03 冒険の指導者。
ルクトさんが選んだのは、薬草採取の依頼だ。
「この森にも魔物が出る。魔物と戦って、ついでに薬草採取を経験しておこう」
「わかりました」
ちゃんと依頼内容を読んで覚えておく。
指定された森の中に生えている毒消し効果のある薬草を最低10本を採取してほしいという依頼。依頼主は、個人経営らしき魔法薬の店のようだ。
冒険者から材料を得て、魔法薬を作り、商品にして売るのだろう。
ギルド職員が、依頼の物を受け取ると、依頼主に連絡が行き、あとは直接渡したり、配送手配するそうだ。
報酬金額までしっかり覚えて、下のプレートにタグを重ねた。
タグが青白く光れば、依頼板に読み込み完了の文字が浮かんだ。依頼内容の確認が済んだのなら、はいのボタンを押せと表示されたので、タッチすれば、透明な板になった。
……タッチ式の掲示板。ハイテク魔導道具。
「よく出来ました。じゃあ、タグを身につける装飾品を見てみる?」
一人でこなせたので、指導者らしく褒めてくれたルクトさんは、頭を振って反対側の区画を指し示す。
ネックレスなどの装飾品を売るコーナーだろう。
収納魔法に入れた方が一番紛失の恐れはないけれど、やっぱり効率性を考えれば、肌身離さずがいいだろうから、とりあえず見てみることにした。
「ルクトさんは、どこに身につけてるのですか?」
「ここ」
参考までに尋ねてみれば、白いシャツの下から、銀色のチェーンを引っ張り出して、ルクトさんのタグを見せてくれる。
「やっぱり、ネックレスが無難ですかね」
「それなりにチェーンが長ければ、外すことなく、プレートに当てられるからな。なんなら、引っ張るだけで簡単に取り外せるタイプもある。どっかに引っかかったら、失くしちゃうけど」
他にも、ブレスレットタイプや、ポーチに収めるデザインの手首のバンドや腕バンドもある。紛失防止のチェーンは、なかなか頑丈な素材だ。
一通り見たあと、少しは悩んだけど、動き回ることを考慮すると、やっぱりネックレスにして身につけることに決めた。ブレスレットなら、手を出してポンで楽そうだけど、剣を振るので、ジャラッとするのは気が散るだろう。
「やっぱりネックレス? 予算に余裕があるなら、シルバーなんてどう? オレも、あっちのシルバーを買ったんだ」
ネックレスの色を選んでいることに気付いたルクトさんが、顎で示したのは、販売店員の後ろにケースの中で陳列されたチェーンだ。
純度の高いシルバーやゴールドの値が張る品なのだろう。店員に聞けば、コーティングも施されているので、変色の心配はないそうだ。
証拠に、ルクトさんのシルバーのチェーンも、貯えが十分にあった二年前に買い替えたまま、現在も銀の輝きを失っていない。
購入を決めれば、店員の手でタグに穴をガチャリと開けてもらい、チェーンを通して渡された。
つけようとすれば「つけてあげる」とルクトさんが手を出したので、お願いすることにする。
ルクトさんが後ろに回って、ネックレスをつけようとしてくれるので、私は髪が邪魔にならないように退かしてうなじを晒す。
……なんか、お揃いの色のネックレスになってしまった。偶然だろうか。
ルクトさんは、自分が白銀髪だから、自然とシルバーを選んだのだろう。私に勧めたのも、単にゴールドよりも似合う色だと判断したからに違いない。
お揃いにしたかったなんて、勘繰るなんておかしいわよね。
「ははっ。お揃いだな」
……他意はないはず。
つけ終えて、私の首にぶら下がったネックレスを見て、満足げに笑うルクトさんを見上げつつも、そう思うことにした。
特に、下心は感じない。王子の婚約者でも、夜会では好色家で有名な男性の目に不快感を覚えていたし、なんなら他の貴族男性の下世話な視線も受けているとわかっているから、鈍感ではなく、敏感な方である。
