第5話

少し歩いたところに林がある。そこをまっすぐ進んでいくと、古墳のような形状の砂山がある。そこにオオカミや熊等の猛獣が住むような横穴がある。今回目的のダンジョンだ。


ドローンが空中をぐるぐると回ってダンジョンを見ているようだ。そして、俺の肩のところでピタッと止まると俺をジッと見た。説明を求めているようだった。俺と夕霧はダンジョンに足を踏み入れ、歩きながら話すことにした。


「今日はイノシシを獲りに行こうと思ってね。さっきポストを見たら、村のじっちゃんたちからイノシシの討伐以来が来てたんだ。最近狂暴になって村の畑を荒らしているらしいんだよね。俺も丁度、肉の在庫も切れてたしタイミングが良かったよ」


『イノシシ狩りか!wktk』

『期待してるで~』

『安全になぁ~』

『ヤバい時は逃げるんやで~』


銀髪美女:『夕霧は死んでええで~』


『かける言葉をミスってるで~』


ドローンからも声援(?)のようなものを受けた気がするのでダンジョンに潜ろうとすると、


「ねぇ、そのドローンって意志を持ってるのかしら?」


夕霧がジトっとした瞳でドローンを見ていた。


『あ、アカン…!』

『バレたら殺されるで。義妹ちゃんが』

『ああ、ヤバいな。義妹ちゃんが』


「なんでそう思うの?」


「私の勘よ。ずっと見られているような感覚がぬぐえないのよね…」


「そんな馬鹿な。こいつはお金を生み出すだけの有能な機械だよ。意志なんてあるわけないじゃないか」


「私もそうだと思うわ。ただ、都会には『緑のタヌキ型ボロット』っていう意志を持つ機械がいるらしいから、一概に間違っているとは言えないんじゃないかしら?」


「ええ…もう想像できないよ」


『緑のタヌキ型ボロットwww』

『まだ存在しないなぁwww』

『ネコ型ロボットなwww誰か教えてやれよ』

『情報の大洪水やな。何をどう間違えたらそんな名称が出てくるのか気になる』

『確かに』


ドローンを見つめると、ずっとウィーンという音が鳴っているだけだった。とても意志があるとは思えない。ただ、


「夕霧が俺に嘘とか隠し事とかしたことがないしなぁ」


「………そうね」


銀髪美女:『嘘つけぇ!さっきから嘘と隠し事しかしてねぇじゃねぇか!』


『おまいう?』

『ブーメランもビックリするほどの嘘付きやん』

『同類やで?』

『一番の被害者は新ちゃんだということにそろそろ気付いたほうがええで?』


配信で沙雪が暴れていることなど露知らず、新也は考え込んでいた。しかし、結論は変わらない。


「まぁ意志を持ってようがいまいがお金を生み出してくれることに変わりはないしね」


「そう。新也が気にしないなら私も極力気にしないようにするわ」


そう言って夕霧はドローンを気にしないようにしてくれた。本当に素晴らしい女性だ。できるだけ早く鬼族の男を引き合わせてあげたい。夕霧だって既に28歳。となれば焦っている頃合いだろう。


