第4話 エロふー族の脅威
「時間よー! 止まれ! そして神よ、うるわしの乙女に、あと二十日の猶予を与え給え!」
千加子の祈りがこだまする―――はずの、中間テスト十日前。今年はムードがガラリと変わり、祈りの主は超余裕のテスト対策であった。実力アップが急務で、定期テストはお呼びでないのだ。
推薦入試―――ああ! 何と耳に心地よい響きであろうか。然るに、これを目指さぬ身には実力、実力、実力だけが頼りの、何と過酷な日々であることか。千加子の偽らざる心情だが、定期テスト手抜きの居直り、との注釈者(愚弟優一のこと)には迷惑千万で、頭痛の種が〈安眠妨害・朝っぱらから騒音〉なのだ。今朝も洋がダイニングのドアを開けると、
「もう! ママは感じないわよ。息を吹きかけられたって」
「キャー! イヤダッ! ママったら赤くなって、かわいー!」
恵美子の弁解に、千加子がゲタゲタ笑い出す。
「何や! 何や! ママが可愛かとは当たり前やなかか。やけんパパがハウステンボスでプロポーズしたんやぞ!」
わざとまじめぶって、洋が二人の会話に割り込む。洗面終了直後で、メガネ抜きの、すっぴん顔だった。
「キャー! パパもかわいー! メガネをとった顔もジョージさんそっくりじゃん!」
「おいおい、ちょっと待てや。可愛か系じゃなくって、ハンサム系って言うてほしかね。これでも若か頃、佐世保んマダムキラーって呼ばれて、女性にばりもてたんやぞ」
千加子の向かいに座り、焦点ボケのまなこをヌッと突き出し、洋が抗議する。
「キャー! ますますそっくりー! もうやめて、やめてー!」
お腹をかかえ、足をばたつかせて賑やかなことこの上ない。
「ところで、何ん話ばしとったんや?」
洋がようやくメガネをかけた。
「それがね、ひどいのよ、パパ」
恵美子があきれ顔で、千加子のサプライズ体験を夫に伝授する。
「チーちゃん、昨日、早く帰ってきたから、電車は空いていて、女の人五人と、中年男性だけだったんだって。その女性たちにね、長髪の中年オジサンが―――」
「ママ、待ってよー。ここから先は私が話すから、キャハハ」
交代要員が笑いだし、なかなか前に進まない。
「―――でさ、そのオジサン。女の人の横に腰を下ろすと、彼女の耳に、フゥーって、息を吹きかけんの。―――キャハハ」
「チーちゃん、何がおかしいのよ」
「だって、おかしいんだもん。キャハハ」
笑い上戸で、千加子は笑い出すと止まらない。
「でさぁ。フゥーってされた、ボブヘア崩れのおかっぱ髪の中年オバサン。ブルッ! ブルッ! て体を震わせ、『キャッ、キャーッ!!』って立ち上がっちゃったの。逃げ出し方がサー、キャハハ―――」
よほど可笑しかったのか、千加子はテーブルをたたいて涙を流さんばかりである。
「―――そいでね、ククク。二番目の人も三番目の人も、みんなオジサンが横に来ると、フゥーされる前に逃げ出すのよ。私の番が来たらどうしようって、ワクワクしながら期待して待ってたら、向かいのボーイッシュなお姉さんのとこでサー、キャハハ」
夜まで続きそうな気配である。ストレスてんこ盛りで、近頃とみに空想癖がもたげている優一なら、
「な、な、何! エロふー族の出現とな!」
と気色ばみ、箸墓へ至る明日・ひみロードの第四関所突破戦略、〈H作戦〉ゴー! のサインと共に、空想ワールドへ突入である。
「長髪エロふー族は女性を食い物にするエロ族の一派だが、脂ぎった体とカツラ長髪が弱点だ!」
と予備知識を与え、のり子に命じ布団バサミブーメランで長髪カツラを奪い取るのだ。
「おう、おう。さすがのり子中尉じゃのう。LL、L、M、Sのブーメを自在に操りよるではないか。まるで阿修羅像にもう二本、腕を加えた如く、四サイズのブーメを投げては受け、受けては投げる、倍、倍の四人働き忍法作戦をとったか」
「さよう、司令官。とくとご覧あれ」
のり子がブーメを投げるたびに、
「うぉー!」
