第14話 宇宙人フロム佐世保
〈感動トハ、冷メ易キモノナリ。シカレドモ、昨夜ノ決意表明ハ容易ニ覚メザル感動ヲ、岸和田基地ニモタラシタルナリ〉という十七日の火曜日のことであった。覚めない感動が吹っ飛ぶ、いや、ぶっ飛ばす宇宙人が、こともあろうか奥村家にやって来たのだ。
インベーダーの侵入は夜陰に紛れ隠密裏、というのが世間相場。だが、彼女は好奇と訝りの眼差しを全身に浴び、白昼、公然かつ堂々と岸和田に降り立ったのだ。
さよう、サイケ(サイケデリック)以外に形容のない、ケバケバしい訳の分からん色彩のジーンズにTシャツを纏い。真っ赤に熟れたトマト色に輝く背中のリュックは、カロリーメイトが究極のライバル―――ミルク・ピーナツ弾満載であったのだ。
「―――ヌヌ! 嫌な、実にイヤーな予感‥‥‥」
真っ先に気づいたのは、宇宙人に鼻の利く優一だった。午前十一時二十一分。セカンドメニューの英語の特訓中、庭に面したのぞみの部屋へ暑気がふっ飛ぶ―――カン高いあの声が、鼻歌まじりで風に乗って窓から侵入して来たのだ。
まさか? と疑いながら網戸越しに通りを見渡すと、
「あのう、チョットうかがいますけど、奥村智子さんのお宅、この近くにあると思うんですけど、ご存じありませんか」
隣の細川さんちの奥さんに聞いている。
「オー! マイ・ゴッド!」
と叫ぶ前に、
(何が「ご存じありませんか」だよ! バーカ。表札見れば隣と分かるだろ!)
と、頭の回路が作動するのは、アゲ足とりが脳細胞に固着しているからか。いやはや、何という宿敵の御来場かと、一瞬、ほんの一瞬だけだが、懐かしいほんのりとした気分が優一の心を満たす。
「ユウ。どうしたの?」
窓際の優一に、のぞみが怪訝顔を向ける。
「とうとう、宇宙人が来ちゃったよ」
「えっ!」
立ち上がって窓際から庭先を見下ろし、
「キャー!! チーちゃんじゃないの!?」
のぞみは限りなく絶叫に近い悲鳴を上げた。
「―――ぬ。ヌヌ、その声は‥‥‥のぞみ殿の声ではありませぬかえ」
千加子は近視まなこで声の方角を凝視するが、コンタクトなしで、もちろん見えていない。
「ユウ、ユウはおらぬかえ。姉上が、早朝から始発を乗り継ぎ、佐世保から参ったのじゃぞえ。疾(と)く迎えに来りゃれ」
声の方に一歩あるいて千加子は呼びかける。ビジブル・エリアは五メートル。アウトは耳だけが頼りなのだ。
「もー! なんで来たんだよー! せっかく、いいムードで勉強してんのにー!」
玄関へ出て、優一がいかにも迷惑、といった顔と仕草で、招かれざる客を迎える。
「何を申しておるのじゃ。姉が心配して、わざわざ出向いてきたというのに。―――おうおう! そこもとは我が後輩の、のり子殿ではござらぬか」
弟の迷惑顔など、全く千加子の眼中にないのだ。例のごとく鼻の頭に可愛い汗をかき、トレードマークのニコニコ笑顔だったが、のり子も玄関へ下りてくると、
「このー! わが母校を捨てた、ウラギリ者ー!」
などと、やぶにらみヒジ鉄見舞いで受けをとろうとするが、のり子と竜児はキョトン? のぞみと優一はドッちらけだった。
「優一君の、お姉ちゃん?」
おばあちゃんも玄関へ出てくる。
「まあ、まあ。奥村のおばあちゃまですか。愚弟がいつもいつもお世話になって申し訳ござりません。きっと、ご迷惑をかけておるに違いないと、父の洋と母の恵美子がいたく心配いたし、不肖、姉のワタクシめを遣わしたのでございますのよ」
なびかぬなら、なびくまで待とうコケコッコーならぬヒヨコッコーめ、とばかり、千加子は四人を無視しておばあちゃんに愛嬌を振りまく。