だから、ルクトさんの接し方は、特に不快感や不信感を覚えないので、大丈夫だろう。
「じゃあ次は、王都の外まで出る移動転移の魔導道具の購入だ。隣の建物にある」
王都は広いから、徒歩ではかなりの時間を浪費してしまう。そのために、転移の魔導道具を使用するのだ。
名称は【ワープ玉】。
「使ったことは?」
「いいえ。でも、使用すると、王都の外に設置された転移装置に飛べるのですよね?」
幼い頃に、領地に向かうために王都を出たことがあるが、移動手段は馬車だった。よって、初めてだ。
移動転移の魔導道具【ワープ玉】は、水晶型の物が陳列されていた。水晶以外はないので、どうやら専門店らしい。
「これが王都の防壁外の転移装置に行ける【ワープ玉】だ。あ。これは冒険者ギルドで経費になるから、大丈夫」
新人指導では、必要経費が出るそうだ。
無駄に命を落とさせないためにも、指導の一環なら、これは経費で落とせるらしい。
他にも、遠くに設置された場所に転移出来る水晶が販売しているけれど、今は近場である防壁の外に一瞬で飛べる物だけで十分。
RPGゲームでよくある、特定の街にボタン一つで瞬間移動する機能を、実現した魔導道具。
帰りの分も購入後は、店を出る。
店内では、魔導道具の発動阻止の結界が張ってあった。だから、ケースもなく、そのまま棚に陳列されていたのか。手にとっても、支払って店を出ないと使えない。
「準備は終えてる?」
「装備の方は問題ないですけど……昼食は取らないのですか?」
真上を見上げて、太陽の位置を見れば、もう高くて、昼の時間に差し掛かっていた。
「外で焚き火を囲って、携帯食で済ませるっていう経験をさせようと思ったけど、今空腹なら店で食べておく?」
「わあ。一日で盛りだくさんな経験をさせてくれるのですね。まだお腹は空いていないので、その経験のために携帯食を昼食にもらいます。それも買っておきますか?」
「今日はオレが持っている物を分けてあげるから、いい店はまた今度教える」
濃厚な冒険活動をする一日になりそうだ。
まぁ、今日くらいしかまともに冒険活動が出来ないだろうから、私としても好都合。
ルクトさんは、短期間で学ばせて、指導を終えたいのだろうか。あとで、基準を教えてもらおう。お世話になる以上、ちゃんと私も、彼のランクアップのための条件を満たす手伝いをしないと。
「水晶に触れていれば、一緒に移動出来るから。あ。初めてだと酔うかもしれないから、覚悟しておいて」
「はい、気を引き締めます」
「発動させると割れるけれど、怪我はしないから、動揺しなくていいよ」
ルクトさんが持つ水晶の上に手を置いた。ちゃんと注意点を教えてくれたルクトさんが魔力を込めると、音もなく水晶は割れて、そこから魔法の波動を感じれば、次の瞬間には別の場所にいることに気付く。
少々広く感じる長方形の台の上に立っていた。ここが、城壁の外の転移装置だろう。
「酔いは、大丈夫?」
支えるために、ルクトさんは私の左肩に手を添えて、顔を覗き込んだ。
「はい。問題はないみたいです」
返事をしてから、後ろにそびえる王都を囲う高い壁を見上げる。本当に王都の外に一瞬で出られた。
「ここに来たら、すぐに下りるのがルールだ。他の利用者とぶつかるかもしれないからな。覚えておいて」
「あ、わかりました」
そっと背中を押されるがままに、短い階段を下りる。
転移する場所である台の上が広々としているのは、他者と衝突しないためだろう。だから、到着直後は、すぐに台から下りるべき。
「今回の目的地は、あっちの森な。徒歩だと、時間がかかりすぎるから、【テレポート】使っていい?」
「【テレポート】って……目にした短距離を瞬間移動する魔法ですよね? 流石、Aランク冒険者と称賛すべきですか?」
心底驚いた。高度な魔法ではないだろうか。
収納魔法と同じく、無属性。誰しも使える属性のこと。