と、エロふー族はカツラを奪われ悲鳴を上げる。のり子の、二倍! 二倍! の〈忍法四倍作戦〉で、半数のエロふー族は頭を押さえデップリお腹を下に、ピクピクッと倒れ込んでしまった。ハゲ皿が日の光に晒され、脳中枢とエロ源が破壊されるからだが、残り半数は手強かった。ハゲ皿の周りに猛毒カビが生えていて日の光を遮ってしまい、お日様をものともしないバチ当たり猛者どもなのだ。
「竜児。わしの十連キックと、ソチの必殺ミサイル飛び後ろかかと蹴りを、キャツラのブヨどてっ腹に見舞うのだ!」
と、優一が司令官よろしく的確な指示を出し、岡山の山岳地帯で待ち伏せる生き残りエロふー族を撃破する―――空想ワールドのシナリオであるのだが、いかんせん、いまだ優一の登場場面ではなかった。というか、空想ゲームワールドではなくウツツ世界の出来事で、彼を除くファミリー三人の会話場面であるのだ。そう、父の洋がシビレを切らし千加子に先を促す場面であった。迷司令官優一の先走りをお詫びして、コマ(齣)をウツツ場面へ巻き戻させていただきます。
「チー子。自分一人笑うとらんでサ、パパにも笑いん種ば分けてくれんば」
洋があきれながらも、期待に胸を膨らます。
「―――ゴメン、ゴメン。そのボーイッシュなお姉さんがね、ククク。オジサンが横向いてフゥーしようとするとね、ククク。同じように横向いて、フゥーって息を吹きかけたの―――あのときのオジサンの顔ったら、口をとがらせたまま目をむいて。キャハハ―――」
抱腹絶倒の開始早々であった。ダイニングのドアが開いて、待望久しき千両役者が登場し、
「おうおう、今朝の出しものは三条河原の、馬鹿笑い痴女であったか。しかしのう、朝っぱらから大口開けて、悩みというものが無いのでござるか、オヌシには」
神経逆ナデ口上で、倉田家恒例の犬猿舞台の始まり、始まり、である。
「―――ん、ん? いま、何を申されたのかな? ユウ殿。ひょっとして、そこもとは、かの校則で禁止されておる、バイクの免許とやらをお取りになった、ユウ殿ではござらぬか?」
敵もサルもの、ひっかくもの、である。痛い急所を、チクリ、チクリとかき摘む。
「ごめん、ごめんなさい! 拙者が悪うござった。チー殿、ご慈悲を!」
免許攻撃は反則! 反則! と優一は叫びたかったが、
「反則とは、校則に違反することなり。違反せし者が反則を語る、言葉のむなしさよ。―――君の名は?」
悲恋ドラマの著名フレーズ修正パクリ。作文対策に取り入れ成績飛躍向上の千加子には、恰好の反撃材料提供で、攻撃はまさにヤブヘビなのだ。
「チーちゃん。もう、およしなさいよ。ユウも謝ってるんだから」
恵美子が助け船を出してくれるが、
「ママ。ユウを甘やかしちゃダメよ。大体、バイクの免許なんてとると、ろくなことがないんだから。南君みたいになるのが落ちよ。昨日だって学校へのりちゃんを迎えに来てたけど、一体どういうつもりなのよ。のりちゃんを困らせてばかりいて!」
千加子は大手を広げ、弟の助け船への乗船を阻止したのであった。
「アンタ、のりちゃんの幼なじみでしょ! 彼女が困ってんだから、南君とこへいって、もう学校へ来るなって、言ったげなさいよ! 約束よ!」
今朝は優一の完敗だった。千加子はここぞとばかり懸案事項を持ち出し、弟にダメを押す。
「分かったよ。今日、行くつもりだったんだから」
自発の善行決意だったのに、姉の関与で強制に変わってしまった。渋々うなずいたが、優一は反撃の狼煙(のろし)を上げたい気分であった。
―――〈閑話休題〉
さて、倉田劇場の犬猿舞台から、静かというか、静かすぎる舞台へ移らねばストーリーの展開が覚束ないので、「はい! スキップでーす」と、西田劇場へ舞台がグルッと回転します。そうです、主人公五人の一人、のりちゃんの登場です。
千加子や優一、のぞみによって既に一部紹介がもたらされたが、のり子は西田家の長女で、スワンクリーニング店の看板娘―――近隣住民は誰もがみんな知っている。不良バイカーの恋人―――これも誰もがみんな知っているが、のり子と竜児のいきさつは四人を除き、誰も知らなかった。五歳下の妹さつき、父俊夫、母よし子にも、のり子は話していないのだ。
