42 現実と世界と愛され。(ヒロイン視点)
ソファーの上にあったクッションをいくら叩いても開けてもらえない扉に投げ付ける。気なんて、ちっとも晴れない。
「――――なんでこうなるのよッ!!?」
振りかぶる頭を抱え込んで叫ぶ。
「なんで! なんでよ!? ミカエル! あたしのミカエルぅ! ううっ! ミカエル、なんでよぉ!? 好きって言ったのに! キスだってしたのにぃ!!」
シナリオ通りに、待ち望んだシーンで、ミカエルに抱き締められて、我慢出来ないって、熱いキスをしたのに!
もう恋人なのにッ!!
なんで、助けてって言ったのに、見てもくれなかったの!?
どうして、庇って助けてくれないの!?
「ううっ! シナリオ通りっ! そうよ! シナリオ通りに動かない悪役令嬢が悪いのよッ!!」
パーティーで婚約破棄と断罪のクライマックスイベントを、中途半端に終わらせて、保留にまでするから!
闇魔法で暴走の大罪で、罰せられるはずだったのに!
だから、襲撃させたのにッ!!
「――――どうして、シナリオ通りをこだわるのかしら」
「ひっ!? いやあ!」
声が聞こえて反応して顔を上げたら、目の前に悪役令嬢のリガッティー・ファマスが立っていた。
驚いて、尻餅をつく。
「流石に、地下牢に直行はしなかったのね。まだ証拠は揃ってないから、妥当な扱いかしら。犯人確定されてても、貴族令嬢として手厚いもてなしでよかったわね」
部屋を見回すリガッティーは、ニコリと笑いかけた。
「なんで、アンタ……!」
「魔法よ。ここは外部への魔法はビクともしない牢のために、作られた塔の一つね。下には、鉄格子の牢屋もあるわ。そこじゃなくてよかったわね」
リガッティーが人差し指で差したのは、下。
あたしの影が、リガッティーの下にあった。
不自然に濃くて、異常に伸びている。
ど、どんな魔法なの!?
影から人が出て来れる魔法なんてあるの!?
身構えたけど、リガッティーは手を差し出す。
手を貸して立たせてくれるってこと……?
恐る恐ると手を掴もうとしたけど、すり抜けたから、ギョッとして手を引っ込めた。
今更だけど、リガッティーはほぼ白黒の姿だ。
「そう怯えなくても、ただあなたの影にさっき仕込んだ魔法を発動させて、映像を出しているだけに過ぎないから。触れることもない。話に来ただけよ」
両手を上げて、無害アピール。
さっきって……あたしを扇子でつついた時?
「この会話は聞かれてないわ。意識を飛ばして、心で念じてるみたいに話してるだけ。女同士――――いえ、
ニコッと、リガッティーは右手を自分の頬に当てて、小首を傾げるように笑った。
バッと立ち上がる。
「何よッ! 話!? ヒロインのあたしをこんな部屋に閉じ込めさせて、笑って見て楽しむために来たの!?」
「被害妄想。大罪容疑が濃厚なら、かなりマシな部屋への軟禁なのに」
「あたしが今まで泊まってた部屋は、この三倍はあった!!」
今朝までいたのは、あんなにも、いい部屋だったのに!
これじゃあ小部屋よ! ベッドとソファーが一緒に置かれてる部屋一つだけなんて! あたしの家にはないわよ!!
「部屋の苦情は、担当の者にお願いしますわ」
バカにした笑みで、そう返すリガッティーに、頭に血が上ったのを感じた。
「この悪役令嬢!!」
「あなたは悪行を重ねたので、悪行令嬢」
「おちょくってんの!?」
コロコロと笑うリガッティーは、口元に当てた手を下ろして、腕を組んだ。
あたしを嘲笑う顔をしているのは、間違いなく悪役令嬢なのに!
「あたしはヒロインなのよ! アンタが悪役令嬢!!」
「実際、悪役のやることをしたのはあなたでしょう?」
「あなたがやらないからよ!! 悪役令嬢が転生で、セコいことをしないために! 警戒してたのに!! 酷いじゃない!! あたしからヒロインの座を奪って嬉しい!? サイテーよ!! あたしのミカエルを返してよ!!」
指を差して叫んだけど、さらに頭を傾けたリガッティーは、片方の眉を上げて怪訝な顔をする。
「乙女ゲーのヒロインの座なんて奪っていないし、さらに言えばちゃんと婚約を解消したので、奪ってもいないので、返すとかも出来ないわ」
「解消をした!? なんで!?」
「あなた、言ってること支離滅裂だって自覚ある? あなたが婚約破棄を仕向けたから、オレ様王子が公言したんじゃない。その通りになっただけだし、そもそも浮気男なんて願い下げよ」
「ミカエルの何がいけないの!?」
願い下げ!?
