第2話 トリガク才女の非公式幼馴染?
私立登利学園。通称、トリガク。
学園創設のコンセプトは、自然に上の方に登り利発的な生徒が学園を名門校へと成長させ、将来的に予想外の活躍をしてくれる生徒が育つことである。
しかし生徒のうち、特に男子は怠ける者、遊ぶ者、何も考えない者といった者が多くを占め、中でも気の弱い男子が圧倒的だった。
対する女子は才色兼備な生徒はいるものの、そんなことより個性的な自分を求める傾向が強く、登利学園が求める生徒になっているかは不明だったりする。
弱気男子の代表でもある宇佐音也は、トリガクに入学するまで自分の気持ちを一度も女子に伝えられずに生きてきた一人だ。
「なぁ、
弱気男子の前代表である
勝手に代表にされた挙句、失敗前提で訊いてきた頼原に対し宇佐は少しだけ不機嫌な表情を見せる。
「まさかじゃないよ。告白出来なかったし……」
「うぇ!? マジかよ~……宇佐だけが頼りなのに~」
宇佐がいる2-Cには弱気な男子メンバーの他、遊びに誘ってくる男子や調子のいい男子が数多い。そんな男子に呆れているのか、教室にいても話しかけてくる女子はほとんどいないのが現状だ。
そんな中、唯一まとも男子と見られている宇佐だけが気楽に話しかけられていたりする。
「宇佐くん。元気? これから連休続くけど、仲いい女子と一緒に何か予定立てていたりする?」
頼原がいなくなった後すぐに話しかけてきたのは、もうすぐ梅雨入りする前の曇り空優勢の休み時間。彼女の名は隣の席に座る
彼女は入学式の時に宇佐に声をかけてきた女子で、2年に上がって同じクラスになったことでますます親しくしてきた女子でもある。
「作野さんが思っているほどおれはモテないよ」
「え~? そんなことないと思うんだけど。少なくともウチは宇佐くん派だよ!」
「派……って、他にいたりするの?」
宇佐の言葉を聞いて、作野は窓側の一番前の席に座る男子を指差した。
「え? 朝川君のこと……?」
「そ。朝川派もいるんだよね。理解出来ないけど。あいつ調子良すぎだし、すぐに絡んでくるから好きじゃない」
そんなはっきり言わなくても……などと宇佐が思っていると、視線でも感じたのか朝川が席を立って宇佐の前に現れる。
「なになに~? オレのウワサしてた~? おっ、花じゃんか!」
「勝手に人の名前呼んでんじゃねーよ! 自分の席に戻れよ、夜のブ男!」
宇佐が作野から聞かされたのは、作野花と朝川夜喜は幼い頃から付き合いのある幼馴染らしいということだった。
それが嫌なのか、作野の態度は朝川の前でだけ異なるのだとか。
「変な名前で呼ぶなよ~! オレの名前は
「うぜー! ウチと宇佐君の会話邪魔すんな!」
作野の話によれば、弱気な男子ながら話しやすい宇佐派と、チャラ男でありながら整った顔立ちをした朝川派で女子の間で派閥があるらしい。
「ま、まぁまぁ……。作野さん落ち着いて。朝川君も悪気はないんだろうし」
「まーな! 宇佐は相変わらずいい奴だな! 俄然やる気出てきたぜ! いい加減非公式から公式に認められないとな~」
「……ちっ、うぜー」
舌打ちしながら作野は自分の席について、聞こえないフリをしている。
「聞き逃したんだけど、非公式とか公式って?」
宇佐がそう訊くと、朝川は宇佐の隣に座る作野を見ながらニヤリとした。
「宇佐の隣にいる言葉遣いが悪い奴が公式。非公式はトリガク才女の
「え? 唐津田恋白さんってあの? 非公式とか公式って?」
「幼馴染のことだよ。マジで残念すぎる~!! 何で才色兼備な彼女が非公式幼馴染なんだよ……。だがオレは諦めねえ! 必ずオレが誰よりも早く話しかけて認められてやるぜ! だから宇佐も応援してくれよな!」
公式幼馴染が作野花で、非公式幼馴染……つまり何の関係も無い女子が唐津田恋白ということらしい。
「あ、うん……」
応援って言われてもクラスも別だし、どうすればいいのか分からないよ。でも唐津田さんと話をした男子ってまだいないのかな。
自信を持ったのか、朝川は自分の席に戻って行く。
才色兼備な唐津田恋白……朝川が近づく前にもう一度機会があったら――そう思っていると、宇佐は思い出したように声を上げる。
「――あっ!!」
「わわっ!? 宇佐君、どうしたの? 夜のブ男に何か言われた?」
「ううん、何も言われてないよ。ごめん、驚かせちゃって」
「そっか。ウチこそごめんね~あのバカの相手をさせちゃって……」
作野は申し訳なさそうに頭を下げて宇佐に両手を合わせてきた。
「き、気にしなくていいからね」
……などと宇佐と作野がお互いに頭を下げている頃。
少し離れた2-A教室では、恋白を囲うようにして女子が興味津々に話を訊いている。
「恋白さん、この前どうだった?」
「……ええ。面白い回答が聞けましたよ。その代わり、炭酸が抜けてしまいましたけど」
恋白のあからさまに分かる落ち込みように、周りの女子たちも何も言えずにいる。
「はいはい、恋白が落ち込んだからってあんたたちまで落ち込む必要なんてないから! でも、今は放置でいいからまた後で話しかけて」
そう言うと、恋白を囲っていた女子たちはすぐに解散して自分の席に戻って行く。女子たちに代わって恋白の隣に座ってきたのは、恋白と同じレク部の
「…………あれ、鈴乃? 今日のレクリエーション活動の話?」
「そんなんじゃなくて。限定炭酸飲み損ねたって本当?」
「そう。事実。もう売ってない。でも面白かったからあまり気にしてないけど」
何が面白かったのか風張が聞き出そうとすると、恋白はフフッと笑いながら親指を立てた。
「面白いって何が?」
「私に臆することなく声をかけてきた子がいたこと。だから思わず名前覚えた」
「……誰?」
「2-Cの宇佐音也。何か面白かったから、覚えた」
もう一度どこかで会えないかな?
おごるって言ってたし、自然に会えるはずだよね。
「意外すぎ……恋白に覚えられるなんて」
「それだけじゃ駄目」
「どうするの?」
「だから2-C教室行くつもり。宇佐音也を見に」
高スペックな唐津田さんはSFな恋を望んでいるようです。 遥 かずら @hkz7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。高スペックな唐津田さんはSFな恋を望んでいるようです。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます