第6話

『断空』で息絶えたイノシシを『異空間箱アイテムボックス』に入れる。夕霧も手伝ってくれたので、解体するのに時間はかからなかった。


解体が終わると、いい時間帯だったので、家に戻って昼ご飯を食べた。夕霧がイノシシ肉でステーキを作ってくれたので、とても美味しかった。


「ふぅ、お腹いっぱい」


「そんなに食べてゲートボールは大丈夫なの?」


「仕方ないだろ。夕霧のご飯がうますぎたんだから」


「そ、そう。そう言われちゃうと何も言えないわね…」


銀髪美女:『兄さんの体調管理ができない人に妻は務まりません。さっさと家に帰ったらどうですかぁ?』


『義妹ちゃんが一番、体調管理ができていないんじゃ…』

『それは言うたらアカン。センシティブな問題じゃ』

『そうやな。命に関わる話やで?』

『ごめん。配慮に欠けてたわ。すまねぇ義妹ちゃん』


銀髪美女:『気にすんな。ワイは常に全力で生きてるだけやから』


『義妹ちゃん…』

『懐がデカいなぁ。早く元気になって新ちゃんと一緒に暮らせるようになって欲しいわ』

『それな。十五年間も闘病生活を続けられるなんて凄いことやで』

『一体どんな病気なんやろうな』

※突発性ブラコン症候群です。分かりやすく言うと、仮病です。


昼食休憩を終えた俺と夕霧はさっそくゲートボールをやる会場に向かう。一応、ポストを確認してみたのだが、そこにはノブさんからの手紙が入っていた。しかし、夕霧が中身も見ずに捨ててしまった。


「どうせ、私を連れ戻すとかそういう内容よ。私は家を出て行く覚悟を決めたの」


とのことだ。ここまでの決心だ。相当結婚したいんだろうなぁと思った。俺は心の底から応援した。


『ゲートボールってなんやっけ?』

『簡単に言うと、スティックでボールを打って、ゴールを目指すゲームやな。老人が楽しむスポーツとして有名やな。日本だとゲートゴルフやグランドゴルフっていう形で言われることもあるんや。これらは別々のゲームなんだけど地域によってはごちゃごちゃに混ざっていることもあるんやで』

『ほぇ~そうなんや』


ゲートボールの会場はじっちゃんたちの気分で変わる。じっちゃんたちから届いた手紙には地図が書いてある。今回は運よく山を一個超えたところで行うそうだ。前回は四つほど超えなきゃいけなかったからめっちゃきつかった。


そして、歩くこと三十分、なんとか山を越えて会場に着いた。森の中にぽっかりと野原が広がっていた。


「おう、来たか。遅かったな」


「いらっしゃい新ちゃん」


声のした方を見ると、そこにはじっちゃんとばっちゃん、そして村人が数人集まっていた。


「遅いって…山を越えなきゃいけないんだからもう少し労わってくれよぉ」


俺はあまりに理不尽な物言いに苦笑しながら反発する。


「ふん、魔法を使えれば一瞬だろうが」


「こら。新ちゃんは魔法が使えないのよ?意地悪しちゃダメ。それと夕霧ちゃんも来たのね?今度のんべえに顔を出すわ」


「はい。父も楽しみにしていると思います」


「新也~これはなんだ?」


軽く談笑しているとじっちゃん、ばっちゃん連中の一人がドローンを見つけたらしい。例のごとく沙雪が誕生日プレゼントにくれたことお金を生み出してくれる機械だと説明した。みんなドローンが珍しいのか指でツンツンしたり、声をかけたりしていた。すると、


「全く、都会のものを使うなとあれほど言ったのに…身体が弱くなるぞ?」


「贈物にケチを付けちゃダメよ。それより新ちゃん、誕生日おめでとう」


「ありがとう、セフィさん。俺も今年で30歳になっちゃったよ」


「ふふ、私たちからしたら赤子も同然よ。ねぇ、アルフ?」


「そうだな。とはいえ、区切りの年だ。おめでとう。新也」


「ありがとう、アルフさん」


祝いの言葉を頂くと普通に嬉しい。アルフさんは村のリーダー的な存在だ。金髪をオールバックにしており、ちょっと気難しそうな顔をしているが、根はいい人だ。で、セフィさんはアルフさんの双子の妹だ。長く美しい金髪をサイドテールにしている。おおらかな女性だ。