あんなイケメンキャラを!? 意味わかんない!!
「……なるほど。
額に手を当てたリガッティーが、ボソリと何か言った気がする。
「シナリオでは、悪役令嬢が暴走してヒロインが救って、だから婚約破棄は成立するし悪役令嬢はざまぁになるし、ヒロインとヒーローは結ばれるのよ!! パーティーで大罪を犯さないから、襲撃させたのに!!」
グリグリと目頭を揉むリガッティー。
ちょっと! 聞いてる!?
「先ず。どうしてそうもゲームシナリオ通りに固執するの? 表面上だけは、ゲームシナリオ通りって……矛盾してるわ」
「悪役令嬢も転生者なら、ヒロインは配置的に不利じゃない!! 前世を思い出したのは、10歳でもうミカエルと婚約してたし! そうでなくても、子爵令嬢じゃあ元々無理だった! だったら、ゲームシナリオ通り、二年生でペアを組んでからの方が、シナリオ通りに攻略すれば、確実に恋人になれるもの!」
「んー……一理あることは認めるわ」
顎を摘まむような仕草になって、リガッティーは頷く。
「そうよ! 悪役令嬢が転生者じゃなければ上手くいくのよ! ミカエルの側近のハールクとケーヴィンとは、婚約者とも仲良しで、義弟のネテイトとは不仲で、そういう立ち位置で、嫌がらせしてきて罪だって起こすの!! そうじゃないとあたしのハッピーエンドはなくなっちゃうの!!」
頭をギュッと抱えた。
あたしのハッピーエンド!
「そのためにも、ちゃんと対策を用意しておいたのに!」
「協力者のことね。私のなりすまし。いつから用意していたの? 子爵令嬢がそんな協力者を使えるなんて……エトセト子爵様はあの様子だと関与してなさそうだし、
言うわけないでしょ!?
死にかけてたあの子を光魔法で治癒しただけで、なんでもするって忠実なしもべになってくれたし、他だってそうよ!
万が一にも、捕まったって、私のことなんて吐かないわ!!
あんな平和主義のアホな父親なんて、関わらせるだけ足手まといよ!
「ッんでよ!! 義弟のネテイトと仲いいなんて見えなかったし! ハールクもケーヴィンとも、普通だって! ミカエルだってアンタなんかに恋愛感情ない態度だったから、安心してたのに! 実は義弟と仲良かったなんて!! ネテイト狙いだったの!?」
「下種な勘繰りはやめてくださいよ。ネテイトは正真正銘、弟。家族として普通に仲がいいだけのこと」
げんなりした顔をするリガッティー。
あのツンデレショタまで嫌だって言うの!?
意味わかんない!! 誰が推しなのよ!?
「それよ! ネテイトに聞いたら、
「悪役令嬢って黒板に書いたアレでしょ?」
「そうよ! ほぼ無反応! ただのバグみたいだと思ったのに! イベントを阻止しないくせに、嫌がらせはしないって、何よ! 支離滅裂!!」
「あなたが支離滅裂なのだけど」
「アンタなんてバグよバグ!!」
キーッと叫ばずにはいられない。
「私が前世を思い出したのは、婚約破棄を言い渡された時よ? ストンッて感じに」
「いや! そうだとしてもおかしいでしょ!? 今までのバグは何!?」
自分の頭を指差すリガッティーに、バグはバグだと言ってやる。
バグって意味わかってない!? アンタは不具合なの!!
「それは単純に、魂の問題では?」
「は? 魂?」
「憑依ものだと、それまでの記憶がなかったりすることもあるし、性格は当然違うでしょう? 全く別人だから、憑依で変わる。でも転生者となると、
「は、はぁあ? 前世の自分は、悪役令嬢と違って、嫌がらせをしない人間だったからってこと?」
「ええ。乙女ゲームの舞台や人物配置もそうだけど、異世界転生の理由も神のみぞ知る、ね。でも、シナリオ通りとは違う言動になって、思い通りに動かなかったのは、そういうことだと思うのが、私の持論」
前世の自分が善人だから、嫌がらせなんてしなかった!? 何いい子ぶってんの! この悪役令嬢!!