「ちなみに夕霧って理想の男性像ってあるの?」


「はい…?」


銀髪美女:『は?』


『やべぇ、プリンが喉につまったwww』

『面白くなってきましたwww』

『新ちゃん、本当は夕霧さんのことが…!』

『義妹ちゃん大ピーンチwww!』

『ってか早くダンジョンを攻略しろやwww』

『それなwww』


「…そうねぇ。まずは年上がいいわね」


「ふむ」


「私は人見知りだから、慣れ親しんだ人がいいわね」


「ほぉほぉ」


「後は私の料理を美味しいって言ってくれる人ね。顔は普通くらい。妹想いで、家族に優しい人。後は四文字の謎スキルを保有している人ね」


『攻めるねぇwww』

『夕霧さん、顔真っ赤やん。恋する乙女やな』

『これは流石に新ちゃんも気づいたんじゃない?』


「う~ん、そんな人いたかなぁ…」


『うん、知ってたwww』

『だろうなwww』


「…後は鈍感な人かしらね」


『おっ!これは…!』

『若干キレてるな…(笑)』


「う~ん、途中まで俺も当てはまるなぁと思ったけど、鈍感となると、全く分からなくなったなぁ。俺察しがいいからさ」


『『『は?』』』


銀髪美女:『兄さん…』


コメントと沙雪、そして、夕霧の心の声がすべて一致した瞬間だった。


「…新也は自分のことを察しがいいと思っているのかしら?」


「当たり前だよ。野菜の調子とかモンスターの弱点をつぶさに観察していたから、相手が何を考えているか分かるようになったんだ」


「…ちなみに私は今、何を考えているか分かるかしら(新也大好き♡)?」


「久しぶりのダンジョン楽しみ!だろ?」


「もういいわ…」


『夕霧さん…』

『鈍感罪の導入を検討してくれませんかね?』

『お巡りさんこちらです』

『鈍感王の称号を与えましょう』


茶番を繰り広げている間、目的地にたどり着いた。円形の闘技場のような形状をしていた。大きさは直径500メートルほどでそこそこデカい。


『広いな…』

『ダンジョン中に穴が空いてる…』

『一体ここはどこなんだ…?』


ドローンが俺の周りをぐるぐると回って催促してきた。が、俺が説明するよりも見てもらった方が早いだろう。


「「「ブルル…」」」


イノシシが穴という穴から出てくる。既に10匹ほどいるだろう。体長は1匹当たり3メートルほどで重さは800キロくらいはありそうだ。特殊な漆黒の鉱物で身体が覆われており、めっちゃ硬い。


『え?何こいつ?』

『インパクトボア…?』

『いや、インパクトボアとは色が違うし、こんなに禍々しくない…』


銀髪美女:『こいつは『メテオボアです!インパクトボアの完全上位個体でとてつもない強度とそれを生かした隕石のような突進が特徴です!なぜこんなところに…!』ワイの発言を遮るな、ドМが!』


金剛姫:『だ、だから私はドМじゃありません!』


『金剛姫来た!』

『義妹ちゃん、不敬すぎるってwww』

『それで、メテオボアってどれくらい強いの…?』


銀髪美女:『それは『Sランクのモンスターです。『金色の園』のメンバーが全員揃ってやっと一体倒せるぐらいの強さなのです!』だから、ワイの発言を遮るな、ボケが!二度と椅子にしてやらねぇぞ!?』


銀髪美女:『あっ、やっぱ今の発言なし』


『アウトだよwwwタコwww』

『妄想の中で好き放題しすぎやろwww』

『あの気高く美しい金剛姫がドМなわけがないだろうが。一体どんな夢を見てんねん!』


「さて、恨みはないけど、倒させてもらうよ」


スチャっと草薙の剣を構える。


『草薙の剣www』

『新聞紙ソードでどう戦うねんwww』

『叩いたらすぐ壊れそうやん』


「ブオ!」


メテオボアが突っ込んでくる。俺と夕霧は散開して横に回避する。そして、メテオボアは失速することなく、ダンジョンに突っ込んで壁に巨大なクレーターが発生した。


『うえええ!?なんじゃこの威力!?』

『これがSランクモンスターか…』

『これはアカンって。新ちゃん、夕霧さん、逃げるんや』


金剛姫:『ここに書いてある通りです!すぐに退避してください!』


新也に退避を求む声が増えた。当然新也が気づくことはないし、焦りなどあるはずもなかった。


「さて、どうやって倒そうかな」


一匹ずつ倒していくのが定跡だし、それで行こうかな。俺は草薙の剣を構えた。すると、


「キャッ!?」

「え?」


夕霧が転んでしまった。イノシシの視線が俺ではなく、夕霧の方を向いていた。


「夕霧!?」


俺は慌てて夕霧の方にかけつけた。


銀髪美女:『あの、女まさか…!?』


━━━


━━



「ブホ!」

「ブオ!」


次々に突進してくるイノシシを新也と一緒に軽く躱す。単調故に目を瞑ってでも避けられる。


はぁイノシシって単調すぎて、正直つまらないわ。私が毒をたらしたらすぐに死んでしまうもの。ただ、それでは新也とのデッド(〇:デート)が一瞬で終わってしまう。というかこれは新也に甘えるチャンスなのではないかしら?


