2話 作戦会議

 ボロ・ラヴァットが部屋に入るともうすでに多くの人が集まっていた、

 周りを見渡すと部下であるアメリア・レイン少尉が手招きしているのを見つけた。


「開始時間ギリギリですよ、何をされていたんですか。」


 不機嫌そうな顔をしながらボロに質問をする。真面目な彼女としては作戦会議開始寸前に集まるのは解せないものであった。

 確かに、ボロ以外の隊員たちは皆先に集まり背筋を伸ばし会議の開始を待っている。


「どうも脚の調子が悪くてね。」


 それだけ返答し、ボロも静かに会議が始まるのを待つことにした。

 ほどなくして隊長であるウィルドマン中将が入ってきた。


「いやぁみんな早いね、全員揃っているみたいだし始めようか。」


 その言葉を合図に隊員たちはより姿勢を整える。


 ウィルドマン中尉は物腰の柔らかな人ではあるが、がっしりとした体と目の鋭さからは死線をくぐり抜けてきた中尉として、隊長としての風格が感じられる。

 ごほんと咳ばらいを一つしてウィルドマンは声を張り上げる。


「これではただいまより第4次制圧作戦及びそれに伴う我々の今後の動きについて、作戦会議を始める!」


[はっ!!!]


 全隊員が声を上げる。

 作戦会議においてここまでのやる気を見せるのは ボロの所属するヴァニル国軍戦線部隊兵装機動隊だけである。

 ウィルドマンの方針で最初だけでも元気にという理由からこのようになっている。


 にしたって気合を入れすぎだろうに、そう思っているうちに各部隊から情報共有が始まる。


「まず先日の敵国との交戦の成果ですが敵部隊1つの壊滅と拠点の制圧、奪取に成功しています。現在も索敵部隊が複数人駐在し敵国の動きを探っており、現在時点において作戦は計画通りに進んでいます」


「索敵部隊から情報を伝達いたします。駐在中の隊員より、いまだ敵軍の動きはなし今作戦の目的であるロボス砦の周辺には滞空兵器が複数、兵士の姿は見えず砦内に潜んでいるものと思われます。」


 ここまでの情報では作戦は順調であり、当初の予想通り籠城した敵を袋叩きにすることができる。

 しかしボロは1つの疑問と可能性を考えていた。


「さぁここで皆に質問だ、君たちはこの現状をどのように考える?」


 ウィルドマンは悪そうな笑みを浮かべながら隊員たちに質問を投げかける。


 騒々しくなる中で

「罠という可能性はないでしょうか」という声がどこから聞こえた。

 それにウィルドマンは頷く。


「確かにその可能性は捨てがたい現状我々にとって都合の良いように進んでいる、しかしイレギュラーが起こる可能性も高くはないのもこれまでの作戦でわかっている。」


 隊員たちは皆顔をしかめて困った表情をする、  

 静かになる中でウィルドマンは言葉を続ける。


「とはいえ今作戦ではもうイレギュラーが起きている。」


 それを聞いて場はより混乱した空気となる。

 その状況を眺めながらウィルドマンはボロへ視線を向ける。


「ボロ中尉、お前は今何を考えている?」


 途端に皆の視線が一気にボロに集まる、多くの期待と混乱の視線を向けられて少し物怖じをしたが視線に応えるためにも先ほどから抱いていた疑問を口に出す。


「なぜエーシルの奴らは戦争と関係がなくそして戦地からも少し外れた場所にいた民間人を狙ったのか、そしてなぜ砦の外を守ろうとしないのか。」


 その答えにウィルドマンは満足そうに笑みを浮かべる。


「そうだ、先の戦闘において奴らは民間人を襲撃した。これは戦争としてのルールからまず違反している。

 もちろん国として周辺国から非難される可能性もあった、それなのになぜルール違反をする必要があったのか…ボロその答えを教えてくれ。」


「兵装の実力を知るため…」


「我々はヴァニルの軍の中でも兵装持ちの多い部隊

 だなにより第一世代の兵装持ちがいる。」


 皆の視線が再びボロに集まる。


「我らにとって奴らの言う遺物がそうであるよう

に、奴らにとっても第一世代の兵装はよくわかっていないんだろう。」


 話を聞いていた隊の面々は皆納得したような表情をする反面、空気が張り詰め始めた。


「ここからがこの会議で最も大事なことであるのだ

が、ここで我が隊に新しく加わる仲間を紹介しようと思う、情報局技術部から来たムラキだ。」


 そう言われると同時にウィルドマンの隣に一人の少年が立つ。


「ご紹介に預かりました、ムラキといいます。以前 は中央支部で兵装の開発や整備、それと遺物の研究をしていました。よろしくお願いします。」


「ムラキは今後、この隊の技術者として兵装の整備、研究をしてもらう。そして今回の戦場と砦のエネルギー波をムラキには測定してもらった。」


 後を頼むと言われてムラキは持っていた電子機器を操作し会議室の壁に画像を投影する。


「これは以前、南地区での戦闘時に観測されたエネルギー波です。」


 そこにはヴァニルの部隊から発せられているであろうエネルギー波とともに、それとは別のエネルギー波が記録されていた。


「これは南地区でヴァニルの部隊が壊滅させられた時に記録されたデータです。」


 南地区での壊滅の話はボロの耳にも入っていた、 半年前、南支部で起こったエーシル国軍の襲撃と戦闘、そこではたった3人のパラディンと呼ばれる遺物使いによって部隊が壊滅させられたというにわかに信じられない出来事だったはずだ。


「そしてこれが今回砦周辺のエネルギー波を記録したものです。」


 もう一つ画像が投影される、二つ並んだ画像には全く同じエネルギー波が記録されていた。


「先ほどボロ中尉のおっしゃっていた、なぜ砦周辺の守りが薄いのかということの答えです。     

 現在ロボス砦には遺物使いパラディンがいる可能性があります。」


 場の空気が凍り付いたのを感じた。       

 パラディン…いまだに多くのことがわからないエーシル国の主戦力ともいえる者たち、

 唯一わかるのはたった一人で並外れた強さを持つことだけである。

 それを見ていたウィルドマンは、フンと鼻を鳴らして口を開いた。


「俺たちは今から未知数の戦力との交戦を余儀なくされる、そのため戦闘部隊の配置、メンバーを組み替える。そして万が一パラディンと遭遇した場合は逃げていい、大事なのはお前たちの命だ。

 それを踏まえて今作戦の戦闘部隊の指揮官に

アメリア・レイン少尉、オペレーターにムラキを任命する。」


 指名を受けてアメリアは目を丸くしていた。普通指揮官という立場に突発的に人を置くことはまずしない、しかしアメリアが選ばれたのはこれまでの勤勉な働きと功績の結果であろう。隊員たちからも不満の声は漏れ出ない


 頼めるか そう聞かれたアメリアは凛々しく返事を返した。


「そして戦闘部隊の部隊長には、ボロ・ラヴァットを任命する。」


 ウィルドマンからの言葉をボロは静かに受け止める。


 その後各部隊の編成、配置がそれぞれ決められていった。


「以上で作戦会議を終了する、何よりも先に仲間と自分の命を優先しろ終わったらいつも通り宴をする!皆の健闘を祈る。」


[はっ!!]


 活気のある返事が部屋に溢れかえった。








 
















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