西田家は常盤町で古くからクリーニング店を営み、家系であろうか、代々、庶民的でやさしく、地味で口数も少なかった。のり子も両親に似て無口で穏やかな、どちらかといえばふっくらと美人顔だが、意志は驚くほど強固で、周りの意見に決して左右されない一面を隠し持っていた。祖母のマサノが同じ性格だったから、隔世遺伝ということになるのだろう。
優一は子供心に悩んだものだ。ピカ一の可愛さ、どちらも自分を好いていて、何もかも正反対。将来の結婚相手に迷いに迷ったが、例の野犬事件はほろ苦い選択を余儀なく―――というと、のぞみが怒るが、二つのカップルがここにめでたく誕生したのであった。
のり子が献身的に尽くす南竜児に少し触れると、彼は不幸な生い立ちで、のぞみや優一、のり子と違って恵まれた家庭環境になかった。小学校一年の途中転校で、西九州線の高架を少し下ったアパートが両親と竜児の住み処だった。家庭内の不満をクラスメートにぶつける、腕白で嫌われ者。おまけに粗野で泣き虫。竜児の印象は良いところがなかったが、のり子だけは彼にやさしかった。のぞみは竜児を嫌っていて、
「男らしくないわ。すぐ何かのせいにして、ものごとに主体的に取り組む意気込みが感じられないのよ」
屈折した性格をヤリ玉に上げるが、いかんせん成育環境が悪すぎたのだ。
倉田家のダイニングでチーとユウが犬猿バトル真っ最中の頃、西田家の人々は静かに食卓を囲んでいた。
「‥‥‥ね、のり子。南君にバイクに乗せてもらうん、あれだけは止めんね。担任ん吉田先生から電話があったし、あんただって良うなかことは分かっとーやろう」
よし子が箸を置いて、哀願口調で娘の顔をのぞき込んだ。
「‥‥‥うん」
分かってはいるが、乗らざるを得ないのだ。のり子とバイクだけが救い、竜児は極限寸前まで追いつめられていて、のり子が拒めば父親の二の舞は火を見るより明らかだった。
「一体、どがんつもりなんやろうね。中学んときだって、南君んアパートへ毎日でかけて勉強教えてやったりして。そんおかげで、あんたは塾へ行けんかったやなかか」
母の話はいつも愚痴になる。
「うん」
「あんたはいつもそがんして、『うん、うん』て返事するばってん、お父さんとお母さんの言うことば全々聞いてくれんやなかか。何でそこまでしてやる義理があると? ‥‥‥南君んこと、好きなんかい?」
「うん」
のり子は顔を上げて、母を見つめた。
「ほら、そん顔。亡くなったお義母さんそっくりなんやけん。自分ん決めたことは、テコでも曲げんって顔ばい。‥‥‥ねぇ、お父さん。何とか言うてくれんね」
援護射撃の一つもあっていいと思うが、その気配もなく、よし子は夫がじれったい。
「‥‥‥うん」
気にはなっているが、のり子に限って、という自信めいたものがあり、俊夫は静観を決め込むつもりだった。
「南君はまじめに学校へ行っとーんか」
無難な問いで、のり子に助け船を出したつもりだ。
「さあ?」
のり子は首をかしげた。見張っているわけではないので確かなことは言えないが、多分、行っていないと思う。
「ね、お父さん。南君、ウチでバイトさせてあげられん?」
父は自分の味方で、最大の理解者だという自信がのり子にはある。
「なに言いよっとばい。十分手が足りとーし、それにお母さん、嫌ばい。あがん子に手伝うてもらうん」
娘の提案を、よし子は言下にはねつけた。
「ばってん、竜児にいちゃん。さつきには優しかばい。ようさつきば乗せて、店ん手伝い助けてくるるもん」
妹の、ありがたい援護射撃だったが、
「子供は黙ってなさい!」
母はけんもほろろで、今朝の彼女はとりつく島もない。
「はぁーい」
おずおずとふくれっ面のさつきが可愛くて、のり子は思わず抱きしめてしまった。
母との約束の手前、出来れば今日はバイクに乗りたくなかったが、六時限目の地理が終わりに近づくと、
―――バリッ! バリッ! バリッー!