収納魔法は便利だからこそ、習得をする者が大半だ。その収納の広さは、下手な人だと財布を入れる程度だったりする。
そして【テレポート】は、有名な無属性の魔法。だけど、習得が出来るほど、簡単なものではないはず。
学園の魔法授業でさえも、恐らく教えてもらえない。
「ランクは関係なく、コツを掴めれば、習得出来るもんだ。使えた方が便利だから、調べて学んだ。教えようか?」
ルクトさんは軽く笑い退けたけれど、またまた驚いてしまう。
「え? 独学ってことですか?」
「本読んで、試行錯誤して、習得」
「……私も本で読んだことがありますが……ルクトさんは天才では?」
「そんなこと……あるかもな」
謙遜しかけたけれど、ルクトさんはキリッといい顔で頷いた。
フフッ、と噴き出して、笑ってしまう。
「収納魔法と同じく、無属性を使うのを意識して、移動したい視線の先に身体を持っていくという感覚に集中すればいいんだ」
「記載通りですが、それが難しいのでは?」
本に記載された通りの説明をされて、いかにも簡単だという口ぶりに苦笑。
「じゃあ、体感してみる? 嫌じゃなければ、ちょっとくっついて。森の前まで【テレポート】する」
「……二人分なんて負担は大丈夫なのですか? 魔力の消費量は?」
「心配しなくても誰かを運んだ経験があるし、無属性の魔法は魔力消費量が少ないから問題ない。……いい?」
かなり【テレポート】を活用しているらしい。
凄い人だな、としみじみ感心する。
ルクトさんは左手を伸ばして、許可を求める。低い位置になるから、どうやら腰を抱き寄せたいらしい。
なかなか紳士的だと、その点も感心した。
許可を出して自分から一歩、ルクトさんに近付く。そうすれば、そっと左手を私の腰に添えて、抱き寄せてきた。
……密着して思い出したけれど、私はまだ保留の形で、第一王子の婚約者だ。……まぁ、いいよね。下心なしの必要な接触ってことで。
保留は保留でも、解消の保留だもの。
「いくよ」と合図をくれたルクトさんは、少しだけグッと抱き寄せる手に力を込めてから、【テレポート】を発動した。
【ワープ玉】と違って、浮遊感を味わったあと、本当に森の前まで移動していて、ストッと足が地に着く。
「ああ、なるほど!」
「ん?」
「ちょっと試してみていいですか?」
「……おう」
パン、と軽く手を合わせて、私は腰を抱かれたままの状態で、ルクトさんに笑いかけた。
またポカンとされてしまったのは、幸い。あのいわくありげな笑みを浮かべた顔がこの至近距離にあったら、きっと動揺を隠せなかっただろう。
ルクトさんが放してくれたので、少し距離を置いて、五メートルほど先の場所を見つめる。
先程の感覚を思い出して、【テレポート】を発動してみた。
浮遊感を味わえば、なんとか成功。
パッと振り返れば、ルクトさんが驚きながらも拍手してくれていた。
「戻りますね!」
事前予告をしてから、ルクトさんの目の前に【テレポート】で戻る。
あまりにも近くて、よろけた私はルクトさんの胸に倒れてしまった。ルクトさんは、簡単に私を受け止める。
このアクシデントに、二人して顔を合わせて、目を見開いてしまう。
「習得おめでとう。リガッティーこそ、天才じゃん」
そう明るく笑って見せて、ルクトさんは私をちゃんと立たせてくれたので、自然な動作で私もルクトさんから離れられた。
「いえいえ。ルクトさんのおかげで、コツが掴めたのです」
「またまたー、謙遜だなぁ。まだ微調節はいるみたいだから、帰りは、それ使ってみようぜ。じゃあ、森に入るぞ。いつ出るかわからないから、油断しないように」
「はい。気を引き締めます」
早速、魔物が出没する森に入ると、親指で指すルクトさんに、素直に頷く。
腰の剣をいつでも抜けるかのチェックをしたのち、ルクトさんと森の中へと足を踏み入れた。