ここまでの夕霧の思考は0.0001秒。


となれば丁度良い石があるし、あのあたりで転びましょう。


「キャッ!?」

「え?」


私が転ぶと新也が後ろを振り返った。そして、


「夕霧!?」


ふふ、計画通り。私が倒れることによって優しい新也が助けに来てくれた。


「大丈夫か!?」

「ええ、でも、ちょっと足を痛めてしまって…」

「あ、血が…!」


リアリティを出すためにわざと足から血を出す。当然、地面にぶつかった程度で私の皮膚には傷一つつかないのだが、転ぶ直前にスキル『調理』を発動した。自分の手を包丁に見立て、皮膚のみを調理することによってダイヤモンド顔負けの皮膚に傷をつけたこの間(0.001秒)。


新也の表情を見ると、騙す、じゃなくて、心配してもらうことに成功したようだ。


「ごめんなさい、新也…怪我をしてしまって、運んでもらってもいいかしら…?」


━━━


━━



「やりやがったあの女…!」


私は病室でぶるぶると震えながら、夕霧を見ていた。夕霧は十中八九、わざと転んでいた。もちろん、私以外の凡夫では気付くことはできないだろう。


美女式奥義:『ヒール崩れのナイアガラ』


あえて底の壊れかけたヒールをはくことによってデート中に兄さんの胸板に合法的に甘えることができるという48ある奥義の一つだ。しかし、下手な倒れ方をすると、嘘だとバレるので相当な演技力を必要とする。夕霧が行ったのは完全な再現ではないが、私の思考と同じだろう。


そして、夕霧が使った美女式奥義はそれだけではない。


美女式奥義:『鮮血のキラウエア』


ただ、転んだだけでは男性側もおんぶをしようなどとは思わないだろう。しかし、怪我をしていたらどうだろうか?わざと適量の血を流すことによって男の同情を誘うというものだ。しかも膝関節は血がでる頻度が最も高く、止まりづらいので、男は重傷だと勝手に勘違いしてくれるのだ。実際には大した痛みはないのだが。


