第四次制圧作戦
1話 祝福と邂逅
昨日と同じ晴天がいつもより輝いて見えた。
「今日はあの古傷野郎は来ないのか?」
となりにいた神父にそんな言葉をかけられた、神父とは言っても昔からの知り合いのおじさんだけど
「多分ね、あいつは忙しいから」
「そうかそれは残念だな、あいつはお前たちの中で一番悪ガキだったが一番お前たちのことを思っていたからな。まあ今日はしっかりしろよ新郎さん」
上に視線を向けると聖堂の中がいつもより広く明るくそして何もないほど白く見えた。
AM9:56 第四次制圧作戦 開始
「結婚式、行かなくてよかったんですか?」
周辺から乾ききった音があふれる中で落ち着いた静かな声が耳をついばむ
「なんだ作戦中だぞ」
「中尉の部屋に結婚式の招待状と新郎と新婦らしき人の写真があったもので、ここら辺の近くなんでしょ、危険だし万一のための保険ってことで行ったらどうですか?」
また勝手に部屋に入ったのか、掃除をしてくれるだけまだマシだと思おうか
「あれは俺の昔の知り合いだ、結婚式なんてものにうつつを抜かしている場合じゃない。作戦中だ、集中しろ少尉」
「それにしては、よく手の古傷を見ては悲しそうな顔しますよね」
持っていた金属の振動が止まる
「それは関係のないこと、
『ザー、作戦中の隊員に通達する前方11時の方向上空に敵国の滞空兵器あり。また周辺に民間人あり注意せよ』
「中尉‼攻撃来ます‼」
土と鉄のにおい、そして煙が溢れる、周囲が見えない中で撃鉄の不協和音が奏でられる
かすかに見えた青い空を一つの黒い筋が一文字を刻んでいった
あの方向にはどの隊もいないはずだが…
周囲に民間人あり
「少尉、ここは任せてもいいか」
「えぇ、でもどうして」
『指揮官、民間人の救助に向かいます、義足の使用の許可を』
『許可しよう、ただし無理はするな。それと今日の晩酌は付き合えよ』
『ええ、もちろん』
少しだけ緊張の空気の中きれいな音楽とともに正面の扉が開かれる。
戦争中だというのにここまでしてくれる皆に感謝しかない、そして開かれた扉から純白のドレスに身を包んだレオナが姿をあらわすその背景には黒い煙が舞い踊っていた
幸せな音楽と空間を一つの音が切り裂く
今僕は何をしている?聖堂の中であいつのことを話して、そしてレオナが歩いてきて、
レオナ…?
「レオナ‼」
目を開けるとそこは聖堂じゃなかった、いや聖堂ではあったがさっきの白さはなく汚れた空間が広がっていた、壁は崩れ、椅子はただの木屑と化し、ただの瓦礫の山だけがそこにはあった
「目が覚めたか、悪いが俺はお望みの相手ではない、」
目の前に軍服を着た男が立っていた煙で顔がよく見えないただその脚だけが異様に怪しく光っていた、義足、だろうか
「気絶していたのは数分ほどだ、安心しろ大きな怪我はない」
「みんなは!レオナは!白いドレスを着た女性がいたはずだ!」
周囲を見ても僕以外に人はいない
「安心しろ新婦は無事だ他の人もお前が寝ている間に救護した」
「そうか、よかった」
「残りはお前だけだ、あとは頼んだぞ」
そこで後ろに隊員がいることに気づいた、僕は隊員に肩を担がれながら、去ろうとしている義足の隊員の手に傷があることに気づいた、新しいものではない古傷、そして幼いころ何度も見た傷によく似ていた
「ボロ…?」
義足の隊員は一瞬だけ動きを止めた
「人違いだ、そしてすまなかった大事な日だったのだろう」
振り返ることなくそう告げた男は瞬きをした次の瞬間にはもういなくなっていた、軍では人の体の機能を強化する兵装があると聞いたことがある。あの脚もその1つなのだろうか
「ボロ…なのか」
僕は隊員に肩を担がれながら救護者のいるテントに向かった、レオナやほかの人もそこにいてみんな命に別状はないという。とりあえずいまはみんなが生きていたことを喜ぼう
「唐突な兵装の許可ありがとうございます」
「いやいや、それのおかげで人命救助ができて、軍部は兵装のデータと実用性がわかって、国は敵国が民間人を攻撃したっていうことを責められてみんなウィンウィンでしょ」
いつも通り軽薄な上司だ、出会ったときからそうだが深く関わるようになってから余計に軽くなった気がするそれに今日は一段とニヤニヤしていた
「それに、大事な幼馴染を救えてよかったじゃないかボロ中尉」
「呑みに付き合うつもりで来たんですけど、茶化すだけなら帰りますよ。」
「おいおい、やめてくれよ久しぶりに誰かと飲むんだこのためにいい酒も用意したのに」
「なら一杯だけ」
「よおしそこに座り給え、まってな!今持ってくる!!」
…そんな走らんでもよかろうに、
俺たちの国、ヴァニル国と隣国エーシル国が戦争を始めて早5年、兵装と呼ばれる新兵器の登場により争いはより激しさを増し熾烈を極めている。この戦争を終わらすためのカギはいったいどこにあるのだろうか。
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