第9話 ドローンside2

『どうすんねんこれ』

『まさか空間魔法に乗り遅れるとか…』


銀髪美女:『兄さんを映さないドローンとか存在意義なしやろ。スクラップやな』


『そんな可哀そうなことを言うなよぉ~』

『こいつは頑張っとるで?』


アルフの開いた空間魔法に乗り遅れたドローンは新也という盗撮対象をなくして困っているようだった。今はクルーシャの家でプラプラしていた。しかし、


「ふ~ん、新也がいなくなるとこうなるのね」


『な、なんだ!』

『は、離せこの野郎!』

『この声は!』


クルーシャだった。そして、ドローンを捕まえるとじろじろ、ぐるぐると回してじっくり観察した。そして、手に持って固定した。逃げ場はない。


「ドローンだっけ?あんただけにかかる結界をアルフに付与したのよ」


『な、なんやてえええ!?』

『嘘やろ…!?』

『助けてええええ新ちゃん!』


「はいはい、大人しくしてなさいな。全く、新也も変なものを連れてるんだから。これもあの性格の悪い義妹のモノだと思うと納得しちゃうけど」


銀髪美女:『ワイは天使みたいな性格や。裏表はないし、誰かに媚びることもない。お前みたいな不細工とは違うねん』


『言ってることは間違ってないんだけど、なんか腹立つなwww』

『新ちゃんに対して、素直に気持ちをぶつけたり、金剛姫にこびないところとかな』

『ただ、天使ってところは違くないか?』

『堕天したんやろ?』

『それや。納得』

『それよりクルーシャさんのゴミを見る目が素晴らしいな!』

『ああ!さっきの媚媚も悪くないがこっちの素の方がいいな!』

『クルーシャ様って呼ぶわ』


クルーシャは様を付けられた。すると、ドローンが目の前に映る困った顔をしているアルフとセフィを映した。しかも、アルフはもうぶるぶると何かに耐えられなくなっていた。そして、耐えられなくなったアルフはついに机を叩いた。