けたたましいエンジン音が教室にまで鳴り響いた。
「ウチもいじで(随分)レベルが落ちたけんだばい。あがんのに迎えに来てもらうようじゃ」
クラスの視線がのり子一身に注がれるなか、地理担当の尾崎先生が当てこすりの嫌みを言う。東高OBの熱血漢には、不良とのかかわりは堪えがたいことなのだ。
「さよなら」
終礼もそこそこに教室を飛び出し、のり子は校庭へ向かう。一刻も早く、竜児を学校から離したいのだ。
「オラ、オラ、オラ! 邪魔や、邪魔だー!」
バリバリ音を立て、大型のアップハンドルが通用門に居座っていた。
「おーい! のり子。迎えに来てやったぞー!」
グラサンに真赤なマフラー。族(暴走族)のアタマ(リーダー)気どりで手を振っている。
「通行ん邪魔やけん」
先に歩いて、のり子は右手の路地に竜児を誘う。
「竜ちゃん。こがんことしよったら、うち、学校にいられんくなるばい。ばってんよかと?」
ヘルメットをかぶりながら、竜児の顔をのぞき込んだ。
「そうなったらよぅ、二人でマンションでも借って、一緒に働こ」
派手な出迎えは、やはり、のり子の退学が目的だった。
「‥‥‥弱虫」
小さくつぶやいて、のり子は竜児の肩を抱き左足のステップを踏んだ。私は決して、あなたを見捨てたりしないのに。共学校にいても、他の男子には見向きもしないのに、と言ってやりたかったが、言えば茶化すのも分かっていた。スカートのすそを固定するためにも、のり子は竜児に体を寄せ、両腕を回して彼の背中にヘルメットをうずめた。
ジグザグ運転やスピード違反、果ては信号無視まで繰り返し、三十五号線から一般道を抜け、線路沿いのアパートに着くと階段前で優一が二人を待っていた。
「何や、ユウ! どがん風ん吹き回しだ?」
挨拶がわりの急ブレーキだったが、優一は眉一つ動かさなかった。
「‥‥‥こんにちは、ユウちゃん」
額にかかる髪までピリピリの、いつもと違う優一に、のり子は気まずくてぎこちない挨拶だった。
「うん」
ぶっきらぼうに言葉を返し、優一は二人の後からむき出しの鉄製階段を上がっていく。
「入れや」
二〇三号室のドアを開け、竜児もぶっきらぼうに促す。六畳一間の部屋で、万年床に机と小さなタンス、本棚だけが新しかった。ヤニと熱気にむっとするが、言われるまま、優一は黙って布団の横へ歩いた。
「‥‥‥竜児。三人だけだから言うけど、のり子を解放してやってくれよ。もう十分だろ、のり子の借りは」
立ったまま、座って壁にもたれた竜児を睨みつけた。
「藪から棒に何ばい。いっぱしんナイトしこぶりじゃねぇか。だが十年早ぇんばい。大体、のり子はおいん女なんや。おいん女に何ばしようと、おいん勝手じゃねぇか」
竜児はヤクザ言葉をまねて、優一を睨み返した。
「‥‥‥」
「進学率ん高か、お坊ちゃん学校へ入ったけんって図に乗るんじゃねぇぞ! 馬鹿野郎! のり子はおいん女や。おいん言うことやったら何でん聞くったい。ほら、のり子。服脱いでみぃばい。ユウに、わいん裸ば見せてやれや」
竜児は怒りをのり子にぶつける。
「‥‥‥」
立ったまま、のり子はうつむいて困惑顔だったが、