王都そばの南西位置にある森は『カトラー』という名前がつけられている。
かなり広範囲に木々が並ぶ森の中は、あまり密集していないので、視界はよくて、歩きやすい。散策に最適な平和な森に見えた。
ルクトさんが口を開かなかったので、私も無言で進む。周囲をしっかり、警戒しながら。
「前方。来たぞ」
「!」
結構、真っ直ぐに奥へ進んだ頃に、ルクトさんが知らせた。
まだ目に見えなかったけれど、ドシドシと重たい足音が近付いてくる。そして、黒い影が見えてきた。
黒い毛に覆われた猪の姿。巨体で突進する勢いで駆けてくる。
魔法の攻撃範囲に入った瞬間、左手に雷属性の魔法をバチバチと奏でてから、腕を振って放つ。
ブーメランのように、弧を描いて、電光石火の速さで猪の頭を貫いた。
ズサッ。
巨体は地面を少し滑って倒れると、静止した。
仕留めたようだ。
「……」
他にいないかと周りを注意しようとすれば、口をポカンと半開きにしてこちらを見ているルクトさんに気付く。
「あ! すみません! 指示なく動いてしまって!」
「いや……一撃で仕留めたならいいけど。それより、大丈夫? 気分とか悪くない? 討伐は初めてじゃないの?」
首の後ろをさすりながら、ルクトさんは私の具合を気にした。
「あ……初めてですね、生き物を殺したのは……。全然躊躇もなかったですね……平気です。……もしや、私はサイコパス?」
「ブハッ!!」
真剣に顎に手を当てて考えたというのに、ルクトさんは盛大に噴き出しては、お腹を抱えて、プルプルと肩を震わせる。
「う、うん……大丈夫だよ。オレも平気な方だったからさ。戦士向けっていうのかな。敵相手なら平気で倒せちゃうって、そういうタイプの人ってことさ」
笑いを堪えつつ、ルクトさんはそう語った。
失礼な反応だな……真剣に考えたのに。
でも、その持論に納得しておく。
「それにしても、今の【
「その通りです。流石に今の速さで放ったのは、初めてですが。コントロールには自信があります」
「うんうん。最高だった。参考までに、なんで雷属性を選んだ?」
「ええっと……深い意味はないですね」
雷属性の魔法を咄嗟に使った理由は、特にないと思う。
「得意の属性だからとかじゃなく?」
「
「……
ルクトさんが歩き出すので、私も一歩後ろからついていく。
私の得意属性が複数あることに、面白そうに口角を上げるルクトさん。
私は、ただにっこりと笑みを返す。
どうやら、互いに興味津々で知るのが楽しくなっているようだ。私もルクトさんの得意な属性が気になる。そのうち、わかればいいな。
「さて、問題だ。これはなんでしょう?」
息絶えた巨大猪の前で足を止めたルクトさんが、指導者として試してきた。
「魔獣ですね」
「正解。魔物と魔獣の違いは?」
「魔物は、生まれた時から魔物という種族です。魔獣は魔物を食らってしまった獣の成れの果て。魔物も魔獣も、瘴気の塊である【核】を体内に持っているので、それが凶暴化をさせる源とも言われているとのこと。【核】は強さに応じて大きさが決まり、そして【核】は魔導道具を稼働させる魔石の原料になります」
「大正解。優秀すぎる生徒だ」
授業で習ったことをかいつまんで答えただけだけれど、ルクトさんは満足げに褒めてくれる。
えっへん、と胸を張っておく。
魔物も魔獣も、瘴気に侵された凶暴な生き物だということだ。そして瘴気の塊は【核】と呼ばれて、電池のような魔石に作り変えられる。
「それでは、実践を行いましょう」
「……」
演技かかった風に告げたルクトさんが、短剣の刃の方を持って、私に差し出してきた。
短剣と、倒れた魔獣と、笑顔のルクトさんを、順番に見てしまう。
……【核】を取り出すための解体作業か。
くっ……! これが現実か! RPGゲームなら、ドロップするだけなのに! 現実ぅ!!
「ははっ。冒険者なら、経験しないと」
「はいぃ……流石に具合悪くなりそうですが、頑張ります」
「その時は遠慮なく中断していいから。何事も初めてがあって、一度で出来ないこともあるんだからさ」
「ルクトさんは、いい指導をしてくれますね」
「オレの初めての指導役も、上出来だろ?」
短剣を握って、笑い合う。私の方は、苦い笑みだけど。
本当に、優しく指導してくれていると思う。
「基本、周囲は警戒しておくべきだ。血を嗅ぎつける魔獣もいるからな。今回はオレが見張っておくから、【核】を取り出す作業に専念していい」
「それなら、結界を張っておけばいいのでは?」
「んー、気付いたら、群れに囲まれて身動き取れないって最悪なパターンもある。結界を張ってもいいけど、気を付けるんだ」
「……それは、本当に最悪ですね。覚えておきます」
今回はルクトさんがいるから、お言葉に甘えて専念させてもらおうか。
とはいえ、何から始めればいいのやら。短剣を片手に棒立ちしてしまいそうだ。
「【核】は基本、胸の真ん中ですよね?」
「そうそう。お金に困っているなら、皮をひん剥いて、牙を抜いて、【核】と一緒にギルドに売ってもいいんだけど……面倒ならいいよ」
「……では、ただ【核】を取り出すだけでいいですか?」
「ん? うん」
別にお金稼ぎのために、この猪の魔獣を細かく解体する必要はない。【核】だけを取り出す。
ならばと、風属性の魔法を短剣に宿らせて、一振りする。
風の刃を放って、猪の魔獣の巨体を側面から両断。上の部位を押せば、ズシャッと落ちた。
ヒュー、と荒業を評価して、ルクトさんが口笛を吹く。
彼を見ることなく、赤黒い体内を覗いた。
流石に血なまぐささとグロさに顔を歪めてしまうが、手早く済ませたくて、心臓部を探るように短剣を刺し込む。血の匂いで噎せてしまう前に、息を止めながら、探した。
ここかな、と当たりをつけてグリグリと探すと、骨とは違う硬さを感じる。短剣で切り口を作り、そして嫌々ながら手を入れて、その硬い物を掴んで引き抜いた。
小さな拳サイズの塊。水属性の魔法で、水を発生させては、血に濡れたその手をグルリとまとわらせて、赤黒い血を取り去った。
漸く、黒と灰色で濁った歪な石を、確認が出来る。
「あったりー」
これが【核】だと、ルクトさんは拍手をしてから「よく出来ました」と褒めてくれた。
「ホント、魔法のコントロールが上手すぎだな、リガッティーは」
「そうですか?」
「いや、さっきの水を出しての洗浄は、繊細すぎだろ。オレなら、宙に水の塊を出してそこに手を突っ込んで血を洗うだけだ」
「……幼い頃から魔法で遊んでいたので、その賜物かもしれません」
コントロールのよさを褒めちぎられて、まんざらでもない私は鼻を高くして笑って見せる。
「これは焼却な」と右手にボッと火を灯すルクトさんを見て、私は死体から離れた。
ボォオオッ。
ルクトさんは火を放って、魔獣の死体を燃えあがらせた。
「幼い頃はどんな魔法を使ってたの? リガッティー」
なんて、焼却しながら、他愛ない会話を持ちかける。
「当ててみてください。ルクトさんばかり問題を出しているので、私からも問題を」
ちょっとした挑戦を持ちかければ、受けて立つと言わんばかりの好戦的な笑みを向けるルクトさんは、火力を上げては死体を灰にした。
「あっちに川があるはずだ。昼食に魚はどうだ?」
「捌くなら遠慮したいです……」
「いーんや。塩で串焼き」
「……なら食べたいです」
魔獣の次に魚の解体をされては、それを食べられない。けれど、串焼きならいけそうだから、その案に乗った。
川に向かいながら、ルクトさんは私の幼少期の魔法を当てようと考える。
水属性の魔法のコントロールのよさからして、絶対に水属性を練習したに違いないと言い当てた。
自分もそうだから、と笑い退けるルクトさん。
川が見えてきた。王都の近くを横切るように流れる『テレーサ川』だ。『カトラー森』の中では、少々狭まっている川らしい。
流れは緩やかで、よく透けて見える川に、魚の影がいくつもあった。
「じゃあ、食べれるだけ獲ろう」
「……魔法で?」
「……魔物が出てくる森で、釣り竿やモリで魚を獲りたい?」
「…………では、勝負!」
「あっ! コラ!」
軽く袖を引っ張って、片腕で構えたルクトさんの横で、先に魔法を行使する。
勝負を持ち掛けて、完全にフライング。
確かに、悠長に釣りをする場所ではなかったわ。
そういうことで、生み出した水を槍のように川に突き刺しては、魚を一匹、掴み上げた。
「オレの勝ちー」
「……むぅ」
私は一匹。ルクトさんは、もう二匹。手の上に浮かばせた水の中に、仕留めた二匹の魚がある。
フライングしたのに、あっさり負けたので、ちょっとむくれた。
そんな私を見て、ケラッとルクトさんは笑う。
「塩漬けにして串焼きにするけど……やってみる?」
「……教えてください」
「ははっ、わかった。ちょっと焚き火のための枝を集めて。川を背に、焼いて、食べよう」
「前方を警戒しながらの食事ですね」
「そーゆーこと」
理解した私は、指示に従って、焚き火のための枝を拾い集めて、それらしく置いておく。
下処理をした魚に塩をまとわせて、串に刺す過程を見せてもらい、自分の分をやった。
それから、火をつけた焚き火のそばに突き立ててもらう。
魔法で水を出して水分補給をして、土魔法で地面を盛り上げた上に腰を下ろして、焼き上がるのを待った。
「で?」
「はい?」
同じように隣に座るルクトさんが、声をかけてくる。
目をパチクリさせて、何を聞き出したいのか、首を傾げた。
「気晴らしで冒険者になったんだろう? 鬱憤が溜まっているんなら、愚痴を聞くぜ」
ああ、なるほど。気晴らしの元凶を聞いてやるって話か。
愚痴を吐かせてくれるのか、または興味本位なのかしら。
どちらでもいいか。気晴らしに付き合ってくれるルクトさんに、聞いてもらおう。もちろん、ぼかして。
「はぁー、ありがとうございます。昨日とんでもなく、大きすぎるストレスを受ける問題が起きてしまったのです」
「ふぅん。どんな問題?」
「そこは、ぼかさせてもらいますね」
「そっか」
ぼかして話すことを、ルクトさんは納得してくれた。
「火種が大きすぎて、もう大火事が広がるほどの被害です。頭を抱えてしまいますね。なんとか悪化しないように手を回しても、いつ爆発してしまうか、心配でなりません。被害を受ける周囲の友人達を思うと……もうため息しか出ませんよ。……こんな愚痴でもいいですか?」
「うん、いいよ。吐き出して」
片膝に頬杖をついて、私を見ているルクトさんは、とんでもなく寛大だ。
いい人すぎるわ、このイケメン。素敵すぎか。
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