「な、何よ」


「もう、いい加減にしてください…」


地獄の底から出たような深刻な雰囲気に流石のクルーシャも焦る。セフィも同じように困ったようにクルーシャを見ていた。


『なんだなんだ?アル爺がキレたぞ?』

『ってかなんで敬語を止めたんだ?』


「いつまで俺たちは貴方の茶番に付き合わなきゃいけないのですか!姉上・・!」


『は?』

『え?』

『あねうえぇ?』


「うっさいわね。新也を堕とすまでよ」


少し罰が悪そうに答えるクルーシャ。そして、それを見てため息の止まらないアルフはぶっちゃけることにした。


「それはいつなのですか?正直、あの気持ち悪い声を聞くのはもう耐えられません」


「気持ち悪い!?弟のくせに随分酷いことを言うわね!?』


「私は付き合いますよ、姉さま」


「マジか、お前…」


アルフが頭を垂れる。セフィの裏切りを受けて、もうやめてくれと腹を痛めているようだった。


『クルーシャ様が末妹だと思っていたら、二人の姉さんだったってこと…?』

『そういうことだと思うわ』


「なぜ俺、いや、俺たちエルフ族の長老を末妹扱いしなければならないのか…」


「だから、それは新也を堕とすためよ」


「全く効果がないって言ってるんですよ!こう言っちゃなんですが、新也に同情してしまいます!好きでも無い女にあんな風に迫られたら気持ち悪いです!吐き気がします」


銀髪美女:『ええぞ!よく言ったアル爺!』


『よっぽど不満がたまっていたんやろうなwww』

『ワイがアル爺の立場だったら吐き気が止まらんわ』

『それな。もし姉貴がそんなことをしたらと思うと寒気が止まらんわ』


アルフ擁護の声が聞こえてくる中、


「そ、そこまで言わなくても、ヒッグ…」


クルーシャが泣いてしまう。そして、セフィの胸枕に抱き着いた。


「こら、姉さまをイジメちゃダメよ?」


「いや、イジメられてるのは俺だろ…」


『一体なんなんだ、この状況…』

『クルーシャ様メンタル雑魚すぎやwww』

『今のクルーシャ様には好感を持てるわ』

『ワイも。普通に素のままでいた方が可愛いと思うで?』

『アル爺…』

『ということで義妹ちゃん、解説プリーズ』


銀髪美女:『おうよ。任せな。まぁさっきから配信で言っている通り、クルーシャは末妹ではない。というよりもエルフ族の長老や。面の皮が最高に厚いっていうのはそういうことやねん。よく年上の分際で妹になれるなって意味や』


『まさかの長老かよwww』

『全然そんな風には見えんわwww』

『見た目はロリやからな』


銀髪美女:『ただ、なんでこんなキャラになったかとかは知らんねん。年齢を詐称したのは知っているんやが…』


『ちなみにクルーシャ様はいくつなの?』


銀髪美女:『今年で2900歳や』


『詐称しすぎやろwww』

『エルフ以外には無理な特殊詐欺やな』

『違いない』


場がカオスになってしまったことで、アルフは頭を掻きながら、ため息をついた。そして、なぜこんな状況になってしまったのかを整理することにした。


「それで、なぜ姉上があのような、その、きしょく、じゃなくて、かわいらしい末妹をなぜ演じられるようになったのでしたっけ?」


「だって、あの義妹が羨ましかったんだもん」


「沙雪のことですか?」


「うん」


銀髪美女:『ワイが?』


『お前かよwww』

『ぜってぇなんかやってるな…?』

『というか名前のところだけ微妙にノイズが入るな?義妹ちゃんの名前だけ分からんのだが…』

『それな』


突然、名前を呼ばれて驚く沙雪だが、話はどんどん進んでいった。


「ずっと『兄さんの鎖骨めっちゃうまいねん』とか言われ続けていたのよ?私だって新也のことは、その、ねぇ?」


「好きなんですよねぇ」


「そ、そうなのよ、セフィ!だから、合法的に甘えたくて年下でいくことにしたのよ!」


好きだと直接言われると恥ずかしいが、それでも内心を当てられるとむずむずするというジレンマに陥っていた。


『なんやろ。手段は阿呆やがめっちゃ可愛いな』

『ほんとそれ。手段は阿呆だけど』

『義妹ちゃん、この時いくつだよ?』


銀髪美女:『七歳』


『それで鎖骨めっちゃうまいねんは色々アカンって』

『七歳じゃなかったら捕まってるで?』


銀髪美女:『ワイは兄さんというエターナル・プリズンに捕われた姫やねん』


『自分のことを姫って言えるメンタルは見習いたい』

『ワイも。こんくらい強くなりたいわ』


画面の仲で項垂れるアルフは続きを促すことにした。


「…千歩、いえ、一万歩譲って年下ぶるのは許しましょう」


『だいぶ譲歩したなwww』


「ですが、あの演技はなんなのですか…?」


あの演技、それは新也に対するあのへったくそな媚売りのことだろう。


「し、仕方ないじゃない!年下の立場でどう振舞うかなんて覚えているわけないんだから想像でやるしかないじゃない!い、一応、アルフが小さかった頃のやつをお手本にしているのよ?」


「お、俺!?」


「あの時のアルフは可愛かったわね。『姉さま~大好きぃ!』っていつも言って抱き着いてくれたものね」


「やめろぉぉ!!ってか俺はそんなことをやっていない!」


『あのクソ下手媚娘ムーブの原点がまさかのアル爺かよwww』

『アカン、それは見てみたいわwww』


まさか姉上の罪の所業が自分にあるとは思わなくて、絶句した。そして、五分間くらいむせた後、アルフは力なく地面にうずくまった。


「怜悧で富んだ知恵、そして、その美しく気高き姿に我々エルフたちは皆、とても姉上のことを尊敬していました」


かつてのクルーシャを思い出す。しかし、


「今では、新也を堕とすために気色の悪い言動を繰り返し、自分を末妹だと権力を駆使して我らに強要し、自身の身分を隠す始末…恋というのはエルフをここまで馬鹿に堕とすものなのか…?」