「のり子! 早うせろ。早う脱げや!」
大声で命令されると、夏服のボタンを上から外し始めた。
「のり子! やめろ! やめるんだ! 自分をもっと大事にしろよ!」
失望と腹立たしさが込み上げてきて、優一も命令口調になる。
「お坊ちゃんが、なに甘ちゃんなこと言いよーったい。のり子はおいん子ば、二回も堕ろしてんだぜ」
最後のボタンが外されると、竜児は顔を引きつらせ薄笑いを浮かべた。
「竜児! お前! ―――殺してやる! 殺してやるぞー!」
優一は竜児に飛びかかった。
「おお! 上等じゃんか。やれや、殺してみぃやー!」
大声でわめくだけで、竜児は優一の殴るままだった。
「やめてー! 二人とも、やめてー! お願いやけん―――うう!」
狂気の殴打。無抵抗の竜児。何もかも初めてで、のり子はこぶしを握って大声で叫んでいたが、とうとう泣き出してしまった。
「アンタら! エエ加減にしいや、高校生んくせして! うるそうて勉強で来へんやろ! ちっとは近所迷惑考えや!」
隣室の女子大生が、血相変えて飛び込んできた。
「何が勉強じゃ! メス豚! わいんほうこそ、夜な夜な男ば連れ込みゃがって、こっちが迷惑しとんじゃ! アホンダラー!」
馬乗りで殴られながら、竜児も大声で悪態をついた。
突然の闖入者に水をさされ、優一は竜児から離れたが、ブルブルと体が震えなかなか止まらなかった。
「何ばいぅ! わいん殺すってんは、こがん程度かよー! 馬鹿野郎! 帰れ、帰れー! 二人とも、帰っちまえやー!」
はれ上がった顔で叫んでいたが、言葉の途切れで、虚勢が崩れてしまった。
「うっ! うっ! うっー!」
布団にうつぶし、人目もかまわず、竜児はむせび泣いた。六年ぶりに流す涙は込み上げるほどの激しさで、すべてを吐き出し、熱くて苦かった。
「‥‥‥竜―――」
声をかけようとするが、優一はのり子に止められてしまった。小さく首を振った顔には先ほどまでの涙はなく、口元に微笑さえ浮かんでいた。泣くだけ泣かしたほうがいい、心配ないから。そんな自信が漂っているのだ。
「ユウちゃん、のぞみに言われて来てくれたんやね。―――ありがとう」
アパートを出て、並んで歩きながら、のり子は優一を見上げてはにかんだ。
「‥‥‥」
黙ったまま、優一がブスッとしていると、
「さっき竜ちゃんの言うたこと、みんな嘘ばい。竜ちゃん、うちにまだキスもしとらんばい。一度こっちから迫ったばってん、逃げられてしもうたわ。さっきも、ユウちゃんが止めんの分かっとって、あがんこと言うたんばい。やけんうち、シャツんボタン外したと。どこで竜ちゃんが止めさせるか、見てみたかったと。これで竜ちゃんの気持ち、よう分かったわ。ホントにありがとう」
無口なのり子が、いつになくよくしゃべった。
―――女には、かなわない‥‥‥。
完敗の気分だったが、妙にすがすがしかった。
「それじゃ」
駅へ戻る高架手前で、苦笑しながらのり子に別れを告げると、
(痛っ! ‥‥‥)
振った右手が、急に痛くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます