第14話 えらいひと
あたしにだって臆病になる瞬間くらいある。
生前、決して正しい行いだけをしてきたわけじゃないことは、あたしが誰より理解しているのだ。だから閻魔様の審判を受けて、行き着く先が地獄だろうと、文句は言えない。
だがいくつか見た地獄絵は、どれも赤黒い印象の凄惨なもので、いくら怖いもの知らずと言われていたあたしでも、嫌だな、怖いな、と思っても仕方がないと思う。
「ああ……憂鬱」
思わず零れた言葉に、前にいた隊長が振り返り、横にいた副隊長からも、揃って睨まれたが、特になにも言われなかった。どうやらふたりは、あたしについて話し始めてしまうと長引くということを自覚したらしい。
これ以上ふたりを刺激しないように、あたしは静かにため息を吐いた。
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辿り着いた最上階の最奥にある扉は、生前はもとより、ここに来てからも見たことがないほど豪華なものだった。あたし一人ではとても開けられないほど大きく頑丈そうでありながら、扉全体に彫り込まれた彫刻の緻密さや美しさ、埋め込まれている宝玉の色も数も輝きも尋常ではない。扉自体の材質は木のようだが、これほどの大木を使えるだけでもすごいことだ。
唾を飲み込んだあたしの目の前で、その扉が開いた。思わず目を瞑ってしまったのは、その先にある(かもしれない)地獄絵図を想像してしまったからだ。
「――何をしているんだい。早く入りな」
扉の前で立ち止まっていたあたしに、しわがれた声が掛かった。想像とは異なるその声に、思わず目を開けたあたしは、大きな机の奥に座る小柄な老婆の姿に目を丸くした。
「え、ばばあ?」
バシンッとあたしの頭をはたいたのは、横からの手だ。
「あいてっ!」
続いて、その手があたしの頭をぐいっと下げさせた。
「大変失礼いたしました、ミナーモゼ様。こちらがお話した例の娘です」
「礼儀知らずで、本当に申し訳ありません」
副隊長に続き、隊長までもが頭を下げて謝罪している。とにかく二人よりえらい人であることは間違いないようだ。
「ああ、聞いていたとおり、活きのいい娘のようだね。構わないから、入っておいで」
「「はっ」」
副隊長の手に促され、というか押されて、あたしはその老婆のいる机の前に立った。
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