第2話 髪は余り切らない方

 諜報員の映画で私は色々習った。

 あの子を追いかけるために必要な全てのことを。

 まず、信頼を得るためにはその人を知ること。

 だから、私はまずあの子を追いかけることにした。


バレないように


 後から付けるのに最適な距離は6mくらい斜め後方から。

 目線を送るのはなるべく最低限にして、伏せておく。

 目立つような服は避けて、かつ地味過ぎると私の顔に合わないから、尚更顔が目立つ。


 そんなわけで私は学校が終わった後に私服に着替えて、駅前で遊んでいた。

 あの子は部活に入っているわけではないけれど、学校で談笑をしてから帰るタイプであった。ネオ帰宅部というやつだ。

 友達がほとんどいないノーマル帰宅部である私に対してあの子は普通にいた。

 その中に入りたいかと思えば、入りたくない。

 そう。


目的はあの子だけだった


 私は学校の最寄り駅を私服でぶらぶらと駅前で遊んでいた。

 あの子と一方通行のデートをするために待っていた。


 本屋におもむいてみた。

 大型書店だから広くて、脚が疲れそうだった。

 棚が一重にも連なっている姿は圧巻だった。

 普段は漫画やライトノベルしか見ないや。

 その普段通り、新刊漁りをしに行く。今から向かおう。


何か良い品はないか?


 新刊漁りは表紙を見比べることに意義がある。

 一枚絵をずっと並べているから、少し絵画展出掛けた気分になる。

 ああ、ライトノベルもあらすじだけ読み比べ。

 今日も変わり栄えしているな。

 純朴な子女の子がポーズを決めて、格好が良い、そんな表現がベスト。

 露出で過激なのもいいけれど、やはりポージングとスタイルでキャラデザは決まる。


そんな気でいた


 続いて、ライトノベルのあらすじを見ては本を置き、そこの横の本を見ては本を置く。

 あらすじに収めた、物語というものは重みがある。

 詩文を見ているようだ。

 一つ一つの詩を読んで、余韻に浸っていた。

 やっぱり恋愛表現って、同一性を書くのには技量がいるから筆圧と筆力がいる。


ただ筆に力を入れたら壊れてしまう


 そんな表現って気分が良くなる。そう思いませんかと自問する。

 棚を右から左へ体を流して行き、一通り読み終わってしまった。

 なんだか、人の道を通り過ぎて来た作品に今日は会えた気がしなかった。

 今日のあの子の話を思い出す。

 ヘアカタログを開いて楽しくその子は友達と話をしていたっけ。


事実は小説より奇なり


 あの好きな子が開いて香りが乗った雑誌。

 あれはダメだな。人をダメにする香りだ。

 人の道を辿って私は生きているのだと実感した。

 まだまだ大丈夫。大丈夫と言っている内は大丈夫。

 そうして私の気はファッション系雑誌の方へ。向かって行った。

 キレイなお姉さんの表紙だらけ。ヘアカタログの誌面をパラパラとめくっている。

 どの表紙を見ても美人。なんだかオーラありすぎて恐い。

 RPGで言う、レベル違いの敵とエンカウントしてしまった感覚。

 容姿に自信があるのは地元レベルの話。

 世界ランカーには太刀打ちできやしない。

 そういえばあの子が見ていたソバージュ。そのページをじっと見る。カワイイ。

 キレイオーラは苦手だが、カワイイオーラは親近感わいてぐっと来る。

 ふと私も何か自分に似合う髪型がないか探した。探すに探した。

 あった。


切りっぱなしボブ




 


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異世界転生百合ヘアースタイリスト~フラれて死んでからが本当の愛を知れる~ 群青 塩湖 @enco-gunjo

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