「アンタが一番の迷惑なの!」
弟の叫び声など、全くの無視、無視、無視。忘れるだけが取り柄の、パープリンの弟なのだ。スタスタとベタ足で玄関を上がりダイニングへ入ると、勝手知らないよその家なのだが、知ったような顔で千加子はおばあちゃんの向かいに腰を下ろした。
「アンタたちは勉強があるでしょ。早く各自の部屋へ戻って、勉強に精を出しなさい。私はおばあちゃんにお礼を申し上げとくから」
わずか二歳差が、かくも上から目線の自信を生み出すものであろうか。母親気取りにさせるところが恐ろしい。あきれ顔の四人に、千加子は平然と言ってのけると、おばあちゃんに向き直り、二人だけの世界へ入ってしまう。
「おばあちゃん、おばあちゃん。私も来年、お受験なので、―――あのおジャリたちと違って、もちろん大学ですけどね。―――まあそんなわけで、昨日まで予備校の夏期集中講義とやらに出ておったのですが、どうも中ダルミというか、パッとしませんので、愚弟の様子を見がてら、朝一番に飛び起き、気分転換も兼ねてこちらへ伺いましたの」
昨日まで、受験地獄の〈血の池〉でタップリ泳いだ反動からか、今日一日、受験の憂さを極楽のハス池に沈め、ピクニック気分で岸和田へやって来たのだ。おばあちゃんを聞き役に、ダイニングに高音の声を響かせていたが、三十分も経つと、千加子は持ち前の好奇心が頭をもたげてくる。目の前に、威風堂々の岸和田城がそびえ立ち、お城がキャンパスの一部であるかの緑豊かなお城高があるのだ。
「それじゃ、愚弟とのぞみサンが母校をウラギッテまで入りたいという、お城高校へちょっと偵察に行って参りますから」
玄関先で小声で告げると、おばあちゃんに手を振り、抜き足差し足、おどけ仕草でお城高校へ向かった。
角田先生の国語教室で、タップリと油を売って一時前に戻ると、
「何ていい高校なの! 緑と花々にも囲まれて、お城仕立ての、まるでミニハウステンボスの面持ち。それに、言葉では語り尽くせない気品があって。―――くやしいデスけど、愚弟とのぞみサンの気持ち、分かるような気がしますわ。おまけに、温厚な角田先生! 国文学と邪馬台国談義に、ひとしきり花を咲かせましたわ。邪馬台国が九州にあるという、私が支持する九州説の弱点を指摘されたのは、チョット痛かったですけど」
玄関へ入るなり、千加子は手を握り合わせ、はち切れんばかりの胸を振って、はち切れる感動を表わす。
「まあ、まあ! 私の分のランチまで。―――よろしかったのに、私はホカ弁で間に合わせようと思ってましたのに」
おばあちゃんの横にちょこなんと腰を下ろし、千加子は恭悦至極であった。
「あー! うま、―――いや、おいしい」
季節外れといえば季節外れだが、茶わん蒸しのおいしいこと。おばあちゃんの指導とはいえ、わが愚弟の作(品)とは思えぬシロモノで、予備校のAラン(Aランチ)に爪の垢でも、いや卵の殻でもペタンと張り添えたいほどであった。
シーフード主体のヘルシーランチも口当たりが良く、海藻サラダとツナサンドは、またたく間に千加子のえじきになってしまった。
「ゴチソーサマ。あー! おいしかった」
タップリ二人前を平らげ真っ先に箸を置くと、
「さあ、レッツゴー! アラウンド・城下町岸和田・バイ・チャリ! でしょ」
食事中の四人を急かせ、自分もチャリ行脚に加わるという。
「―――ちょっと、ちょっと。チャリはオンリー・フォーだぜ。チーちゃんの分、一体どうするつもりなんだよぅ!」
チンニュウ者排除のテオリーその一。〈チャリ不足〉。優一は我ながら名案と思ったが、敵はサル者、ひっかく者、いや、宇宙人であったのだ。