「私が嫌がらせをしたり危害を加えるという愚かなことをしない魂を持っていたように、あなたは悪事だってやってしまう魂ってこと」
「なっ……!? あたしは悪役じゃない! アンタが悪役令嬢!!」
フッと嘲るから、事実を叫ぶ。
「
バカにしてんの!?
「実際、悪役令嬢の罪を行ったのは、あなたじゃない」
「アンタがやらないからでしょ!!」
「
また、これ見よがしに、ふぅー、と息を吐いた。
「では、表向きでも、ゲームシナリオ通りにしたのは何故?」
「だから! それがハッピーエンド確実だからよ! わかんないの!?」
「んー。そうね。あなたには、攻略対象の心を奪う方法を知っていた。だから、ゲームの設定通りの彼らの好感度を上げた。ネテイトは私と不仲という攻略点が、なかったから失敗はしたけれど」
「そう! アンタのせい!」
「然るべきタイミングで、攻略対象を射止めていく方法は、武器。ヒロインの立ち位置で転生者なら、最大の武器」
そう! 当たり前のこと!
なんで確認するのかしら!? フン!
「10歳の時には記憶を取り戻したのに、
「は? ……何? なんのこと?」
「悪役令嬢を貶める対策は保険として用意したけれど……本命がオレ様王子だったなら、
「はあ!?」
何を言い出すのよ! またバカにして!!
「そう考えたのだって、ゲームシナリオ通り、私と殿下の間に恋愛感情がなかったから。他に想い人がいるなら、身を引くわよ。ただし、王妃になるという座を譲っていい相手ならの話」
「アンタッ!!
「チート無双?」
「冒険者よ!! 『黒曜山』なんか行って、
「あ~……最強チート発揮に怒りが湧いて、それで一点に睨んでいたわけかぁ。別にそんなつもりはないのよ? 前世の知識を活かして、魔導道具について意見を言ったくらいで……元々身につけていた魔法を存分に発揮させただけのこと」
「鼻につくんだけど!?」
ぽむ、と手を叩くリガッティーは、不思議そうに言う。
無自覚天才最強チート無双ってこと!?
悪役令嬢のくせに、それで異世界転生ライフをエンジョイする気!?
「だから、積み上げた努力の発揮に過ぎないって言っているの。あなたはどうなのよ?」
「はぁあ!? 侯爵令嬢の身分で、王妃教育受けられたアンタはいいよね!? 最初から恵まれたポジションじゃない!!」
「それはそうよ。10歳の時には、
開き直り!?
「だからこそ、あなただって出来る限りだけでも最高の教育を受けて、たくさん学ぶべきでしょう? 王妃の座につくなら、努力をすべきだった。私は七年、王妃になるべく努力を積み重ねてきたのよ? そして予定だったら、今年に王太子になった婚約者と、学園を卒業後に結婚して王太子妃になるはずだったの。だから、あなたは二年で最低でも王太子妃を務められる教育を身につけなくちゃいけなかったのよ。学園で中の下だった成績を、上位に上げながら」
「はぁあああ!? 自分の優秀さと比べて優越感じてんの!?」
「実際、比べられるのよ? 王妃様は、妥協なんて許さない厳しいお方。認められるためには、血が滲む努力が必要だもの」
ケロッと言うリガッティーは、やっぱり優越感であたしを見下してるじゃない!!
なんてサイテーな女なの!?
「そうね……例えば、さっき話したストーンワームだけど、あなた、全然わかってなかったわよね?」
「はっ? 魔物でしょ? それが何よ?」
魔物も魔獣も、わんさかと沸くほどの危険な山の『黒曜山』で、出たとか言う魔物。
「あなた以外は、それが異常な出没だってわかっていたわ。王国内でワームという魔物自体が出没するのはレア。上位種であるストーンワームなんて、出没を聞いたことすらない。異常事態と言える。王都学園の魔物研究授業でも、王国内の魔物は教えてもらって、ワームのついでで聞いたはずよ」
あの魔物大好き変態教授の話なんて、まともに聞いてられないわよ!
