5話

「こ、ここらへんでいいかな」


「へへ、分かってんな。ここら辺は俺たちのシマなんだよ」


物陰から会話を盗み聞く。


ここら辺はあの馬どものシマらしい。


「で、良いことってなんだろな~?」


「決まってんだろ?今からお前の事を犯すんだよっ!」


そう言うと同時に愛衣の手を掴み服を脱がせようとする。


「そろそろか。全くここの人間は頭にチン子でも生えてんのか?」


「れ、連理君...」


涙目の愛衣を引き寄せつつ男たちと距離をとる。


「あ?なんだお前まだいたのかよ。俺たちは今忙しいんだよ!」


「手短に済ませようぜ」


時間を掛けるのはやめた方がいいだろう。此奴らを片付けても湧いてくる可能性がある。シマだとかなんとか言ってたしな。


先手必勝。手加減も必要ない。


「ぶげらっ!?」


先ずは一人。近くに居た男を殴り倒す。


「なんだてめぇ!!お前らそいつを押さえつけろ!」


「人任せか?だせぇやつだな!」


近づいてきた男に蹴りを入れこむ。


「ぐおっ!?」


想像以上に力を入れすぎたのか吹っ飛んでいく。


後5人か。


思ったより早く終わりそうだな。


「な、なんだこいつ......。お前ら!使ってでも殺せ!」


使うのは異能の事だろう。使えない俺からすると危険な事極まりない。


「れ、連理君!後ろ!」


愛衣から告げられる。と同時に後頭部に衝撃が走る。


「っち!」


「はん!俺たちに喧嘩を売った事後悔させてやるぜ!」


全く気配がしなかったぞ!?


あいつの異能だろうか。厄介だな。透明になっている訳では無いが、後ろに回られるとどうしようもない。


どうするか.....。愛衣を人質に取られるのは避けたい。


考えている内に追撃が来る。


「ったく!多芸な奴らだな!」


次は石が飛んでくる。それも結構デカい奴。当たったら死ぬだろあれ


「きゃああああ!」


愛衣の悲鳴が聞こえる。


俺に当たらなかった石が愛衣に飛んでいく。


護りながら戦うのはコツがいるんだろうな。過去の俺はその経験がないんだろう。身体がうまく動かせない。


「っち!ぐあっ!?」


愛衣をかばい背中に石が直撃する。物凄い衝撃だが、耐える事しか出来ない。


あの気配を消す奴は優先事項だが、石を飛ばす奴もほって置ける奴ではなさそうだ。


仕方がない。被弾してでもあの投擲マンを無力化すべきだ。投げ物は厄介だからな。


「愛衣、俺の背中に乗れ!」


下手に愛衣を置いていくと人質に取られる可能性があるため、背中に張り付かせるのが良いだろう。


「わ、わかった!」


一旦気配を消す奴は無視しよう。


「無駄だ!お前らやるぞ!」


石が飛んでくる。が、石に集中すれば避けるのは難しくない。


「あ、当たんねぇ!?クソっ!来るんじゃねぇ!」


「背中痛かったぜ!」


投擲男を殴り飛ばし戦闘不能にする。暫くは立つことすらできないだろう。


こうなってしまえば後は気配男くらいだ。あの馬は後ろで喚いてるだけだからな。


「どけ!俺がやる!」


意外なことに馬自ら前に出てくるらしい。よほど自身があるのか、異能が厄介なのか、どっちみち警戒するに越したことは無い。


「はっ!」


馬が息を吐くと同時に体つきが変化していく。その姿はまるで獅子のようだった。


見るからに筋力と敏捷が上昇していますと言うような見た目である。


「うらぁあああ!死にさらせや!!」


大ぶりなパンチが来る。当たったら只では済まなそうだ。


「生憎死ぬのは怖いからな、その提案は却下するぜ」


早さも力も相当なものだろうが、避ける事は難しくない。むしろ石を避ける方が集中力を使うだろう。


間合いを管理すれば問題ない。


「愛衣、振り落とされるなよ」


「う、うん!」


背中により強く力が籠められる。


胸が当たっているのは役得としよう。


「力比べか?悪くないぜ」


あえて力比べに持っていくのも楽しそうだ。俺の力を試すのも悪くない。


「はっ!後悔してもしらねぇぜ!!!!」


獅子のごとく跳躍し、目の前に近づく。


「っし!掴んだぜ!殺してやるよ!」


血の気の多い奴だ。


掴まれた腕に鈍い痛みが走る。やはり相当な筋力である。もしかしたら折れてるかもな。


「純粋な力比べじゃ勝てないだろうな」


こっちは異能を使っている訳では無い。勝てることは無いだろう。


ただやりようは幾らでもある。それこそ此奴を殺すことだって難しくないだろう。


「ただ、我慢比べはどうだろうなっ!」


俺の腕を掴んでいる指を掴み、反対方向にひねる。


「んが!?」


「案外簡単に折れんだな」


わずかな力でも指はおかしな方向に向いてしまう。


「く、くそっ!!この野郎絶対殺してやる!」


「さっきから殺すしか言えねぇのか?この猫は」


反射で腕を離したので素早く距離をとる。力比べはもう良いだろう。


もう少ししたら脳内麻薬がキレて腕に鈍い痛みが走るだろう。その前に終わらせよう。


俺は男に近づく。ゆっくりと。


男は少し戸惑っているが、すぐにこっちに向かって肉薄する。


が、男は何もない所で躓いてしまう。


「な、なんだ!?何が起こってんだ!」


「靴だよ靴。お前ひも付きだろ?」


さっき近づいてきた段階で相手の靴紐をほどいておいた。


気づいてなかったみたいだな。


倒れている男に肉薄し、マウントを取る。


「重さは二倍だぜ?」


俺の背中には愛衣がいる為あの力でも簡単に動くことはできないらしい。


「チャンスをやろう。あの店に今後近づかないならここで終わりだ」


口約束に意味は無いだろう。しかし、


「破ったら次は全員殺すけどな」


脅迫の一文を入れることで効果は期待できるだろう。この戦闘で力関係は明白になった。


「ふ、ふざけんな!誰がお前の言うこぶゲラ!?」


殴る。


「いくら殴ってもお前は絶対にころぶげらっ!?」


愛衣が殴る。意外と強かなのか。


俺も殴るけど。



何分経っただろうか、外野の男たちは全員逃げ、馬男は戦意を喪失した。


「ゆ、ゆずじて」


まともに喋ることすらできない程口周りが腫れあがっている。


「お前が近づかないと約束するなら許してやるよ」


「しまず!だからゆるじで.....」


の言葉を吐いたと同時に拘束を解除してやる。


思ったより根性はあったな。時間がかかってしまった。


「行くぞ愛衣」


手早くここから離れた方がいい。人は居ないだろうが、見られて良いもんじゃない。


「う、うん!」


俺たちは急ぎその場を後にした。

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比翼の連理-Lost memories- 寝取られ撲滅協会理事長さくら臀部 @netorarebokumetu

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