい。
「一体誰なんですか…」
結局そこに戻ってしまう。昨日の夜から悶々としながら、考え続けているのだが、一向にうまい案が浮かばなかった。すると、私の部屋にノック音がなった。
「凛お嬢様、そろそろ…」
「ああ、ありがとう、野山。すぐにいきます」
「はい、かしこまりました」
秘書の野山が良い時間に来てくれた。モデル顔負けの美しい身体、女性が憧れとするような素晴らしい容姿でスーツをびしっと着こなしている。私はすぐに書類を整理して、部屋を出た。
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金剛姫こと
そのためには何よりも実績、そして、力が必要なのだ。今、日本は常にダンジョンの脅威に晒されている。
「美しぃ…!」「金剛姫、万歳!」「美しすぎる青髪…!」「でっかい…!」「死ねや!」「銀蜘蛛様も素敵…」
「ふふ、皆さん、ありがとうございます」
ダンジョン協会に着くと、どこから嗅ぎつけたのか私のファン、そして、メディアで溢れていた。どこから情報が漏れたのかは分からないが、それでも朝五時からご苦労なことだ。面倒だけど、求心力はトップには必要な資質だ。しっかり笑顔で手を振る。
私の普段の恰好とダンジョンに潜るときの姿は基本的に変わらない。上半身はビキニでズボンはミニスカジーンズを着用していて、背中には大きな大剣『バハムート』を背負っている。髪はあのお方を意識して伸ばしている。サファイアで海のような髪は私の自慢だ。
父には『もう少し節度を持った服装を…』と小言を言われるが、これは私のスキルが関係しているので、しょうがない。そもそも常在戦場の精神を持たぬものにダンジョンを殲滅することなどできない。多少の恥ずかしさはあるが、客寄せパンダになれるのならそれはそれでいい。私に憧れて冒険者が増えるのは悪いことではない。
ビルに入ると、ファンや取材陣は入ることはできない。警備員ががっちりと守ってくれている。私がゆっくりできるのは家、そして、ダンジョン協会だけだ。後はやることがシンプルという意味でダンジョンもあるかもしれない。
モンスターを屠ればいいだけなのだから、気楽なものだ。ダンジョンを滅ぼそうとしている私がダンジョンに癒しを感じてしまっているのは皮肉なことだ。
顔なじみの受付と挨拶をすると、私はダンジョン協会の奥の奥、Sランク冒険者しか入れない会議室に向かうために、エレベーターに乗る。毎度、そこで野山とスケージュールの確認をするのだが、
「凛お嬢様」
「ふふ、ここではその名前は不適格でしょう、銀蜘蛛」
「…失礼しました、金剛姫様。今日の予定ですが」
「必要ありませんよ。今日の予定はすべて頭に入っています」
「左様ですか」
野山こと銀蜘蛛は金色の園のメンバーの一人で私の右腕だ。何度も死線をくぐり抜けているので、部下というよりも戦友に近い。
そして、地上のビルはカモフラージュだ。本当のダンジョン協会は地下にある。私たちは地下50階まで下る。そして、エレベーターを下った先には、
「遅かったな…」
「
天の川を彷彿とさせるような美しぃ銀髪に、誰もが羨むスタイル。そして、漆黒の仮面をして壁に背を預けて私を見ていた。すると、
「…不服か?」
「い、いえ。滅相もございません!」
私は直立不動で
「あふん!」
「次、遅れたらこの程度では許さない。肝に銘じておけ?」
「は、はぁい」
恍惚に浸っている場合ではない!可笑しい。私は何があっても
「銀蜘蛛、わざと誤った時間をスケジュール帳に書いたのですね!?なぜですか!?」
私は銀蜘蛛を見て、キッと視線を送った。すると、私の耳元に顔を寄せて、
「私は金剛姫様を第一に考えて行動しております。どうでしたか?(ボソ」
なんという酷い秘書だ。主に恥をかかせるだけに飽き足らず、
「そ、そんなの…!そんなの…!
嬉しかったに決まっているじゃないですか!
「ありがたき幸せ」
私の本性はドМ、
「おい、ドМ。椅子はどうした?」
「は、はい!ただいま!」
「お、お嬢様がこれほどまでに喜ばれるなんて…!
「あへへぇ…」
「…」
銀蜘蛛が泣きながら喜んでいる。私もとても嬉しい。廊下は大理石でできているが、この痛みさえ幸せに感じてしまった。
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私は当時21歳、そして、
そんな折、
スパアアアン
「え?」
「ふん…」
おっぱいを全力でぶっ叩かれた。そして、
当然、私だって怒る。しかし、
「待ってください!」プルン
スパアアアン
「ちょっと…!」プルン
スパアアアン
「少し話を…!」プルン
スパアアアン!
「はぁ、はぁ」プルン、プルン
スパアアアン、スパアアアアアアアアン!
それ以降、声をかけては、私は
痛い、苦しい、そして、何よりも後輩におっぱいを無様に叩かれていることが屈辱だった。夜な夜な、
そんなある日、ダンジョンに
これでいい。これでよかったのだ。そう頭で思っているのに、なぜか心に喪失感があった。
「金剛姫様!?」
「え?」
銀蜘蛛の言葉でハッと気づく。私は油断していた。私の普段の恰好はビキニにジーンズという動きやすさを重視した格好だった。
当然、モンスターに吹き飛ばされてしまった。
喰われる!
そう思って目を瞑ると、いつまで経っても終わりが来ない。恐る恐る目を開けると、そこには首から上が切断されたモンスターの姿と、
「あ、ありがとう」
スパアアアン
そして、頬を引っ叩かれた。そして、胸倉を掴まれた。
「装備を纏っても盛り上がっているのはなぜだ?」
装備を着てても分かる?まさか私の心の弱さが装備越しに分かってしまったということ?
それを悟った時、私は何も答えることができなかった。
たった一言で私は弱いということを実感させられた。そして、今まで
それを悟った私は、鎧を脱ぎ捨てて全裸になった。たまたまこの場に女性しかいなかったが、男性がいたとしても、脱いだだろう。
「なんのつもりだ…」
「数々の無礼、お許しください。そして、いかようにも好きなようにしてください」
「…いい度胸だ」
そこから先、
「凛、お嬢様…」
ああ、そんな心配そうな顔をしないで、野山。私はやっと自分に正直になれた気がするの。
私の中に力が溜まっていく。言語化はできないし、合理的な理由などあるはずはない。だけど、私は目覚めたのだ。
ドМに。
「ふ、ふぐ、なんで、わたしには…おっぱ…が…!」
そして、
このお方はなんてお優しいのだろう。私を覚醒させるために、どれだけ嫌われ役を担ったのか。そこからの記憶はない。ただ、私はこのお方の一生の奴隷として生きようと思った瞬間だった。
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━
「ドМ、早く行け」
「は、はぁい!ただいまぁ!」
冷たい大理石を四つん這いで歩く。なんという喜び。このまま地球一周したいくらいだった。
「いつも主人がお世話になっております、
「ふん…」
「はぅ…素敵ぃ」
私は現在、廊下を馬となって歩く。今では野山もすっかり
「
私は森羅万象すべてに祈った。
━━━
次回、Sランク会議の議題に盗撮配信が出てきま~す。ただ、その前にドМ様の華麗なる回想をやろうかと
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