「王妃として、無知でいていいわけないでしょ。特に、王国内のことについて。魔法についても、あなたって、あの成績だと自分の属性の魔法をちゃんと覚えてないでしょ? 実技もイマイチってことよね?」
「あたしはヒロインのジュリエットよ!? 光魔法が強ければいいのよ!」
「うーん、
「はい!?」
うっざ!! いちいち、上から目線でうざい!!
ヒロインのジュリエット・エトセトは、強い光魔法の使い手! それで十分なんだから!
「私は婚約が決まる前まで、魔法にゾッコンで寝ても覚めても魔法の勉強をしてたくらい夢中だったわ。地球からの異世界転生者なら、魔法に夢中にならない?」
「うるさいわね! 魔導道具があれば十分でしょ!?」
心底わからないみたいな顔で、首を傾げないでよ!!
仕草も発言も! 全部ムカつくわね!?
生活に必要な無属性の魔法を覚えれば、あとは便利な魔導道具で十分快適じゃない!
前世の記憶を取り戻す前に、魔法に夢中!? 意味わからない!!
「それから、社交界でどうして人脈作りをしなかったの?」
「え?」
「全然人脈作りしてなくて、パーティーに参加したのは、父親のエトセト子爵様に連れ添ったくらい? あなたと親しい令嬢がいないわよね? 聞いたのは、学園で平民の女子生徒とお喋りしてて仲が良く見えても……頼みごとばかりして、押し付けることもあるって。平民をいいように使ってるって印象」
「は? それが何よ!? 子爵令嬢の身分だもん! もっと高位な令嬢とお友達になれって!? あなたはいいわよね!? 一番身分が高いんだから!」
「それでも、努力はするべきでしょう? せめて、男爵、そして同等の子爵の令嬢。それでも、付き合い次第では伯爵令嬢と親しくもなれるし、なんだったら夫人達と親しくなっていくのも手だった。あなたに、味方はほぼゼロ」
「何よ! ミカエルもハールクもケーヴィンだって味方だった!!」
「彼らだけで、今後どうやって社交界を生き残るつもりでいたの? 王子の婚約者ってだけで、貴族女性の皆が味方になってくれるとでも? 上辺だけの付き合いで、彼女達の上に立つ王妃なんて続けられると?」
ギリギリと歯ぎしりする。
ほんっとムカつく! この女!
「子爵令嬢として可能な限りの最高の教育を受けて、出来得るだけの人脈作りをして、そして王都学園で学べるだけ学んで、成績は上位を目指すべきだった。あなた、なんでその努力をしなかったの? 王子の婚約者を得て、そして王妃になるのよ? どうして?」
どうして? どうしてですって!?
「必要ないわよ! うっざい!! 別にいいのよ! あたしはヒロイン! この世界のヒロインよ!? 愛されるヒロインなのよ!! 攻略対象者なんて、あたしを愛するキャラなのよ!? 悪役令嬢のアンタはざまぁされて、あたしはヒロインで、ハッピーエンドになるの!!」
努力、努力、努力って! 努力家ケーヴィンに言いなさいよ!!
「最推しのミカエルが王太子になって、私は婚約者になって、
それなのに! それなのにそれなのにそれなのに!!
アンタが邪魔した!! アンタが台無しにした!! これから、どうすればいいのよ!?
「はぁあ~~~!!」
低い声がため息を深く吐き出したから、思わずビクッと肩が跳ねた。
目の前のリガッティーが、酷く冷たい目をしてあたしを見てる。
雰囲気が……急に、冷たくなった……? な、何よ?
「何度言えばわかるの? 現実を見なさいってば。げ、ん、じ、つ。現実よ? ここは現実であって、王太子の婚約者とキスして終わりじゃないわよ? その先もあるのよ? え? なんでわからないの? 頭イカレてる? もしかして、あなただけは、ここで乙女ゲームのVRゲームでもしてるの? ゲーム画面見てるの?」
「は? イ、イカレてるって、な、何よっ」
身体が震えてしまう。
な、なんで……相手はただの映像なのにっ。
何よ、現実現実って! しつこい!
王太子になったミカエルとキスしてハッピーエンド!
その先も幸せ愛されライフになるの! わかってる! わかってるんだから!