とにかく夕霧は兄さに甘えるために二つの美女式奥義を使ったのだ。


「おのれ、夕霧ぃ…」


病院のベッドはぎしぎしと音を立てた。


━━━


━━



夕霧がそんな策を考えているとは全く想像もしていない新也は


「そっか」


「ええ、だから「だったら、殺そう」え?」


『は?』


銀髪美女:『え?』


金剛姫:『え?』


再び、すべての言葉が重なると、新也が居合の姿勢をとる。その間にメテオボアがすべて突っ込んできた。


「新也、何を…?」


「顔を上げないで。伏せてて」


「は、はい」


あまりに真剣な表情の新也を見て、夕霧は赤くなった。そして、


「『断空』」


横薙ぎに一閃。自分を中心に円状に回転する居合。すると、


「ブ…ホ?」


メテオボア十匹、いや、それどころかダンジョンすら横に一刀両断された。


「あ~あ、まだまだ修行不足だなぁ。せっかくもらった『草薙の剣』が粉々だよ」


手に持っていた『草薙の剣』が粉々に崩れた。それもそのはず。本当にタダの紙で作られた新聞紙ソードなのだから。


『なんじゃそれええええ!?』

『新ちゃん最強!』

『かっけええええええ!』

『ブラボ―――!』


金剛姫:『い、一体なんなのですか?あの人は…メテオボアを一撃なんて…』


シーンと鎮まっていたコメントは一気に湧き上がる。


銀髪美女:『見たか世界!これが世界最強ワイの兄さんや!慄け!跪け!魅了されろwwww』


『ブヒいいぃ!』

『やばすぎ新ちゃん!』

『これはヤバいわ!』

『惚れてまうわ!』


銀髪美女:『惚れるな。殺すぞ?』


『どっちやねん…』


「新也、今のは…?」


「ああ、今のは『草薙の剣』に込められたスキル、『身体強化』を応用して、使った技だよ」


ドローンもふよふよと寄ってきた。また説明しろと言われているような気分になった。


「この草薙の剣を作ってくれた人がね、武器に力を付与することができるんだ。俺はそれを起動して討っただけだよ」


『ほぅほぅ』

『武器に力を付与?身体強化を付与したってこと?』


金剛姫:『あの、普通に考えて可笑しいです。付与スキルはハズレスキルなんです。二つ以上のスキルを持っていないと付与も何もないんです』


『そうか。ないものを付与なんてできるわけないですもんね』


金剛姫:『はい。なのでその人は『付与』の他に『身体強化』のスキルを持っているということになります。二つ以上のスキルを持つ人なんて聞いたことがありません…』


銀髪美女:『ワイは分かったで。というか色々繋がってきたわ』


金剛姫:『え!?本当ですか?教えてくださいませんか?』


銀髪美女:『自分の頭で考えろ、ドМ』


銀髪美女:『あっ、やっぱなしや』


『もおおおwwww』

『わざとだろ?わざとだよなwww』


沙雪たちが争っているとき、新也はそれどころじゃなかった。


「はぁ、でも憂鬱だなぁ。武器を折ると毎回怒られるんだけど、それを報告しないと怒られるし…もっと強くならないとなぁ。使い手が強くなれば武器は壊れないらしいし…」


『いやいや、今のままでも十分だよwww』

『それなwww』

『他の冒険者が泣くからやめてあげて』


新也の強すぎる力を眼にして放心していた夕霧は当初の計画を思い出した。


「新也、その、怪我をしたからおんぶかしてほしいのだけれど」


両手をいっぱいに広げて、新也におねだりをする。


銀髪美女:『ざけんな!まだ狙ってやがったんかい!』


『まさに狩人www』

『油断も隙もないのぉ』

『頑張れ!』

『新ちゃんかわれえええええ!』


夕霧としては自分を意識してほしい、好意に気付いて欲しいと思っているがそれはそれ。好きな人からのおんぶかお姫様抱っこは夢なのだ。が、


「た、大変だぁ。異空間箱アイテムボックス!」


新也は自分の異空間箱アイテムボックスを発動し、何かを取り出して、夕霧の足に当てた。


「治癒草だよ。これが便利でね。傷口に当てれば、一瞬で治るんだ」


ドローンに解説をしながら夕霧の足から、治癒草を外す。すると、夕霧の傷跡はきれいさっぱりなくなっていた。


「これで歩けるな!」


「………ええ」


『間wwwwwwwww』

『もぉうwwww』

『マジで鈍感罪を成立させないと新ちゃんの被害者がめっちゃ出るぞ!?』


金剛姫:『あ、あの治癒草はAランクの高級素材なのですが…』


『諦めてください。それが新ちゃんです』

『そうです。真に受けたら、疲れちゃいますよ?』


銀髪美女:『ざまぁwww兄さんをそんじょそこらの雑魚と一緒にしたらアカンでwww?」


『この義妹はwww』

『義妹ちゃんも同じ目に遭う可能性があるんじゃ…』

『それな。いつか義妹ちゃんが配信に映ることを期待してるわ』


俺はボロボロになった草薙の剣を見ながら、ため息が止まらない。


「はぁ、それじゃあ後で武器を作り直してもらってこようか。あっ、その前に村のみんなでゲートボールをする約束をしてんたんだった」


「はぁ、新也も好きね」


「仕方ないじゃん。俺が行かないとじっちゃん、ばっちゃんたちが悲しむんだから」


「それもそうね。私も付いていくわ」


『おっ、ついに村人対面か!』

『wktk!』

『まぁでも、ゲートボールやしな。一回落ちるかも』

『ワイも』


この村では常識が通じないということを後に知ることになる。


━━━


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