山口沙雪side2
私がなぜ突発性ブラコン症候群(仮病)で入院しているか。それは私の横で鼻息を荒くしているハゲ医者に関係している。
「ご、ご主人さま。もっと蔑んでくだされ…」
「黙れ豚。お前が今も生きてられるのは私と兄さんの温情だということをゆめゆめわすれるなよ?」
「ぶ、ぶひぃ…」
この医者は私の病名を偽り、兄さんから金をふんだくる藪医者だったのだ。
それに気が付いたのは私が入院してから8年近く経った時だった。
8年間私の身体は元気だった。もちろん兄さんが来た時は甘えたくて根性で熱を出したり、弱ったりする。だけど、それだけだった。
それ以外に特に異常はない。健常者と同じだった。そこでカマをかけた。すると、驚くべきことがわかった。
それは私がスキル『魅了』を発動していることだった。魅了とは同族の老若男女問わず、私に夢中してしまうというものだ。この医者は私に魅了されていたわけだ。つまり手元に私を置いておきたくてテキトーな病名を付けていたのだ。
もちろん当時の私はそんなことは分からないからもっと分かりやすく説明しろと命令した。そうすると、私に関することと魅了についてぺらぺら喋る。
魅了されるというのは私に逆らえないということだった。当然私は幼心にブチ切れた。今度兄さんが来た時に真実を話して今までの医療費を返させようと思った(訴えようとしなかったのはまだ幼かったから)。
だが、私は兄さんが次のお見舞いに来た時に『病人ムーブ』をしながら、あることに気が付いてしまったのだ。
一つ、魅了は私が好きになった相手には通じないということだ。
これにはとても絶望した。私は全人類79億9999万9999人に愛されるがたった一人の兄さんには異性として見られないのだ。有象無象などどうでもいい。とにかく兄さんに愛されたい。
そして、二つ目が今も入院していて、この藪医者を生かしている理由だ。
現在、私と藪医者は互いにPCの前に座っていた。藪医者は医者の中では有名で世界的な名医と呼ばれている。しかし、有名になり過ぎたことに辟易したやつは田舎でしがない藪医者をしていたというわけだ。だが、私の兄さんを謀った罪は許せない。だから、その無駄に太い人脈を利用させてもらっている。
私は漆黒の仮面をかぶり正体を隠している。顔をバレないようにするためだ。まぁそれでも効果は微々たるものだ。私を仮面越しでも見たものは魅了される。
「ご主人様、いえ、『
ああ、後、私の別名は『
モニターにはたくさんの人間が映る。その中には世界的な名医と呼ばれる存在もいる。そいつらは全員、私に魅了された人間、いわゆる奴隷だ。
「諸君、お忙しい中、お集まりいただき感謝する。
大きな盛り上がりを見せる。そりゃあそうだ。好きな相手を喜ばせたいと思うのは普通の感情だろう。私からしたら、全く知らない赤の他人だから気持ち悪いったらありゃしない。
「brjóst」「seno!」「meme!」
ふむ。何を言っているか全く分からない。まぁそりゃあそうだ。世界中から何人だか分からない人間たちも集めている。だが、話しているのは私のことだ。とりあえず分からんから隣にいる藪医者を見ると、あまり良い情報が入ってこないらしい。
暇だし、魅了について、もう一つだけ加えておこう。兄さん以外の全人類を魅了できるのだが、そのために私の身体は成長するにつれて変化した。
日本人離れした髪色や瞳、スタイルといったものだ。例えば、脚フェチの人間がいたら、私の足に魅了され、声フェチの人間は私の声に魅了される。いわば私は全人類が思い描く、最高の美女なのだ。あらゆるフェチズムに対応しているといっていい。
だが、一つ致命的な欠点があった。それは全人類の望む姿、つまりは民主主義で私の身体が決まってしまうということだ。今、世界の人口は80億人だが、女子人口が50億人。男が30億人ほどなのだ。
ここまで男子が少ないのはダンジョンが出現した時に兵役で戦いに出向いたことが原因とされている。で、何が問題かというと、民主主義的に私の身体が決まるということは女が理想とする美女になりやすいということだ。分かりやすくいうと、細身の枯れた枝みたいなボディ。つまり、
「おっぱいがねぇのよ…」
「
「いや、なんでもない」
いや、まじね。藪医者の嘘が発覚した後、私は兄さんに真実を話すつもりだったんよ。だけど、私は兄さんが巨乳(推定Gカップ)の看護婦を見て、鼻の下を伸ばしているのを見てしまったのだ。
退院してから一緒に暮らせば兄さんも私にメロメロになるだろうと思っていたんよ(当時15歳)。だけど、それを見て知ってしまったのだ。
兄さんは巨乳好きだということを。
私は雷を受けたようなショックを受けた。おっぱいの大きさは15歳で決まるというし、私の身体は世界中の人間に受けるように変わってしまっている。つまり(Bよりの)Aカップから大きくなることがないのだ。これでは兄さんに一生好かれることがない。それを悟った私は突発性ブラコン症候群で今の今まで入院している。
すなわち、私が入院している主な理由はこの藪医者のネットワークを利用し世界中の叡智を集めて
そして、おっぱいが大きくなったら、『感動の退院&結婚end』を迎える。兄さんからもらった医療費は当然貯金してあるので、パルテノン神殿を買って、最期は仲良く一緒にピラミッドに埋葬されるのが目標だ。
だが、そんな私はもう崖っぷちだ。兄さんは30歳で私も22歳だ。つまり、年齢的に色々不味い。子供は男女11人ずつ欲しいので早くしないとヤバいのだ。
「
白熱していた医者たちは藪医者の声で黙った。議論と研究を深めてもらうために、私は最終兵器を投入することにした。
「皆さ~ん!私のためにありがとう!大好きだよ♡ちゅっ♡」
猫撫で声と脳に響くような甘ったるい声で全力で媚びる。そして、投げキッスも忘れない。
『美女式奥義:
兄さんを堕とすために開発した四十八ある奥義の一つだ。兄さん以外に使うのは出血大サービスだが、背に腹は代えられない。
「「「「うおおおお!」」」」
血反吐を吐いたおかげで効果は抜群のようだ。
画面の向こうで、偉そうな奴隷たちがせわしなく動いているのを見ると、やった甲斐はあったようだ。会議はうまくいったようだし、後は研究成果を待つだけだ。
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「兄さんはどうしてるのかなぁ♪」
会議が終わると、私は自分の病室にスキップで戻る。大事だけどクッソつまらない会議で疲れた私は兄さんエナジーを摂取したい。前までは一週間に一回の面会しかなかったのだから、贅沢なものだ。
スマホを起動すると、大量の通知が溢れていた。ポイズンプレードサンドワームを相手に無双した最強のおっさんと賞賛されていたり、私に解説を求むというような声も散見した。後、配信を観ている人数が百人を超えていた。流石兄さん。ただ、
『修羅場か?』
『このおっさんの人脈はどうなってるん!?』
『義妹ちゃん、今の心境を!』
首を掲げる。とりあえず私が退室してからの流れを倍速で追って行こう。等倍で観たいけど、そうなると、兄さんの最新を追えなくなり、コメントにマウントを取られることになる。兄さん関連でマウントを取られるわけにはいかんからね。
「ふむ。ポイズンプレードサンドワームは五十匹倒したわけね」
兄さんがポイズンプレードサンドワーム相手に負けるわけがないが万が一がある。修羅場というのはそういうわけではなかったようで一安心だ。
掲示板を開くと、そっちもだいぶ修羅場だとか色々言っている。とりあえずさらに倍速にする。普通の人間なら兄さんが何を言っているか分からないと思うが、私の突発性ブラコン症候群は兄さんとどんな風になっても意思疎通が可能にする(一方的に)。
「ん?美女?」
兄さんの周りに私以外の美女なんていただろうか?だが、徐々にコメントが増えてくる。もう少しで兄さんのリアルタイムに追いつける。
「ッ!?これは…!」
最新に追いつくと、そこには美女にご飯を食べさせてもらっている兄さんの姿があった。
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