「現実が見えてないあなたのせいで、どれほどの人が迷惑を被ったか、わからない? その人達も、生きているの。人生があるのよ? その攻略対象者だって、あなたが知らない人生があったし、この先もある。ハールクやケーヴィンの婚約者も、大いに迷惑をかけられて傷付いた。今後、どう修復すればいいか、私は取り持って話し合うつもり。あなたの尻拭い。そして、あなたの最推しだけど、失脚よ? 婚約破棄イベントを無事に終えても、
……は?
何を言ってるの……?
元からあたしに、ハッピーエンドがない?
なんでよ。あり得ない。
だって、だって、ゲームシナリオでは……。
「
見下す表情で、冷たく吐かれた言葉。
グラリ、と感覚が揺れて、身体がフラッとしそうになった。
「う、うそよ……嘘よ。だってここは、『聖なる乙女の学園恋愛は甘い』の世界で、あたしは転生者でッ」
「ええ、世界観が同じね。王都学園って舞台も、それに登場人物もいて、同じね。――――
うんうんと笑って頷いたら、また冷たくなって吐き捨ててきたから、またビクッと震えてしまう。
「あなたのこれからの現実は、王国の中枢を引っ掻き回して混乱を広げた罪と、王族殺害未遂の大罪で、死刑を受けるの。それでエンド」
シュッと、リガッティーが右手を振って、首を切る仕草を見せた。
指先から、冷たくなっていくのを感じる。
「ハッ! これまで、わかってないの? あなたは未来の重臣達を唆して誑かして、ひっちゃかめっちゃにして、重要人物になる貴族の令嬢子息を道連れにして、失脚したも当然なのよ。特に最推し王子が、王太子になる未来は、潰したかもねぇ?」
息を吐いて笑い飛ばすのに、忌々しそうに見てくるリガッティーに笑みなんてない。
「王国の未来を破滅に追い込んだ。これだけでも、十分大罪で、反逆罪に問われる。でもここまでなら、まだ極寒の中の修道院送りで済んだかもね? 凍え死ぬまで出られない場所だけど。あなたが追加した王族殺害未遂の大罪。証拠が揃えば、毎日懺悔させる猶予を与えたあと、斬首でデッドエンド。これが現実よ」
「ち、違う、違う違う! あ、あああたしはッ! ヒロインだもん! 愛されヒロインなの!
「ハンッ! ヒロイン!? 小細工だけして、あとはヒロインの座に、あぐらかいてただけの悪行令嬢があなたよ! 楽して幸せ愛されライフがお望み? 前世は愛されたいって思ってるだけで、自堕落に生きてきた怠惰な人間だったって、容易に想像出来るわね。アンタだけがハッピーならそれでいいわけ? こっちはみんな
ガタガタと震えてしまう自分を身体を抱き締める。
凍てつかせる目付きのリガッティーのせいだ。
一歩、近付いてきた。
ひっ!
「現実を見なさい!! アンタは、ハッピーエンドを迎えるヒロインなんかじゃない!!!」
「いやぁあああ違うッ!!!」
また一歩近付いてきたから、耳を塞いで叫んだ。
そうすれば、白に包まれた。目を閉じても、真っ白。
フッと目を開けば、淡い光が徐々に弱くなって消えた。
あたしの光魔法だ……。
白黒みたいなリガッティーの姿は、消えてる。
不自然に伸びた濃い影も、元通り。
そうか。あれは、闇魔法だったんだ……。
だから、あたしの光魔法で、消し去った……。
両手を見た。カタカタと震えている。
ギュッとそれを拳にして握り締めた。
「違う、違うもん……あたしはヒロイン……ヒロインなの。この世界のヒロイン。愛されヒロインなのよ」
あたしは大好きだった乙女ゲーム『聖なる乙女の学園恋愛は甘いの』のヒロイン。
この世界の中心のヒロインなんだから、愛されて当然なのよ。
ハッピーエンドは、あたしにあるの。
「は……ははっ……そうよ。ヒロインだもの。愛されヒロイン。ふ……ふふふっ」
あたしは、笑う。
握り締めた手を胸に押し当てるようにして、肩を震わせて笑い声を上げた。
「アハハ! あたしが愛されヒロインなんだから!! 『聖なる乙女』のヒロイン!! 闇魔法を使う悪役令嬢なんて!!」
アハハハハハッ!
「消し去ってしまえば……愛されヒロインがハッピーエンドになるのよ」
悪役令嬢にハッピーエンドなんて認めない。
ハッピーエンドは、あたしのもの。
愛されヒロインのあたしは、存在そのものが愛されヒロインなんだから!
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