「好き勝手言ってくれるじゃない!」


「事実ですよね?」


「…そんなことはどうでもいいでしょ?」


アルフを正面からみない。明後日の方向を向いていた。


『コラ、こっちを見なさいwww』

『嘘が下手やなぁ。これで新ちゃんをよく騙せたなwww』

『いやいや新ちゃんやで?騙すことの方が簡単や』

『それなwww』


セフィ、そして、アルフの視線に耐えられなくなったクルーシャは机をどんと叩く。そして、声を上げて勢いに任せて乗り越えることにした。


「そ、それより新也のあの恰好は何よ!エルフ族の正装とか言ってたけど、あんなの身に覚えがないんだけど!?」


「ああ、それは私の案です」


「セフィの案…?どういうことよ?」


アルフは再び頭を痛める。そして、あらあらうふふとセフィは余裕そうな態度を崩さない。が、眼を徐々に開いて、しっかりとクルーシャを見据えた。


「早く、新ちゃんを抱いてくださいっていうメッセージですよ。二十年近く時間があって、なぜか一歩も進展がないどころか後退してる姉さまに特上のプレゼントを渡したつもりでした」


「余計なお世話よ!?というか後退って何よ!私のプランだと後三百年で堕とせるわ!」


「新ちゃんが死んじゃうじゃないですか?」


「あ」


『種族の差www!』

『計画の抜本的な見直しが必要やなwww』

『というかエルフって恋愛に300年もかけるのか』

『一体、何をするんや?』

『分からん…』


そして、セフィがはぁと溜息をつく。


「…ちなみにどういう結ばれ方をするのですか?」


「そんなの決まってるでしょ?エルフの聖樹の根元で新也から告白されるの。『君はもう俺のエターナル・プリズンに囚われてる』ってね。そして、強引に迫られた私は、成す術もなく新也に蹂躙されて、子供を百人生まれるまで種付けされ続けるの。キャッ、言っちゃった」


銀髪美女:『エターナル・プリズンってなんやねんwwwばっかじゃねぇのwww』


『一分前の自分の発言を見直してみ?びっくりするから』

『新ちゃんがそんな気の利いたプロポーズができるとは思えないな』

『ってかクルーシャ様普通に可愛いな』

『うん。一番純情やで。2900歳なのに』

『目を覚ませ。最後は種付けendを望んでいるんやぞ?』


そして、さっきから一応ちゃんと聞いていたセフィは、


「却下です。というかうまくいくわけないじゃないですか。この脳内お花畑が」


「ちょっと最後のは悪口だって分かるわよ!?」


『辛辣www』

『セフィさん、静かにキレてるなwww』


そして、セフィはそのプランのどこがダメなのか指摘する。


「なぜ新ちゃんが、告白してくることが前提なのですか?姉さまが告白すればいいじゃないですか?」


「ぐっ」


正論を言われてしまいぐうの音もでない。そして、かろうじて、指をもにょもにょと動かしながら、言い訳を発する。


「そ、そんなのたった30歳の男に私が告白するなんて、プライドが許さないわ…むしろ、付き合ってあげるっていうのが私のスタンスなわけなので…後は、普通に告白するなんて恥ずかしいし、新也に告白してもらいたいじゃない?」