村の人たちは皆、血縁関係があり、兄弟みたいなものらしい。仲良く何年も一緒にいられるのだから、凄いと思う。すると、


「おっ!新也も30歳か!」

「胴上げだ胴上げ!」

「ブドウ食べるぅ?」

「馬鹿!新也が好きなのは林檎でしょ?」

「肉だ!肉を喰え!」


「ちょ、ちょっと!そんなに一気にこられたら、困るって!」


村のみんなが各々の異空間箱アイテムボックスを解放して、俺の誕生日祝いをしてくれる。ちょっと前に夕霧の昼ご飯をもらった俺としてはもうお腹がいっぱいだった。けれど、貰わないと皆を悲しませることになる。


みんな高齢だから、村にいる数少ない若者を可愛がりたいのだ。


「いただきます…」


俺は根性で飯を口の中に放り込んだ。


━━━


━━



新也が村人に揉まれているとき、配信では激震が走っていた。


『この村どうなってんの!?』

『規格外すぎるやろ…』

『ああ、




まさか、エルフ・・・がいるなんて…』


配信に映っていたのは童話の世界から飛び出してきたかのような見目麗しい人たちだった。ただ、普通の人間とは違って、耳が長い。


金剛姫:『今度はエルフですか…この人たちもダンジョン黎明期に日本を壊滅に追い込んだ種族です。とても人間である新さんと共存できるような者ではないと思うのですが…』


金剛姫が困惑しているが、それはこの配信を観ているすべての人間に当てはまる。いや、一人だけ例外がいた。


銀髪美女:『みんな、人を見た目で判断しちゃいかんぞ?ワイの村のじっちゃんばっちゃんたちはみんな温厚でいい人やで?』


『ぎ、義妹ちゃん!』

『そうだ!義妹ちゃんがいたわ!エルフってどんな種族なの?』


銀髪美女:『基本的にみんながゲームやラノベで聞いたことのある種族やで。長命種で若くいられる時期が長いんや。ただ、それゆえに繁殖欲みたいなものはほとんどなくてな。この村にいるエルフは皆、血縁関係があって子供もいないんや。この人たちがいなくなったらエルフは絶滅やな』


『そこは同じなのか…』

『ってかじっちゃん、ばっちゃんってズルいやろwwwエルフの方が新ちゃんよりも圧倒的に若いやんけwww超絶騙されたわwww』

『それなwww見た目だけ見たら、新ちゃんが一番の年長者やでwww!?』


銀髪美女:『それなwwwちなみにこの人たちの年齢は1000歳を超えてるんやでwww?つまり、ダンジョン黎明期の生き証人でもあるわけやな』


『突然凄い、情報をぶち込んできたなwww』

『つまり、エルフを捕まえたら、謎だったダンジョン黎明期について知れるってことか…?』


銀髪美女:『エルフを舐めたらあかんで?マジでクソつええから。兄さん以外の人類が戦ったら一分と持たないと思うで?そこにいるドМも含めてな』


金剛姫:『だ、だから私はドМじゃありません!というかさっきから気になっていたのですが、銀髪美女さんは何者なのですか?ただの病人にしては、色々知りすぎていると思います』