「ユウ。バカねぇ。チャリなんて、そこいらじゅうに一杯あるでしょう。お隣で借りれば済むことじゃない」
UFOに乗るかと思いきや、千加子は隣の細川さんちへ借りに行った。仕方なく、五人縦隊を組み、優一を先頭にお城から下町へチャリ行脚。
「いい町ね。やっぱり町は、伝統が息づく歴史の重みがないと駄目ね。ミニ・乱業者(ミニ開発・乱開発業者)には、ここの土と甲子園の砂を毎朝、なめさせないと」
ショートヘアをなびかせ、千加子は弟のバックで上機嫌だ。真っ赤なつり上がり学者フレームメガネをかけて、都市問題研究家口調のミニ・乱業者への辛口批判。トラキチだけあって、タイガース復活のオーラの球場、甲子園にキッチリつなげる。
「そうなのじゃ。明日・ひみロードにもミニ・乱族が息を潜め、攪乱とコセコセ攻撃でワラワたちの行軍を阻むが、軟弱ユウ司令官と違って、ワラワは怖いぞえ。それ! これを食らうのじゃ」
いつの間にか空想ゲームワールドの司令官は、優一から千加子に代わってしまい、ドン! どん! ドン! と、ミニ・乱族先遣隊を片っ端からスパイクの餌食にしていくのであった。
「そう。ワラワに、情け容赦はないのでアリンス。夜陰に紛れ、地を這うように攻撃の機会をうかがっていても無駄なのじゃ」
おっと! 空想ワールドのウインドーが突然ドカッと開いて、ミニ・乱族本隊との、すわっ大乱闘か! と思いきや。敵側から〈鬼・悪魔〉と恐れられる千加子の司令官昇格に、ミニ・乱族は戦術転換を果たし、
「ワー! 誤解に基づく敵は、相手にするなー! 取り敢えず、ラグジュアリー高性能ミニに乗って、退散だー!」
まさにラグジュアリー。優雅かつ流れるようにスムーズな移動で、ミニ・乱族は最上級車ジョン・クーパーに飛び乗り、ミニ・乱王国へ走り去ると、ミニ・乱塚の城門を閉じたのであった。
「それっ! アクアとフィットとノートの連合軍で、ミニ・乱砦を包囲するのじゃ!」
などと悪乗りすると、せっかくの勝利が自動車摩擦にすり替えられ、世界戦争勃発の危機再燃であった。で、そんなことにならぬよう、なだめ役が穏やかスマイルでウツツワールドへスイッチを切り替えでーす。
「そうやろう、千加子さん。うちもこん町が気に入っとーと。大人になったらこん町に住んでみたいねって、竜ちゃんと話しとーんばい」
佐世保東高校の後輩・のり子も我が意を得たりで、ペダルをこいで嬉しそうに千加子に近づく。
「おーおー! ご馳走サマー。いいわねぇ、若いって」
「いえ、そがんつもりじゃ」
千加子のからかいにも、のり子はぽっと頬を染めて恥じらうが、
「何だよぅ! まだ十八前のくせして。やっぱ五千年の、ボイン・ミイラかよぅ!」
弟は振り向いて、口をとがらせ悪態をついた。
「―――ふぅーん。ここも中々いい高校じゃない。ここがのりちゃんと竜児君の高校になるのか。‥‥‥クラブ活動が盛んみたいで、野性的ムードだな」
通用門から眺める、千加子の土生高校・第一印象であった。
「‥‥‥でも、どっちかというと、学校の感じはお城高校の方が好きだな。お城があるし、それにハウステンボスを彷彿させてくれるから」
「千加子さん。ここだって結構、緑が多かし、しかもインテリジェントで、ハウステンボスに直結するイメージポイントもあるかばい」
もちろん、のり子が黙っていない。間もなくわが愛する―――母校となる土生高校なのだ。
「おい、おい、チーちゃん。そんなおかしな服着て、いったいどこへ行くんだよ!」
スタスタと通用門からグラウンドへ向かう姉を、優一があわてて呼び止めた。