「アラサードサウザンドにもなって29歳だと偽って、我らの妹を演じ、あの言動と態度をするよりも恥ずかしいことなんてあるのか…?(ボソ」


羞恥心がズレているのではないかとアルフはツッコんでしまうが、クルーシャは気が付かない。


『アラサードサウザンドwww』

『アラサーの3000歳バージョンかwww』

『アルフさん、もっともやでwww』

『後、謎のプライドが発生しとるな』


銀髪美女:『エルフは年を重んじ、何よりも大事にするんや。だから、年下に舐められるとめっちゃ切れるで』


『老害みたいやな』


銀髪美女:『そうやな。ワイの兄さんもとんでもないやつに好かれてもうた』


『それはそうやな』

『ブーメランやで?』


「はぁ、もういいです…それじゃあ最後の質問になります。なぜ新ちゃんにゴミ装備を渡すのですか?アレって完全に割り箸ですよね?」


『やっぱりかwww』

『新ちゃんだけじゃん!騙されてるのwww』


「そんなの決まってるでしょ?新也に会いに来て欲しいからよ」


「手紙で会いたいって言えばいいじゃないですか…」


「いやよ。私はエルフの長よ?それなのに男に会いにいくだなんて、そんなはしたないことはできないわ」


「でも、会いたいからわざと壊れやすい武器を渡してますよね。一応スキルを付与しているのは新也に自分の愛を感じて欲しいとかそういう理由ですよね?」


「…」


『黙るなwww』

『もぉう可愛いなwww』

『アルフさん、内心当てすぎやwww』

『わざと壊れやすい武器を渡すって時点で色々アカンけどなwww』

『義妹ちゃんと夕霧さんと同類やんけ』


銀髪美女:『失敬な。ワイはただの純情正統派ヒロインや』


銀髪美女:『後、ワイは落ちるわ。明日は朝早くから会議があるんでな。ほな、さいなら~』


『グッパイ』

『また明日な』


沙雪は配信から落ちた。明日は朝一でSランク冒険者会議があるのだ。


「はぁ、ということで私もアルフも限界です。そろそろ新ちゃんをエルフ族に引き込んで、人間を支配する計画を進めたいのです」


『な、なんやてえええ!?』

『義妹ちゃん戻ってこい!そして、解説してくれ!』

『あんなバーサークエルフが攻めてきたら大変だ!』


突然のセフィからの告白に配信が大盛り上がりになる。くしくも沙雪が落ちた後にだった。


「ですが、このまま姉上に任せていたら、もうどれだけ時間をかけてもどうにもならないということが分かりました。よって、強制的に同棲してもらいます」


『こっちもこっちで大盛り上がりや!』

『強硬策に出たなwww』

『情報の大洪水や!義妹ちゃん起きろ!』


一方その頃の沙雪は、「に、兄さん、そこは私のGカップだってぇ、もみもみしちゃダメだよぉ」という新也とのチョメチョメをする夢を見ていた。ベッドに横になれば0.93秒で寝れるのだ。


突然の同棲を告げられた、クルーシャは、


「そ、そんなはしたないことができるわけないでしょ!?」


当然、拒否する。しかし、


「そんなことは知りません。というよりも私も限界なのです。エルフの掟で好きになった男は年上から与えていくというルールがあります。早く新ちゃんを抱きたいので、さっさと抱けっつってるんだよ、馬鹿姉」


「馬鹿姉!?」


『セフィさんwwww』

『本心を隠さなくなったなwww』

『ってか新ちゃんハーレムやんけ…』


すると、後ろでアルフが空間の窓を開いた。クルーシャの結界は入るのは弾くが出て行く分には空間魔法の使用に制限はない。


「セフィ、空間魔法の準備はできたぞ。クルーシャ姉上をぶち込め」


「はいは~い。それじゃあ行きますよぉ」


「ちょ、ちょっと、待って。心の準備が…!」


「「いってらっしゃいませ~」」


セフィはクルーシャをがっちりとホールドすると、そのまま空間魔法の窓にクルーシャを投げ込んだ。


「ん?ああ、これも新也のものか。ほれ」

━━━


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