第四話 阿弥陀様という概念
そう、
浄土真宗は鎌倉時代初期、法然の弟子親鸞さまが設立した、わりと新しい仏教で、他力本願、南無阿弥陀仏と唱えれば悪人だって極楽往生間違い無しの、ありがたい宗派だ。
なお、真宗の一派は一向宗と呼ばれ、戦国時代には織田信長を大いにくるしめた本願寺勢として大活躍した。
そんな素晴らしい宗派を両親が信心しているのを、危うい所で僕は思い出したのだった。
僕が阿弥陀様を信仰してると言っても、まあ、法事にお坊さんのお経聞いて、両足を痺れさせて困る程度なんだけど。
信仰の厚い義人に不幸をばらまいたりするような西洋の神様よりは百倍ましである。
僕は突然回心し、阿弥陀に帰依し、一心不乱に心の中で南無阿弥陀仏を唱えたのであった。
「なんだよー、異教徒なのかー」
「じゃあ、賭けにはならないわね~。吉田君のご両親をぶっ殺そうと思ったのに~」
ぶっそうな事言うな。常識のない悪魔っ子め。
「ああ、そうだ」
「なになに~?」
「こいつら犬にも劣る異教徒なんだからさ。絶滅させちゃおう」
「ああ、それいいかも~」
クラス全員の顔色が真っ白に変化した。
「ふざけんなてめえらっ!! 神を信じる奴らだけがエライのかよっ!!」
「神を信じるのは、人間の義務だよ?」
ガルガリンが、不思議そうな顔で僕を見た。
「神様信じてない人はだめだよう~」
「なんで、レビィは悪魔の癖に神様の肩もつんだよ、異教徒は味方だろっ!」
「えー、ちがうよう、悪魔の本当の仕事は、神への信仰が厚い人を堕落させる事なんだよー。異教徒はまあ、居てもいいかなってくらい」
「天使は異教徒を許さないっ!! 殲滅だっ!!」
ガルガリンの車輪が回転数を上げ、唸りを上げた。
まずい、まずい、天使様に日本国民が殲滅されちゃうっ!
「人間界の32.9%がキリスト教徒。19.9%がイスラム教徒。13.3%がヒンズー教徒。儒教・道教・中国民間信仰が6.4%。仏教は5.9%ですよ。キリスト教系とイスラム系を合わせても53%、異教徒を殲滅すると、世界の人口が半分になりますよ」
芳城がナイスつっこみをしてくれた。
「そ、そんなに神を信仰していない異教徒が居るのかっ!」
ガルガリンが天を仰ぎ、遠い目をして言った。
「キリスト教とイスラム教は混ぜていいのか?」
「ええ、一応根っこが同じ宗教で、信仰してる神様一緒だし、旧約聖書も読むのよ」
アラー様とエホバ様は同一人物だったのか!
あと、仏教は結構マイナーな宗教なんだなあ。
「あ、良いこと思いつきました~」
レビアタンが手をぱたぱた打ち合わせて嬉しそうに言った。
「異教徒なのはしょうがないので、吉田君が、私とガルガちゃんのどっちが好きかで決めるの」
「それは……、簡単でいいや。勝手に人間を殲滅するとラファエル教官が怒りそうだし」
なんだそれは……。
「女性として……ですか?」
芳城が確認した。
「うん、ガルガちゃんと私と、どっちが女性として好きかで決めるの」
「ふん、女性としても、このガルガリンの美しさ、心根の綺麗さで、勝負は解っているさ」
「えー、吉田くんは、私の事好きだよ。さっきキスしたいとか言ったし」
なんだか、クラス中の白い目が僕に集中している。
天使と悪魔はニマニマしながら、僕の前で立っていた。
僕はなんだかすごくゲンナリした気分で肩を落とした。
僕はすたすたと歩き、車輪の上のガルガリンの手を掴んで引っぱり下ろした。
「うっ」
「僕はガルガリンが好きだ!」
うおおおと、クラス中が動揺し、ガルガリンの頬がぱあっと赤くなり、レビアタンの目が泣きそうに潤んだ。
「や、やっぱりね、う、うれしくなんかないぞ、ほんとに……」
僕はすたすたと、レビアタンの前へ歩いていき、なんかラブリーな爪がついた手を取った。
「僕はレビアタンが好きだ!」
ふにゃっとレビアタンの顔がほころび、満面の笑顔になって、赤面した。
「うわわー、うれしい……。って、どっちがどうすきなの~~!」
「どっちも好きだ、以上!」
「どっちか一人だっ!!」
「この、浮気者~~!」
ガルガリンに胸ぐらをつかまれ、レビアタンが僕の腕を引っぱった。
「そんなものは、僕は決めないっ!!」
わあわあ揉めているとチャイムがなって、五時間目の品川先生がやってきて、騒ぎはお開きとなった。
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