高スペックな唐津田さんはSFな恋を望んでいるようです。

遥 かずら

第1話 はじまりは素っ気なく:プロローグ

「責任、取れる?」


 ――と目の前で立っている男子に対し、高スペック女子の唐津田が厳しく問いかける。


 一体何のことなのかよく分からない。 


 そう思った宇佐が返せる言葉といえば、


「せ、責任!? え、どういう?」


 ……などと、何のひねりも無い疑問しか返せない宇佐は頭を抱えて考え込んでしまう。そんな宇佐を立たせ、物陰から見守っている男子達はお互いに顔を見合わせるも、助けることすらしてこないようだ。


 周りのざわつきに気づきながらも、唐津田は表情一つ変えずに太もも付近に置いている紫色をしたドリンクをちらちらと気にしつつ、携帯電話で時間を見ながら宇佐の返事を待つことに。


「……もうすぐ4時間。このままだと私が楽しみにしてた限定の美味しさが抜けてしまう。その責任」


 限定品売り場からせっかく手に入れたのに何でこんなことになるの?

 早くして欲しいんですけど?

 手を伸ばせば届くし飲もうと思えば飲めるのに。


「抜けるって、もしかしなくても炭酸……ですか?」

「それ以外に何か? あなたが私に何を言おうとしているのかは知りませんが、飲もうとすると何かを言いかけて飲めなくて、フタを開けたまま空気にさらして気づけば3時間半!」


 唐津田はそう言うと首かしげの動きを見せて、ドリンクに手を伸ばしては引っ込める動きを見せた。


「そ、そんなこと――」

「……そんな――こと?」


 そんなことくらいで――などと言いかけた宇佐だったが、まだ風が冷える春先のような感覚を体に感じて思わずうつむいてしまった。

 

 もちろんそれは宇佐の気のせいで、単純に唐津田の冷めた表情がそうさせるだけだったりする。


「炭酸が抜けきるまであと30分も無いけど、もし抜けきったらどうするつもりが? それと、結局あなたは私に何を言いに?」

「べ、弁償しますよ。炭酸飲料くらいならそんな高価なものでも……」

「いいえ、少なくともあなたが購入出来るものじゃないです。なので、言いたいことも言えそうに無さそうなので――」


 一般人が手が出せない価格の炭酸飲料なんてあるわけがない――そう思った宇佐から出た言葉は。


「お、おれが唐津田さんにおごりますから!」

 

 そうじゃなくて告白だろ、おれ!

 何でジュースをおごる話をしてんだよ。


 告白よりも先に宇佐の口から出てきた言葉は、ジュースをおごるという言葉だった。


 その言葉に対し唐津田は、


「……あなたの名前は?」

「う、宇佐。2-Cの宇佐うさ音也おとやです」


 宇佐の名前を自分の携帯にメモりながら、少しだけ笑みを浮かべた。


「実際に声をかけてきたのは宇佐が初めましてなので、覚えておくことを決めました。私は唐津田……2-Aの唐津田からつだ恋白こはく。私の名前は覚えなくて結構です」

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