『それはワイも思っていた』

『基本アタオカだけど、たまに鋭すぎる洞察力を発揮するもんな』


銀髪美女:『偶然や。それよりあんま細かいことを気にしてると太るで?前もスイーツを食べ過ぎた自分を戒めてくださいってワイに尻を振っておったもんな』


銀髪美女:『やっぱ今の発言はなしや』


金剛姫:『なっ!?なんで知っているんですか!?』


金剛姫:『やっぱ今の発言はなしや』


『待ってwww』

『あんたもかwww』

『ちょっと待ってwww義妹ちゃんと金剛姫にかかわりがあるってこと?』

『とんでもないスクープやで?』

『え?じゃあドМ発言も…?』

『義妹ちゃん、もっと詳細を教えてくれ』


銀髪美女:『うっせえなぁ。それより村について何か質問はないんか?』


『はいは~い、質問!今、新ちゃんは美女エルフに可愛がられているようだけど、義妹ちゃんは嫉妬とかしないの?』

『そういえばそうや。夕霧さんにはキレてたのにエルフはええのか?』


銀髪美女:『そんなの当たり前や。じっちゃん、ばっちゃんたちはワイらの親がタヒんだ時からずっと、良くしてくれていたんやで?いわば、育ての親や。ワイはすぐに入院しちまったから、一緒に過ごした期間は短かったけどな。まぁ、そんなわけなんで、ワイはダンジョン黎明期にエルフが日本を滅ぼそうとしたって話も何か誤解があると思ってるねん。それだけいい人たちなんや。世界を敵に回してもワイはじっちゃんたちの味方やで』


金剛姫:『銀髪美女さん…』


『義妹ちゃんからええ話を聞くと、あれやな。違和感しかないわ』

『うん。基本ブラコンか嫉妬しかしてなかったしね』


銀髪美女:『うっさいわwwwまぁそんなわけなので、ワイと兄さんも村人を本当のじっちゃんとばっちゃんだと思っておるんや。あっちだって孫やと思ってるはずや。まぁ後は、1000歳以上も離れていたら、エルフ側だって、兄さんを異性として見ることなんてできないやろ?』


『それもそうだね。質問が悪かったわ』

『いやいい質問やった。エルフに対するイメージが変わったわ』


「新ちゃん、可愛い~」

「ほら、こっちも食べて~、あ~ん♡」

「あんた邪魔!」

「そっちこそ!」


銀髪美女:『は?』


嬌声が聞こえてきたので、配信に画面に映る新也を見る。すると、新也を美女エルフたちが囲んで、果物やデザートを食べさせていた。


「ばっちゃん、ちょっと休ませて!というか自分のペースで食べさせてくれよぉ」


「ふふ、照れない照れない」


「セフィさん、ちょっと休ませて…!」


「だ~め」


セフィは無理やり新也の口に肉を突っ込む。窒息しそうになると、後ろから別の美女エルフが背中をさすってくれる。どこを見ても美女エルフしかいなかった。


『おい、これはどういうことやねん』

『ハーレムじゃねぇか!』

『うらやましいいいいいいいい(血涙)』

『一瞬映った夕霧さんがヤバイ目で見てた…』

『それな。樹木を握りつぶしてた…』

『義妹ちゃん、今の心境をどうぞ?』


銀髪美女:『はぁ、だから言ったやろ?アレは孫と触れあいたいばっちゃんたちなりのスキンシップや。見た目が若くて美人やからって、嫉妬するなよ、面倒くさい。もし、ばっちゃんたちが年齢相応のババアやったら嫉妬しないんか?それは今の時代、差別になるで?』


『その通りやな…見た目に騙されてたわ』

銀色の風シルフ様を思い浮かべたらええと思うで?あのお方を頂点に置いたら女なんてすべて一緒やから』

『それは名案や。おかげで老若男女すべて同じに見えてきたわ』

銀色の風シルフ様が新ちゃんに惚れてたら、その論理は使えんけどなwww』

『はは、そんなことあるわけないやろwww』

『そうやで?そんな奇跡が起こるわけないんやwww』


はははとコメント欄で盛り上がるが、ニアピンどころかホールインワンだった。いずれリスナーたちが絶望することになるのはまだ先の話。すると、


「俺たちの新也がぁ…クッソお」

「くっそ!あのババア共!いつも新也を持っていきやがって…」

「俺だって孫と遊びたいのに…!」


ドローンが新也の背後を映した。そこにはハンカチを噛んだり、木に八つ当たりしているエルフたちが映っていた。


『じっちゃんたち可愛いなwww』

『それwwwばっちゃんたちに嫉妬しとるwww』

『こういうの癒やされるよな』

『新ちゃんが愛されているってすごく伝わってくるわ』

『でも、ふと盗撮配信だと思うと、なんか悲しくなるんよな』

『それな』

『イケメン×おっさんの絡みがみたいのぉ』

『おっと腐女子も出てくるんか』


アルフが頭を掻きながら困ったように美女エルフたちを見る。


「全く…ようやく我らに適合する人間を見つけたからって発情しおって…」


『ん?』

『ハ・ツ・ジ・ョ・ウ・?』


ドローンが再び方向を変えて美女エルフたちを映す。すると、


「ふふ、そろそろ(新也を)食べちゃってもいいかしらね(ボソ)?」

「ダメよ。そんなことをしたら、あのお方に怒られてしまうわ(ボソ)」

「全く、のんびりしているお方だ。早く素直になって、結ばれてくれ…私たちも性欲を抑えるのも限界だぞ(ボソ)?」

「私たちはおこぼれしかもらえないからね~(ボソ」


おおよそ孫を見ているとは思えないほど、頬を赤くして発情しているエルフたちがいた。もちろん一心不乱に出された食べ物を口にいれる新也がそんな密談に気付くわけがなかった。


『気のせいかな?俺の耳に発情って言葉が聞こえたんだが』

『間違いないで?ワイも聞こえたわ』

『え?ってことは、このエルフさんたちは新ちゃんに発情してるってこと?』

『そういうことやろ』


  ・

  ・

  ・

  ・


『義妹ちゃん、今の心境をどうぞ?』


銀髪美女:『一匹残らず、ぶっ殺してやるわボケ!戦争じゃ!』


『ですよねええwww』

『手のひらがねじ切れるくらい回転してるwww』

『世界を敵に回してもワイはじっちゃんたちの味方やで(キリ)!』

『いい前フリだったな』

『永世フラグ建築名人やな』


銀髪美女:『じゃあああかましいわ!あの年齢詐欺のババア共は絶対に許さん!』


「くだらんことをやってないで、始めるぞ?新也も残りは後で食べろ」


「ああ、うん。そうするよ」


「水よ。飲みなさい」


「ありがとう、夕霧」


お腹が風船のように膨らんだ新也は夕霧からもらった水(96%)を流し込んで胃を休ませた。そして、エルフたちが集まると、アルフさんが話し始めた。


ゲートボールは四人一組でやるゲームだ。俺は、アルフさん、セフィさん、夕霧のグループだった。


「ふふ、よろしくね、新ちゃん、夕霧ちゃん」


「はい」


「こちらこそお願いします」


そして、俺は後ろで腕を組んで厳しそうな表情をしているアルフさんを見た。


「アルフさん、よろしく」


「…せいぜい足を引っ張るなよ?」


「はは、頑張るよ」


『こういうのが老害になるんだよな』

『それな。もう少し寛容になればいいのに』

『新ちゃんも困ってるじゃん』


相変わらず、お堅いじっちゃんだ。すると、


「ぶー!ズルいよアルフ!」


「何がだ?」


エルフたちが怒声を上げた。


「毎度毎度新也と同じグループになってズルいって言ってるの!」

「そうだそうだ!新也のことが大好きだからってそういうのは良くないぞ!」


「…厳正なくじの結果だ」


『コラこっちを見なさいwww』

『厳格なエルフかと思ったけど新ちゃんが大好きなのねwww』

『耳がぴくぴく動いてる』

『ごめん、誤解してたわwww』


エルフだけではなく、配信を観ているリスナーたちにも優しい瞳で見られてしまう。


「コホン、くだらないことを言っていないで、始めるぞ。異世界門球ゲートボールを」


「「「おお~」」」


『ん?今、何か変な風に聞こえんかった?』

『気のせいやろ?』


━━━


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