「一日で帰っちゃうには惜しい町ね。今日、哀愁の夜行列車で帰ったりすると、一生、後悔しそう」
上り坂だが、バレーで鍛えたパワーと脚力なのだ。力強いペダルでグイグイ先導しながら、千加子はオッソロシイ独り言をつぶやく。高架を走る電車が途切れて、優一の地獄耳がキャッチしたのだ。
「お願いだから、おかしなこと考えないでよ。ホント、帰ってくれよな。俺たちのペースを乱さないでよ」
不吉な予感的中である。やはり宇宙人は良からぬことを考え始めていたのだ。姉の横にくっついて、優一は哀願口調だった。
「ユウ、何て情けない顔すんのよ。夜までまだタップリ時間があるんだから。―――それにアンタたちの学習状態チェックも、まだ済んでないんだから」
急の思いつきだったが、
「エーッ! 学習状態のチェックだって!」
四人の一斉抗議に、千加子はニンマリとほくそ笑んだ。とりあえず急場は凌げたのだ。意思実現のためには、攻めて、攻めて、攻めまくりー! サヨウ、攻撃は最大の防禦なのである。後は攻撃力がモノを言うのだが、千加子には自信があった。
「―――大分、勉強ははかどっているようだけど、この程度の難問は解けないとダメよ。ほら、図を描くと案外、簡単なのよね。二次関数の移動は、図で攻めろ! だからね。―――さあ、これでどう?」
家へ戻り、リビングで図解パタンを披露すると、四人の見る目が変わってしまった。おまけに英語や国文法は玄人ハダシで、天敵のぞみさえ舌を巻くありさまなのだ。竜児に至っては、即、親衛隊長になってしまい、
「千加子さん。すごかねー! そがん風に考えるんと。おい、そがん分かり易か説明、授業で聞いたことがなか」
千加子が解説するたび、信頼のエールを投げ絶賛する。
「ね、役に立つのが分かったでしょ」
ディナータイムに、ソフト控え目口調で同意を求められると、のぞみと優一は千加子の術中にはまり、
「‥‥‥うん」
渋々ではあるが頷いてしまった。
「私はおばあちゃんの隣の部屋で寝させてもらうから、アンタ達の邪魔にはならないでしょ。ねぇ、おばあちゃん」
敵はキッチリ、おばあちゃんまで味方につけてしまっていたのだ。しかも翌朝、
「昨夜、眠りの神に召される前に、集中講義のおさらいをしたら、非常に効率が上がって全知全能の神にウインクされちゃったの。ホント、希望に燃える少年・少女たちと一つ屋根の下で過ごすのは素晴らしい。私も燃えて、燃えて、燃え尽くすわ! だから残りの夏休み期間、私もここで勉強させてもらうことにしたの。ね、おばあちゃん」
〈燃え、燃え宣言〉とでもいうべき訳の分からない宣言をぶち上げ、共同生活参加を正当化したのであった。一インチの譲歩は一マイルの譲歩につながる、廂(ひさし)を貸して母屋を取られる。いずこにもある諺が実践された瞬間で、優一は「しまった!」と、ほぞを噛む思いであった。しかも宇宙人であるのだ。最新鋭・最強基地攻撃に遣わされた、最終兵器―――ボイン・ボイン・アンドロイドは、次なる攪乱戦術を展開したのであった。異星人との共同生活に馴染み始めた一週間後、最終兵器が発したサインは、人類の聴覚は判読するも、脳がパニクル以外の何ものでもなかった。
「あのサー。実は私も、二学期から土生高へ転入しようと思ってんの。気に入ったのよねー、学校も町も、この家も。だからよろしくね」
アフター・ブレックファーストの、くつろぎのひととき。ダイニングにブレイン・パニクル弾がスーと、不意を突いて投下された。宇宙人は片づけ当番で、流しで皿を洗っていて、仕草はあくまでさりげなかった。
