第15話 大晦日イベント
12月31日。水色のスカートでは今年最後の営業として大晦日イベントを行っていた。
たくさんの来店してくれたお客さんと10名程の従業員の熱気で、ライブ中の店内は汗が滲むほどだった。
5月の周年イベントと12月の大晦日イベントは、水原まなもステージでパフォーマンスをするということで、この日の水色のスカートを楽しみにしてくれている人はたくさんいる。
ライブはお昼から三部に分かれ、間は飲食やキャストのグッズ購入、順番に従業員の休憩時間などにあてられる。
キャストはもちろん、この日だけはキッチンのこぐまもステージに立つ。
とはいえ、歌をうたう訳でも踊るわけでもなく、椅子に座りカフェテーブルにお酒を用意して、対お客さんと話す。
ぶっきらぼうな物言いキャラ目当てに来るファンも多い。
こぐまが20歳になった時にステージを提案したのはアリスだった。
相当嫌がり、初回はアリスとましろが引っ張っていく形で3人で始めたのだが、今では「変な構い方してくるのが嫌だから来んな」なんて一人で楽しんでるようにもみられる。
この日のために二人でやることを提案した咲良とみこのコンビは、若さ溢れる迫力の歌とダンスで店内を沸かせ、アリスは自作のバラード曲で店内としっとりさせた。
他のキャストもそれぞれ漫才や、マジックで終始盛り上げた。
咲良と七海みこ、高校生がいる為22時までにはこの第三部のステージも終わるようになっている。
楽しいお祭りの終演までもう少し。
大トリ前のましろがステージへ出る。
いつものように明るく、まなさんにきょう最後のステージを最高の温度で渡す為に。
「ましろー!」
「ましろちゃーん!」
まなさんが見てくれている。それだけで泣いてしまいそうだ。
アップテンポのアイドル曲と、バラード調の曲を選んだ。
「今日は、本当にありがとうございました!皆さんに楽しんでいただけるよう、たくさん考えてこのイベントをキャストみんなで作り上げました!」
店内を見回す。
微笑んでステージを見てくれる中、いくつか違う感情の視線が向いていることを感じた。
なんだ?
一瞬気持ちがヒュッと縮む。
圧縮した黒い雲を、ステージ上で思い出してしまいそうだ。
違う、今は今のことだけ考えなきゃ。
ましろは不穏なざわめきを押し込めた。
「最後は、やっぱりこの人でしょう!!
水原まなーーーーーー!!!!!」
精一杯呼び込んでステージを降りると、袖ですれ違ったまなが頭をポンとしてくれた。
幸せな気持ちでいっぱいだ。
尊敬する人、ライバル、ともだち。
ずっと、ここにいたい。
いつだって、改めてそう思う。
そしてましろにとってまなが歌う姿はいつだって貴重だ。目に焼き付けなければならない。
急いで客席に移動する。
コールアンドレスポンス
煽り
ケチャ
わくわくが止まらない。
いつまでも自分のアイドル。
オリジナルとカバーを何曲か唄って、終演はもう目の前だ。息を切らしたままのまなが話し始める。
「きょうはみなさん本当にありがとう。いま私が、水色のスカートのみんなが、この場所でこうして居られるのは他でも無いあなたの。あなたの、あなたのお陰です」
いつもそう、水原まならしい。
配信のカメラにも、お客さんひとりひとりと目を合わせるように時間を使って伝える。
「すごいよね!7年目だよー!やまさんどうよ!?」
最前列の常連さんに振る。
「楓ちゃんも時間かけてきてくれてありがとうねー!」
中程にいる女の子のファンにも言葉をかける。
「メンバーもたくさん代替わりしてきてさ。咲良ー、みこー!初の大晦日イベントどうだった!?」
店内の後方から観ていた2人にマイクを通して声をかける。
「たのしかったでーす!!!」
揃って大きな声でこたえる。
「おおおおよかったー!!!!」
全体が拍手で盛り上げる。
みんなの反応が落ち着いた頃、まなはマイクを持ち直した。
「それでね。きょうはみんなに特別なお知らせがあるんだ。」
意味ありげにじっくり反応をたのしむ。
「なんとっ!今年の5月、東京の2000人越えの大箱で水原まな主催のライブをします!」
おぉー!!!と店内が沸く。
「発表はまだだけど、あのバンドとかー、あのアイドルとか来てくれる予定!」
絶対にこの目で、生で吸収しにいかなければ。
ましろは水色のスカートを休んでも行かせてもらおうとすぐに決めた。
しかしすぐに「あれ?」と思う。
まなはいつも自分主催のライブの告知を、この店で発信しない。
自身の活動と、水色のスカートは分けているはずだが。しかも5月は周年記念イベントもあるのに。
キャストも常連客もすぐそのことに気付く。
「なんで周年の月に合わせて東京のライブ告知をここでするかってなるよね?ねぇー?」
そんな疑問を持たれることなど、まなはもちろん予想済み。
「そのライブにね。ふふふっ。私の大事な水色のスカートのメンバーにオープニングアクトをつとめてもらおうと思っているからです!!!!」
この日最高の歓声と拍手が起こった。
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