「―――エーッ!! エーッ!! エーッ!! ―――二学期から転入するだって、‥‥‥そ、そ、そんな! そいじゃ、パパやママはどうなるんだよ!?」
鈍きこと昼アンドンの如く、騒がしきことガッチャマンの如しであった。ド肝ならぬ、五臓六腑すべて抜かれたムンク顔で絶叫したのは、コードナンバー008。ボイン・ボインの実弟であった。
「パパやママは、奥村のおばあちゃんがいいって言ってくれたら、OKだって。心配しなくていいのよ、ユウ。パパとママだって、二人だけのスィート・ホームが楽しめるもの。それに来年の三月までだから、私が家を空けるのは。ね、おばあちゃん」
おばあちゃんを味方に付ければ百万力。良くわきまえていて、千加子はおばあちゃんの手を握り、ニッコリと微笑みかける。
「だってサー。チーちゃん、のり子のことウラギリ者なんて言ってて、自分も母校をウラギッちゃうの? もう高三の二学期だよ。ウラギリは、のり子よりよっぽどキツイよ」
優一は何がなんだか訳が分からなくなってきた。脳は破壊一歩手前のレッド・ゾーンだが、異星人排除は最優先指令で、異分子混入はユートピア計画頓挫の危険信号。そう、アラームはカテゴリー5を怪しげに点滅させていた。
「私もサー、それ考えると心が痛むのよねー。でもサー、土生高と出会ったのも何かの縁なのよねー。のりちゃんや南君みたいにサ。だから、私もその縁を大切にしようと思ってんの」
非論理窮まりない発言で、常人の場合は敗北シグナル。だが千加子のそれは強行突破の合図なのだ。
「しかしもう八月の二十四日だぜ。間に合うのかよー、転校の手続き。それに、高三の転校は認められないって聞いたぜ」
強行突破に備え、優一は最後の抵抗を試みる。
「私もそれが心配だったんだけど、昨日、角田先生に相談したら、何とかなるだろうって。お城高校は定員の関係やカリキュラム調整で難しいけど、土生高校は柔軟に対処してくれるだろうって。君が入ったら、来年、土生高の進学率が一挙に跳ね上がるって褒めてくれたら、拒めないじゃない、求められているのにサー」
敵は用意周到であった。優一の抵抗はむしろ千加子に余裕さえ与えてしまった観があり、転校阻止はほぼ残念せざるを得ない危機的状況であった。
「千加子さん。角田先生んところでよう見かくる木下武史君もきっと喜んどーやろう。昨日、木下君と狛犬前で話しとったんはそんことやったんと」
のり子は何の他意なく、先輩に祝福の問いかけだったが、反対派二人には格好の攻撃目標出現なのだ。
「あー! やっぱり! どうりでおかしいと思ったんだ!」
優一とのぞみは、面白いほど同時に呆れ顔を見せた。不可解窮まりない決意の裏には、やはりオトコがおったのだ。強行突破の気配はすごすぎるエネルギーの反映であった。何もかも氷解の一瞬で、男と女、まさにシンプル。ピュア過ぎるシンプルライフだった。
「ちょっと、ちょっと、のりちゃん。おかしなこと言わないでよ。―――ホント、そうじゃないのよ。いや、違うってば、全くの濡れ衣よ」
千加子は赤くなって慌てて打ち消すが、ダイニングの不信ムードは覆しようがなく、ここは三十六計逃ぐるに如かず、なのだ。
「さあ勉強しなくっちゃ。何てったって、あと一週間だもんね。勉強、勉強」
何とシラジラしい。本人の感覚だから、あとの四人はドッちらけなのだ。千加子が赤い顔のまま逃げるようにダイニングを飛び出すと、
「ウ、ラ、ギ、リ、者ー!!」
弟の仁王立ち怒り声が、姉の背中に突き刺さったのは言うまでもなかった。
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